雑然とした街を行き交う人々の群れは、さしずめ砂嵐を彷彿とする。

 湖畔あずな(こはんあずな)は、久しく訪ねた土地の風に吹かれた途端、危うくも人酔いしかけた。

 ここは、山々に囲まれてぽつぽつ小さな繁華街のある故郷の駅から、電車に揺られておよそ二時間先のところだ。生まれ育った界隈より、親しい友人達の数は優る。

 何度も迷子になりかけながら、私鉄を乗り継いで、ようやっと、見覚えのある駅に着いた。そうしてあずなは、自ら手がけているインディーズブランド『ドクイチゴ』の洋服の裾を揺らして、うろ覚えの道を歩いていく。

 あずなの今日のワードローブは、くすんだ水色のフリルスリーブのブラウスに、綿混ラッセルレースの五分袖のボレロ、淡い水色の地に、差し色の効果抜群のネイビーとサーモンピンクの小花柄が散りばめてある、フリルスカートだ。オフホワイトのパニエのレースが、四センチほど覗いている。肩に触れない程度のピンクブラウンの髪を飾ったキャノティエも、ガラスビーズのチェーンの先で樹脂粘土のインコが揺れるネックレスも、お袖留めや靴下留めも、可能なものは全て手製だ。パラソルは、今、これから訪ねてゆく家の主にもらったものだ。重たいほどのフリルやレース、リボンがあしらってある。

 ややあって、否、おそらくかなりの時間をかけて、目的地が見えてきた。







 あずなが『ドクイチゴ』を始めた頃、その無名の個人製作ブランドのオフィシャルサイトは、閑古鳥が鳴いていた。
 ロリィタとは、魂の自由性こそ重んじられるファッションだ。されど当時は甘ロリィタやらデコロリやらもなくて、今ほどバリエーションに富んだものではなかった。あずなの好むクラシカルロリィタも、ごく少数の乙女達に好まれていただけだった。それが原因か知らないが、『ドクイチゴ』の売り上げはゼロだった。あずなの冒険心が働いて、ベーシック路線のアイテムを発表するようになって、初めて問い合わせがあったものだ。

 真っ白なロリィタ服だった。一見ありがちな無難なデザインで、どこへ着用して出かけても様(さま)になる、豪奢で可憐な秋物のワンピースだった。それでいて、真っ白だからこそ、さり気ないところで遊び心を活かせられたのではなかったか。

 その一着をオーダーしてくれたのが、文月乙愛(ふづきおとめ)、この町に住む女子大生だ。今ではあずなの友人だ。

 あずなは乙愛と、意図して顔を合わせるようになったのではない。あるイベント、その名も「乙女の避暑」という宿泊制のお茶会に参加したのがきっかけだ。そこでたまたま、『ドクイチゴ』の洋服や小物を取っ替え引っ替え身につけている少女にまみえたのだ。

 乙愛は、この喧騒とした町らしくない、静かな住宅街に住んでいる。車も滅多に通らなくて、家並みは互いにその外観が調和していて、まるで一つの絵が完成している。あちこちに植え込みや街路樹があって、季節ごとに、それぞれの情緒が見られるものだ。

 あずなは、乙愛の起臥する邸宅の前に足を留めた。これで二度目の訪問になるこここそ、今日の目的地だ。

 その家屋は青い三角屋根に白い壁、小窓は枠に小さな観葉植物が飾ってあって、内側にレースのカーテンがかかっているのが見える。それを囲うようにして、こまやな草花の繁る可憐な庭が広がっていた。あずなのすぐ真ん前の門は、作り物の薔薇の蔦が絡めてある。

