卯月の地上は、春の息吹があちらこちらに見かけられる。
空は蜜色をしたためた青が広がって、街は、春の到来を待ちきれないのだろう人々が、明るい装いに彩られていた。
少し前まで極寒だったのが嘘だったのではないかと疑るほど、そこかしこがほのぼのしていて華やいでいた。
ここ、街の外れにある某私立大学は、とっくに試験やら卒業式やらが終わった後で、どことなく火の消えたような侘しさがある。それでいて、例に漏れなく浮かれた風が、そこはかとなく漂っていた。
後藤音生(ごとうねお)は、この大学の二回生だ。今まさに春休みの真っただ中だが、週に二回、登校している。音生は美術部に所属していて、その集まりに出ていたのだ。
音生は、その日も、本館より東の棟の、美術部の部室を訪ねていた。
春休み中でも、身なりはきちんと整えていた。
一重の目許は付け睫毛で二重に矯正、淡いブラウン系の化粧で目蓋に陰影をつけて、頬に仄かなピンク色を刷いていた。そしてホワイトブロンドの長い髪は、両サイドをこめかみから細い三つ編みを垂らして、今日は薔薇のリボン刺繍の入ったオフホワイトのくるみピンを留めていた。洋服は、同じくオフホワイトと生成が基調のワンピースだ。身頃はダイヤ柄のジャガードで仕立ててあって、センターにころんとしたリボンが縦に並んでいる。肘から広がる姫袖は、肩からシフォンに切り替えてある。スカートは、ふんだんにギャザーの寄ったフリルが重ねてあって、袖と同じくシフォンで出来たウエストリボンは脚がアシンメトリーになっていた。フリルスカートのあちこちに、共布の薔薇が咲いていた。
音生は、気心知れた部員達と談笑しながら、今日の課題の果物をデッサンしていた。
昼休みになった時、部室に、顔も名前も知らない上級生が訪ねてきた。
上級生は、名前を新居まなび(あらいまなび)といった。三回生だ。
まなびの長い黒髪は耳の近くでツインテールに結ってあって、日本人らしい清楚な顔つき、その目許には、薄いフレームの眼鏡が合わせてあった。声は、見かけから想像出来るより低かった。それでもその落ち着きのあるトーンは、まなびの知的な雰囲気にしっくりしていた。装いは、ハートの透かし編みのボレロに白いブラウス、裾に筆記体のアルファベットの刺繍の入った、ブラウンのプリーツスカートというものだ。
音生は、そのたった今まで名前も知らなかった上級生に指名されて、中庭に出た。
中庭は、こんなに日向ぼっこ日和だというのに、ひとっこ一人いなかった。音生とまなびの二人だけだ。
「突然、押しかけてごめんなさいね。改めて自己紹介させてもらうと、私は英文学部にいるの。学生行事の実行委員でもあるんだ」
「それで、春休みにご登校を……」
音生は、当たり障りのない相槌を打った。
学生行事の実行委員は、この時期、入学式やら新入生歓迎会、そしてオープンキャンパスに向けて、大忙しのはずだったのだ。
「ご名答。ただ、今日登校してきたのは、後藤さんに用があったから」
「用、ですか……」
「私、たまに貴女を、全学部共通の選択科目で見かけていたの。可愛いロリィタちゃんだな、って。私にとって後藤さんは、初対面ではないわけね。あ、それで、つい馴れ馴れしくなっちゃうんだけど……」
「あっ、いえいえ」
「気を悪くしていたら、ごめんね?」
音生はまなびに首を横に振る。
音生にしてみれば、まなびが初対面であることに変わりない。それでも同じ学部に属しているなら、どこかで会っていても肯ける。音生は、まなびが一方的に自分を知っていてくれて、こんな風に話しかけてきてくれたことに、いやな気はしない。
「大丈夫です。却って私、同じ科目をとっていたのに、先輩のこと覚えていなくて、なのに覚えてもらっていて、申し訳ないくらいです」
「いえいえ」
まなびに屈託ない笑顔が浮かんだ。
一瞬、その優しい顔が、誰かのそれに似ている気がした。
「私、後藤さんに、うちに遊びに来てもらいたいんだ」
「えっ」
いきなり、遊びの誘いか?それにしても何故、家なのだ?
