アストロメトリイ
「名前、久しぶりの仕事だ、ヘマすんじゃねーぞ」
此方に倒れかかってきそうなくらい傾いた大木ばかりが並ぶ、イルマント森林。
今日はほんとうに、本当に珍しく依頼目当てのお客さんが来て舞い上がったのも束の間。内容を聞いてその場でへたり込んでしまいそうだった。
「わーかってるよー。でも、山に草抜きに行くだけでしょー?なにをヘマするってんだか…」
思っていたよりもしょうもない依頼に私のやる気はガタ落ちで。
何が悲しくてこんなに陰気な森に来なくちゃいけないんだ…。けど、便利屋ってモンはこんなことからあーんなことまでしっかりやるのが商売なんだよね。そうなんだよね。
「雑草抜きなんてそこら辺の業者にでも頼んで欲しいよ…」
「…アホかお前は。この森には最近物騒な奴らが蔓延っているらしくてな。普通の人間は立ち入り禁止だそうだ。」
「物騒な輩?」
「おい、そんなことも知らなかったのか?」
俺の方が知っててどうすんだよ、とかなんとか言いながら尻尾で叩いてくるイオンを押しのけて、ため息ひとつ、渋々草抜きを始めた。
作業を始めて一時間くらい経った頃。
流石に疲れてきたので一休みと称し、その場にごろんと寝転んで昼寝をすることにした。草が靡く程度に吹いている風も素晴らしい。絶好のお昼寝日和だ。
心地よい風に流れた汗も乾いて、少しうとうとしてきたその時。
「名前」
「わかってる」
誰かが、此方に近づいてくる。
絶をしていたのに気付かれる、つまり念能力者かな。それとも特に目的のない、迷い込んだ村の散歩じいさん…。
音を立てないように体を起こし、背中のナイフに手を伸ばした瞬間。
「動くな」
低い声が、頭の上の方で響いた。
いつの間にか腕を首に回されていて軽く締め付けられる。身動きが取れない。
こういう場合は刃物でも突き付けられるんだと思っていたけど、この男は何も持っていないらしい。ちょっと運いいかもね。
「ここで何をしていた」
抑揚のない声音で男はそう言った。ちらりと横を見るとイオンは木に登って私のことを怠そうにじっと見ていた。リスだからってずるいな、アイツ。
「ちょっと雑草を取りに……みたいな、はは。」
「雑草だぁ?」
心底呆れたように言われ、少しカチンときた私は、緩くなった締め付けをいいことに後ろを振り向く。つもりだった。
「動くなっつっただろ。」
どうやら体の自由を許してくれないようだ。何、そんなに顔が見られたくないっての?そんなに残念な顔なの。
「まぁいい。てめぇ、俺のことを知ったからには生かしておけねぇ。ついて来い。」
ちょっとまって下さい。
こ、この人何か勘違いしていませんか。いきなり現れたのはそっちのほうではありませんでしたか。それにアンタのことなんて何にも知らないし!これが俗にいうジイシキカジョーってやつ?
心の中の叫びは届くはずもなく、男はそのまま私を担ぎ上げると、どこかに向かって大股で歩いていく。
あれ、生かせておけないのに今殺さないんだ。ふと疑問に思ったけど、話しかける気力もなく、少し体を捻じって男の顔を盗み見る。
あ、れ。なんだ全然残念な顔じゃないじゃん。ただ、なんというか…眉毛ないね。しかもこの人ジャージ着てるし、もしかして田舎のヤンキー?
気付かないのをいいことにじろじろ顔を見ていると、ひとつわかったことがあった。
私、この人の顔、知ってる。
知っている!ということはわかったものの、どこで見たのかは全く思い出せない。
たしか…なにかの資料に載ってあったような。写真ではなかった、似顔絵だ。
似顔絵を描いてもらえるなんてこの人は割と有名人なのか。そういやアジトって言ってたけどサインとか貰えたりするかな。でもこの人のはいらないや。
段々霧が濃くなっていく風景を見るのも飽きたので、さっきの昼寝の続きをするために軽く目を閉じた。
人の上で、しかも殺すと言われた奴の上で寝るのは我ながら肝が座っているなと勝手に褒め称えていたとき、私を担いでいる男が急に足を止めた。
もう着いたのかな、目を開けてみると前にあったのは建物のようなもの。一言でいえば廃墟。
「」
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