 チャイムを鳴らすと、聞き覚えのある、ほんの少し粘っこいアルトの声が聞こえてきた。その声質は、相も変わらず優しげで、それと同時に気難しそうだ。

 「湖畔です。乙愛ちゃんにオーダーのお品物を──」

 届けに来ました、と、言い終わらない内に、扉が開いた。

 門と庭を隔てた先から、長い黒髪を一本のお下げに結った女が一人、駆けてくる。

 粘っこくて低い声、黒髪のお下げに黒渕眼鏡、そうしてとことん型の古い洋服に身を固めた女が、門の鍵を開けてくれた。この家の主の妹、神無月澄花(かんなづきすみか)だ。

 「ご機嫌よう。お待ちしておりました、湖畔様」

 「おはようございます。あの、走ってきて下さって有り難うございます。でも急いでいませんから大丈夫です。それと、私、澄花さんに敬語を使っていただく必要はどこにもなくて」

 「ああ、そうでしたね。湖畔様は昔のお客様ですから、癖でつい」

 「いつもどうも。お久し振りです、澄花さん。乙愛ちゃんは──」

 「湖畔さん!?」

 あずなの声に、凛としたソプラノの声が被さってきた。

 妹とは似ても似つかない。その声は、天にも届きかねん崇高な響きがあって、芯があるだけではない、耳を傾けているだけで魂が洗われるような、白より白いものを孕んでいた。

 澄花の肩越しに、絵本から抜け出してきたような家から、また別の女が一人、颯爽と歩いてくるのが見えた。
 切れ長の目許に清冽な色を称えた黒い瞳、ほんのりオレンジのチークが浮かんだ頬は白くてシャープで、肩にかかったシャギーの金髪はさらさらだ。女を形成しているパーツはどれも端麗で、そのバランスにしても非の打ちどころがない。たおやかで、それでいてどこか中性的な雰囲気があって、黒を基調としたゴシックパンクスタイルが、その艶やかな風采によく馴染んでいた。

 この女こそ、澄花の実姉、この家の主だ。そして乙愛のパートナーだ。

 「遅かったじゃない。乙愛は学校行ったよ」

 「ええっ?!」

 「携帯、ご覧?」

 「…………。…──はわっ?!」

 そこそこ早く家を出たのに、昼過ぎだ。

 あずなは、本当に迷っていたらしい。乙愛が午後から学校だと聞いていたから急いできたのに、こんなことならもっとゆっくりすれば良かった。

 「方向音痴は変わらないね。湖畔さんのそういうとこ、ほんとに可愛い」

 「喜んで良いんですか?」

 「湖畔さんと出逢ったのは、二年前。君が「乙女の避暑」に参加してくれたのがきっかけだった。あの時も、君だけホテルの中で迷って遅れてきたね」

 「ごめんなさいごめんなさい!!」

 「遅れてきたシンデレラみたいだったよ。良かったじゃん。今日、王子様とは会うの?」

 「夜、ちょっとだけ」

 「んまぁっ、どなたもこなたもふしだらね」

 「澄花!」

 騎士の装束をした天使が、一瞬だけ、とり乱したみたいに見えた。気の所為か。

 数秒後、あずなは世にも綺麗な微笑を見た。

 「入って。乙愛が帰ってくるまで、お茶の相手でもしてもらおう」







 
 あずなは純に招かれて、リビングに通された。

 ふかふかのソファに腰かけて、 純が一端出ていったところを待っていると、ややあって、甘い匂いを伴った、紅茶独特の渋い匂いがたなびいてきた。

 水出しアイスティーとパウンドケーキが、猫脚のアイボリーのテーブルの上に並んだ。

 あずなの前に、純が優雅に腰を下ろした。その物腰は、なるほど、さすが、かつてはロリィタのカリスマを演じて生計を立てていただけのことはある。

 「湖畔さんは、どうしていたの?変わりなくお仕事と製作の毎日?」

 あずなは頷く。そうして、純の歌い手としての最後の活動となった「乙女の避暑」に参加していた顔触れを、頭の中に並べてゆく。

 「神無月さんはお歌の講師に転職されて、乙愛ちゃんは、まるでシンデレラ。田中希一(たなかきいち)は警察を辞めてコンビニ店長になったらしいし、澄花さんはイベント企画会社の重役でしょ。私だけです。田舎にこもって、止まった時の中にいるみたいにうだうだしてるの」