音生は、存外にフレンドリーな上級生の誘いにたゆたった。
「私、一ヶ月前のバレンタインデーに、妹から欲しくて欲しくて仕方なかった参考書をもらったの。今や絶版の逸品。英文法の、日本人の目線で研究された考察が記録してあって、すごくレアなの」
「そんなものが手に入ったんですか?すごいですねぇ」
「お返しは、私も今年は奮発したいと思った。それでネットを巡って、可愛いお人形さんを探していたの。甲斐あって、やっと見付けた」
「妹さんは、お人形がお好きなんですか?そのお人形と私がおうちにお邪魔するのと、どんな関係が?」
音生は、本当に何気なく質問していた。
まなびがネットで目ぼしい人形を見付けたものの、何体かある内どれにしようか考えあぐねて、相談したがっているのかも知れない。
そんな予測が、真っ先に頭を過っていった。
ところが音生は、まなびの口許に、さっきまでの優しい感じとは打って変わった不適な笑みを垣間見た。
「……後藤さんって、レズビアン専用出会い系サイト『ラブフィールド』の常連でしょう」
「…──!!」
音生の真ん前に、まなびが携帯電話が突きつけてきた。
液晶画面に、見覚えはあった。
音生が昨夜、自慰のおかずにしていたチャットの二人部屋だ。
音生は昨夜、いわゆるメールエッチのチャット版を楽しんでいた。
イメージプレイが許可されているチャットルームにアクセスして、そこで「のえ」という少女に出逢った。のえの寄越してくるサディスティックで淫靡な命令に従って、その状況や感想を、ことこまかに報告していたのである。そこはパスワードのかかっていない部屋だった所以、二人のやりとりを第三者に覗かれている可能性もあると思うと、いっそう燃えた。
「のえは、私の妹の名前をもじったの。新居おのえ。同学年だし、知ってるよね?」
「はい……あっ、このことはっ……」
「何?」
まなびが涼しい顔をして、携帯電話をバッグに仕舞った。
「誤解です。本当に誤解ですから、それが私だと、誰にも仰らないで下さい」
「もちろん」
但し、と、まなびの指先が、音生のスクエアカットの襟ぐりから覗いた鎖骨に伸びてきて、つつ、と這った。
「ホワイトデーのお返しに、後藤さんが妹のお人形になってくれたら、昨夜のことは他言しない。ついでにオフラインの割りきりSMパートナー募集の掲示板で見かけたバックナンバーも、見なかったことにしてあげる。それは交換条件だよ。私は貴女が気に入った」
「それって……でもっ……」
「実は、妹、このチャットを全部見てたんだ。この子で良い?って訊いたら、十分だって」
「…──!!」
「後藤さん、おのえなら絶対、後悔しないって。あの子は可愛い顔してるけど、マゾヒストが泣き叫んで許しを請っても、骨の髄まで虐げたがるサディストだから」
「──……」
音生は、まなびの悩ましげな声色にではない、その誘惑的な話の内容に、身体が疼く。
* * * * * * *
音生がまなびに例の頼みごとをされてから、数日が経った。
今日は、ホワイトデー当日だ。
音生は日が暮れかけた頃、まなびに預かっていた地図を頼りに、彼女が家族で暮らしている一軒家を目指していった。
装いは、まなびの指定に従った。あの日と同じ感じの白が基調のロリィタだ。まなび曰く、本当に生きたドールみたいで、おのえが喜ぶだろうということだった。
家は、ごくごく普通の外観、内装だった。
音生が緊張した指先でチャイムを押すと、何度かすれ違った覚えだけはある同級生が、迎えに出てきてくれた。
おのえは、格好良いとも可愛いとも形容し得る雰囲気だ。
奥二重の目許はどことなく甘ったるい感じがあって、優しい眼差し、通った鼻梁にふっくらした薄い唇、髪はショートより長いくらいで、ほんのりブラウンの艶を帯びている。まばゆい素肌に、掠れ一つないメゾの声、そして装いは、白いリボンタイ付きブラウスに、チャコールグレーの地を黒いメリーゴーランドの柄で埋め尽くしてあるジャガードのベスト、それからサイドが編み上げになった黒いハーフパンツに、ダイヤ柄のバルキータイツというとり合わせだ。
