白竜
いつものように帰宅し、いつものように晩飯を食べ、いつものように風呂に入りいつものようにパソコンを立ち上げる。
学校から帰ってきてからの俺のパターンといえば決まってこれだ。前のように近所のやつらと遊んだりはしない。思えばこの習慣を始めてから随分とリアルでの交友関係が狭まったように感じる。我ながら落ちぶれたなと自負しているがまあ仕方がないだろう。
愛しい彼女に会いに行くためだ。
----
[イナナナチャット]
部屋名:愛子待ち
-----
たしか約束していたのはこの時間だ。
ああどきどきする。だがこの微妙な合間の高揚感が堪らなく好きなのだ。はやく来い愛子おおおおお。
-----
愛子さんが入室しました
-----
キ、キター!
荒くなった呼吸を整えてキーボードに言葉を打ち込む。
何度もこうして2人で会話(このさい文なのはどうでもいい)を交わしているのにいまだに最初の話題を持っていくのはまだ慣れない。
もし会話が盛り上がらなかったらどうしようと文には現れない緊張に無意識に指先をこすり合わせてしまう。
-----
ハク:会いたかったよ、愛子
今日も君に会いたくて仕方がなかったんだ
-----
字面だけみればなんてくさい言葉をさらっと言える男なんだろうと我ながら感心してしまうが現実の焦りようったらない。(ちなみにハクというのは俺のネットでのハンドルネームだ。ひねりがないとかそういった文句は今はいらない)
こんな歯が浮くようなセリフに背中がムズムズするし自分がこの言葉を打ったことにかなり悪寒がするが言ってしまったことは仕方がない。
きっと愛子もノリを読んで返してくれるだろう。
今まではそうだったからへんな安心をしていたのだ、が。
-----
愛子:wwwwwww
------
思わず目を疑った。
愛子がネ、ネ、ネットスラングなるものを使うだなんて……。
ネットスラングが悪いわけではないが、愛子が笑いを文で表すときはきまって「(笑)」だった。こんなことで決めるのはおかしいのだが、ネットの何者にも染まっていない感じが俺は大好きだったのだ。
今の俺にはとても下品な笑いに見えてしまう愛子の「w」は俺が手を止めて呆然とモニターを見つめている間にもどんどん画面内に溜まっていく。
や、やめてくれ愛子。こんなの愛子じゃないと頭を抱えてやめろやめろをかぶりをふっていると俺の究極に賢い頭脳の片隅に一筋希望の光が見えた。もしかして愛子は「w」が「(笑)」という意味なのをどこかで知って、それを気に入り使い始めているのではないか、と。新しいものが好きな愛子のことだ、今回もそうなんだろうとさっきとはうってかわって微笑ましい気持ちになりながら返信を返そうとキーボードに指を置くと、先ほどとは比べものにならないくらいの衝撃がモニターを見ていた俺の全身に走った。
-----
愛子:白竜くんマジウケるwwwww
-----
back HOME