 「里沙さんも、特別に何かあっただなんて聞かないけど」

 「女に対して寛容になりました」

 「良い傾向だ」

 「そういう意味ではありません!」

 あずなはパウンドケーキにフォークを突き刺す。

 松井里沙(まついりさ)。

 彼女こそ、あずなの唯一無二の親友だ。

 あずなが里沙と出逢ったのは、やはり純の主催した「乙女の避暑」だ。たった一週間の内に仲良くなって、互いにそれまで他人に打ち明けたことのなかった心中まで、話せる間柄になった。

 里沙は、生粋のクリスチャンだった。恋人は神様だ、生涯を捧げたいのは神様だ、と、繰り返していたような女性だ。その純粋さと言ったら、いっそ呆れるほどだったが、笑い飛ばせないものがあった。それなのに、里沙は最近、この世が愛で溢れ返ることこそ神の意思だと考え出して、勤務先のスタッフやら客やらに、やたらと優しくしていると聞く。

 「里沙の交流関係にとやかく言える筋合いありませんけど、毎日メールしている私の身にもなって下さい。この前なんて、飲み会で終電がなくなった新人の子を家に泊めて、ベッドまで貸してあげたそうなんです」

 「親切だね」

 「あの子、誘惑されても気付かないタイプなので、心配です」

 「乙愛とおんなじか。湖畔さん、松井さんのこと好きなら苦労するでしょ?」

 「…──っ」

 かくもさらっと問われると、面食らう。純の言う、好きという言葉のニュアンスが、胸の奥に突き刺さる。

 「──……。神無月さん達は、達者でしたか?」

 「乙愛は元気。もっとも、来年は卒業だから。英語の単位がとれなくて、近頃は猛勉強してる」

 「神無月さん達って、言ったんですけど」

 あずなはそこではっとした。

 つい、心根が声音になってしまった。

 「……湖畔さん」

 気まずい。あずなが純から目を逸らせたところに、やはり、神さびたソプラノの声に呼ばれた。

 「乙愛が君を特別に思っている気持ちが、分かる」

 それは存外の言葉だ。突拍子もない純の言葉は、いっそ嫌味にも聞こえる。

 「特別なのは、神無月さんです」

 「──……」

 「乙愛ちゃんから聞いています。今日、私が宅配したお洋服だって、神無月さんから乙愛ちゃんへのプレゼントでしょ。神無月さんは世間で人気どころの騒ぎじゃないのに、それでも誰も乙愛ちゃんを羨まないのは、二人が幸せそうだからです」

 心からの本音だ。

 あずなはあのお茶会に参加していた時から、節々で、純と乙愛の間に、他人に入り込めない結びつきを感じていたものだ。心から乙愛を応援していた。あずながそうであるように、誰だって、二人の仲を認めないはずがない。

 「そうかな」

 純の目が、切なく揺れた。

 「あの時、君を殺せていたら、やっぱり楽だったかも知れない」

 「──……」

 純の淡々とした口調は普段と何ら変わりない。それなのに、乙愛に対する執念にも等しい感情と、悲しみにも通じよう怒りの情念を感じられる。

 純は、完璧なのに完璧ではない。あずなは純を見ていて、今日までにもたくさん、根拠もなくそんな気がした。

 「私もあの時、ひと思いにやっていれば、こんなに悩まなくて済んだでしょうか」

 あずなは、かつて純に殺されようとしたことがある。結局は純の仕掛けた茶番で、睡眠薬を身体に打たれただけだった。
 片やあずなは、あの時、本当に純を殺すつもりでいた。自己防衛のためではない。乙愛のためだ。美しい少女を剥製に変える、純の恐ろしい所業を知った。実際に被害に遇ったのは、余命僅かの純の信者と自殺志願者の二人だけが、許せなかった。屍でも、純が乙愛以外の少女を愛でることが許せなかった。