「後藤さんと、実は話してみたかったんだ。姉が目をつけてくれたのは偶然だけど。可愛いから目立つもん」
「可愛いのは、お洋服だけだわ。……話しかけてくれれば良かったのに」
「急に話しかけても、ただの不審人物だと思って。でも、本当、こんなことならもっと前から知り合いたかった」
「──……」
音生は、わけもなくどきどきしていた。
おのえの部屋に通してもらって、今、存外にフリルやレースがふんだんにあしらってあるカーテンやら寝具やら、ぬいぐるみやらで彩ってある華やかな空間で、二人きりでお茶をしている。まなびや両親は不在らしい。
ただそれだけ、とりとめない話をしているだけだ。これから、まなびの話していたようなことになるとは限らない。
だのに、言葉に出来ない期待が胸にまとわりついて、離れてくれない。
「あ、私、あんまり見られると、恥ずかしいかも……」
音生はカップを両手に包み込んで、また一口、紅茶を味わう。
ふっと、おのえをとりまく空気が変わった。
「そろそろ、終わりにしよっか」
「え?」
音生が首を傾げると、おのえの綺麗な瞳に捕らわれた。
白いドレープの入ったスカートに、おのえの片手が伸びてきた。
フリルとレースの重なった裾をまくり上げられると、ドロワーズもパンティも着けていない下半身が、すぅっとじかに空気に触れた。
音生は、白いロリィタ服を自ら脱いだ。おのえに命じられるまま、クッションで腰を浮かせて仰向けになると、脚をM字型に開いた。そうして、自分で自分の左胸の乳首にバイブレーターを、右側のそれを指先でしごいていた。
音生の、薄い陰毛に囲われた膣口が、白熱灯に、ありあり照らし出されていた。
「音生がいつもやってる通りで良いよ。下着もつけないで外を歩いて、すれ違う人間の目に触れる度に、気持ち良くなってたんだろ?」
「違うの……、下着は、はぁっ、新居先輩に頼まれて……ぁっ、……」
音生の肩が竦んだ。膣口が何か固いものでぶたれて、吃驚したのだ。
おのえの手を見て、それが竹製らしき乗馬鞭だったのだと分かった。
「手、喋ってないで動かせよ」
「ぅっ……はぁっ、でもっ……」
「バイブ、クリに当てれば?音生はそんな上品なのより、野生の雌みたいな一人エッチの方が似合ってる」
「はうっ、あっ、はぁぁんっ……」
陰核を竹棒の先で撫で回されて、下腹部がじんじん顫える。
音生は、竹棒が離れていくと、そこにバイブレーターの先をあてがった。振動レベルを最大にして、すっかり敏感になったところに押しつけた。
「そうそう。バイブ、押さえたまま動かして」
「ええ、……あっ、あああっ!!ダメ、やっぱ……あっああっ……」
「離すなよ。音生のいやらしいとこ見ててやるから。腰振って鳴けば楽になるよ」
膣口に、息が吹きかかってきた。
音生は泣きそうになりながら、振動しているバイブレーターで陰核のマッサージを続ける。
「はぁ、もぅダメっ、んん、気持ち良い……おかしく、なっちゃ……あぁあんっ、あっはぁっあっ……」
「バイブ、突っ込めば?」
「新居さんのが、良い……あっ、あっあっあっ!!ああっ……、…──?!」
音生の顎が、すっとおのえに捕らわれた。
「音生、それが人にものを頼む態度?」
「え、……ん、んふぅっ……」
「君は私の奴隷だろ?ご主人様って、呼ばなくちゃ」
「あ……あぁぁ……」
返事は、と、内股に平手打ちの快感が走った。
電源の切れたバイブレーターが、寝台の下に転がっていった。
音生の片手におのえのそれが重なってきて、唇をキスで塞がれた。小鳥みたいな口づけは、瞬く間に濃厚なそれに変わっていった。