 「何に、怯えてるんですか?」

 「君の光」

 「──……」

 あずなは真顔の純の言葉を、ますます理解出来なくなった。

 「湖畔さんの美しさの前では、私なんて敵わない」

 「何ですか、それ」

 あずなはアイスティーを啜って喉を潤わせると、再三、純に向き直る。

 「今の言葉、外で仰ってきたらどうですか?神無月さん、整形希望の女性やブサ男に袋叩きにされますよ」

 そこまで言って、口を噤む。

 これでは、純を宥めているのと同じだ。

 ただ、あずなは、何がどう転んでも、純に牙を剥けない。乙愛が大切だからだ。乙愛の愛し必要としている人を、傷付けられない。
 もとよりあずなは、純を尊敬している。考え方こそ違っても、クリエイターとして、未だかつて彼女ほど関心をそそってくれた人はいない。

 「私が乙愛ちゃんを好きだからって、横取りを企んでいるとでも?」

 「まさか」

 「──……」

 「私は乙愛のパートナーとして、お継母様公認でもあるんだよ」

 ただ、と、純の顔に弱い微笑みが浮かぶ。

 「乙愛と君を見ていると、妬いてしまう」
  






 あずなは、乙愛が神無月純という存在を好いているのに気が付いていた。乙愛がオーダーしてくれていた『ドクイチゴ』の製品は、見事に白ばかりだったからだ。

 純自身は、クールでどこか退廃的な、フェミニンにもボーイッシュにも見える装いを好む。一方で、純が乙女のカリスマを演じていた頃、その営業中の風采は、喩えるなら、天使だった。長い金髪のウィッグに白いゴシックロリィタ服に白いリボン、それが、まことしやかに囁かれていた、実際全くその通り、ステレオタイプの純だった。

 乙愛は純粋で、優しく、時に強く時に弱い。

 あずなは、そんな乙愛の側にいたかった。あずなは乙愛を顧客として重んじていたところがあるが、実際に会って一緒に過ごして、そういうものを差し引いて、彼女に惹かれていったものだ。
 里沙に一目惚れしたこともある。それでも、未だあの優しい人に対する胸の顫えを認められないのは、乙愛を差し置けないからだ。

 女(おとめ)は、皆、誰かのドールかも知れない。

 純は彼女のフリーク達を、否、女という存在全てを、美しいドールと考えている。

 あずなも同じだ。

 『ドクイチゴ』の路線を二つに分けて、それらの内の一方を、あずな自身は袖を通さない、あまりにベーシックなスタイルにした。生身の少女をドールに見立てて人形遊びをしたいという、願望からきたものだった。

 あずなが乙愛に白いドレスを提供すること、それは、乙愛の純に対する想いを肯定していることになる。今でも同じだ。純は美しいものを美しいと認められる乙愛が好きで、あずなは、その手助けをしている。

 自虐行為も良いところだが、それは純にも通じる。

 あずなが乙愛に白いドレスを提供すること、それは、乙愛を、あずなの魂(こころ)で包んでやっていることになる。

 「ごめんなさい」

 何に関して謝りたいのか、自分で自分が解らない。

 「……ごめんなさい、神無月さん」

 本当は、分かっている。純を尊敬しているなんて、出鱈目だ。妬んでいる。
 姿や声の美しさとは、不安定で脆弱なものだ。純がただ美しいだけの歌姫なら、これだけ憎くは思わなかった。
 純は、魂が眩しすぎる。花は踏まれれば萎れてしまう。この女性にはそれがない。穢れても、穢れても、こまやかで澄んだ魂は、あのドールを惹きつける。そこには、あずながどれだけ努力しても手に入らないものがある。

 誰かに妬いたり苛立ったり、初めてだった。あずなは乙愛に出逢うまで、そんな感情を知らなかった。余計に戸惑う。あずなから醜い感情を呼び起こす原因となる純に謝るしか、この思いのやり場がない。

 あずなの手に、つと、純の指先が触れた。

 「湖畔さんのそういうとこ、やっぱり好き。君じゃなくて、乙愛に妬いてしまいそう」

 「はい?!」

 「綺麗事とか、上部だけのことを言う妖精さんじゃないから、尚更。貴女の美しさが、私には本物に見えるよ」

 真っ直ぐな瞳に見つめられて、刹那、胸が妙な音を立てた。

 ああ、だから、殺せないのだ。法や道徳を怖れてではない。あずなは純に、乙愛に対するのはまた違う、好意がある。

 「……好き」

 後ろめたい思いではない所以、小さな小さな呟きは、すっと喉を通り抜けてゆく。

 「好き。乙愛ちゃんを幸せにしてくれる人は、神無月さんじゃなくちゃいや」

 純の顔が綺麗に弛んだ。

 乙愛がどきどきするのが共感(わか)る。純に殺められた野原すずめ(のはらすずめ)の剥製が、この世の全ての幸福を抱き締めたみたいな顔をしていたのに得心がいく。

 誰からも愛される目前の天使は、きっと生来、才能やら名誉やらに無頓着だ。たった一人の乙女(ひと)を愛する、それだけを望んで生きてきたのだ。

 「湖畔さん、今日やばいよ。可愛すぎ」

 「乙愛ちゃんに言いつけますよ」

 二人して、笑い合う。仲の良い友達同士みたいな雰囲気が、部屋中に満ちる。

 ずっと物足りない日々の中にいた。あずなは、当分この先も、こんな思いを持て余して生きてゆくのか。乙愛の一番になれなくて、里沙との感情の温度差も、考えるだけ虚しくなる。
 ただ、自分自身だけは思い通りに動かせる。今日までの日々に欠けていたものがあったなら、つくれば良い。欲しいものがここにないのは、環境や運の所為ではない。まだ今は、欲しいものを掴み取れるだけの器量が備わっていないだけだ。

 あずなは、少なくとも今は、大切なドール乙愛の笑顔を護ってくれる、純という存在が必要だ。純がいてくれさえすれば、このもどかしさも慰められよう。

 「湖畔さんって、歌、上手かったよね」

 折角のパウンドケーキに舌鼓を打っていると、またしても突拍子のない科白が耳に触れてきた。

 「見かけは可愛いロリィタちゃん。型破りなのはともかく、妖精さん。けど、色んなとこで、私よりパワフル」

 「どうせ品なんてありませんから」

 「『乙女の避暑』で、三日目の夜だったかな。皆でカラオケ行った時、湖畔さん、アイドルも演歌も洋楽も、ノリノリだった。アドリブ万歳って感じでさ。何とかっていう歌劇の歌は、湖畔さんが男役で、松井さんが娘役。二人共、服装は逆だし、あれ、全然知らない歌なのに、実は泣きそうになっちゃった」

 「ただのノリです。里沙も私もノっちゃってまして」

 「曲の終わりでキスされたのも、ノリ?」

 「…──!!」

 「またカラオケ行きたいよ。乙愛は恥ずかしがり屋さんだし、つれなくて。私、仕事で歌うよりカラオケの方が好きなんだ。ある人と、よく行ってたのを思い出す」

 「──……」

 そこを持ち出されると辛い。

 あずなは事情はよく知らないが、その昔、純はある女性と交際していたという。今は亡き乙愛の生母だ。純は乙愛を知っていて、あのドールに名前を付けたのも彼女自身だ。乙愛の母親とは、彼女がこの世にいた最後の瞬間まで愛し合っていた。純が歌い続けていたのも、全ては件の女性のためだ。

 「一生を乙愛ちゃんに捧げるって言えるなら、考えます」

 「言えば良いの?今朝も言ったばかりだけど、分かった、君の前で言えってことか」

 真っ直ぐな純の二度返事を受けて、やはり、とあずなは心の中で告げる。

 貴女になら、乙愛ちゃんとの未来をあげても良い。







──fin.
妖精カテドラル