音生の胸やら腹やらが、おのえの指先にまさぐられる。そうしながら唇を舌でなぞられて、とろけんばかりの質感のある熱いそれが口内に入ってきたのを受け入れた。音生はおのえのキスに応えながら、貪るも同然に、もっともっとと求めながら、この美しい同級生にすり寄る。
甘美な水音を奏でていた唇が、離れていった。
音生の顎に、糸の切れた唾液が付いた。
「エロい顔。美しいものや可憐なものは、感覚が備わってこそ価値がある。ビスクドールはただの偶像。私が好むのは生きた人形。音生みたく、ドレスの中身も従順な、誤魔化しの効かない白の似合う雌は格別」
「白を、よく着ているだけです」
「私が音生を見かける時は、いつも白」
「偶然ですね。私は、ご主人様を見かける度、格好良いと思っておりました……」
音生の今にも嬌声に変わりそうな吐息がこぼれた唇に、また、しっとりしたキスが重なってきた。今度は触れただけだった。
「音生も私を見てたなら、初対面じゃないってことだ」
「はい、……多分」
「じゃ、遠慮はいらないね」
音生が頷きかけると、おのえがさっと離れていった。
おのえはすぐ戻ってきた。その手に、白い縄が握ってあった。
「音生」
「…………」
「君は私のお人形。心も命も預かるよ」
「私のものは、貴女のものです」
音生の視界が閉ざされた。やはり白いスカーフを巻かれて目隠しされたのだ。
音生は、両手首を一本目の縄で縛り上げられた。音生の自由をなくした両手は頭上に持ち上がった状態で、寝台の天蓋から吊るされた。それから今度は、二本目の縄が上体に巻きついてきた。胸が突き出るように縛られて、あばらの辺りまで圧迫されて、その間に通った縄が、最後にホルターネックになって、首の後ろで固定された。更に開脚させられた。太ももとふくらはぎに何重にも縄が巻きついてきて、その端を左右の肩に各々繋がれると、身体がほとんど動なくなった。首だけ回せる。
「はぁっ、あ……」
視界は閉ざされているのに、おのえの視線は肌に感じる。
音生は、さっきにも増して息が荒くなっていた。
乳首がぱちんと弾かれた。音生の蜜壺が、おのえの悩ましげな動きをする指先に、卑猥な水音を奏でられる。
視覚が奪われた分、ほんの小さな風にまで、びくんとなる。
「これでもう動けない。音生?私は、私のためにどんなことでも耐えたがる奴隷ほど、愛おしくなる」
「大丈夫です……。むしろ、この間のイメプレみたいなことを、実際にしていただいても、嬉しいです」
「あんな生ぬるいものは興味ない」
耳許に、くすぐったい息がかかった。メゾの声の囁きは、媚薬みたいに官能的だ。
音生がうっとりしていると、乳首がクリップにつままれた。ひんやりした質感に吃驚して身体をよじると、続いて二の腕、下腹が、血圧を測る機器に備えてあるようなものでくるまれて、内股が、乳首と同じクリップにつねられた。
「…──!!」
内股が、ちくりと痛んだ。それから陰核に何か塗られて、やはり針で刺される痛みに襲われて、数秒、陰湿な激痛に侵された。
「何、ですか……?」
「薬。痛いとか怖いとかで気絶されて、いちいち起こすの面倒だから」
「っ、……」
音生は、おのえの説明を理解するより早く、自分の身体に薬の正体を知らされた。
全身を犯されているようだ。言い知れない淫猥な欲望が、内側で暴れ出していた。
「や……くる……きてる……ぅっ」
音生の胸が鷲掴みにされて、さっき器具を取りつけられた全てのところがびりびりし出した。
電流を流されたのだ。ただ、イメージしていた電気責めとは違う。とめどない静電気が散りばめられているくらいのもので、むしろ媚薬の効果が辛い。
「これくらいなら気持ち良いだろ?今は、一番弱いのに調節してある。音生がどこで泣き出すか、楽しみだ」
「…──っ!!」
ばちっ、と、左乳首に強烈な痛みが走った。ひと息つける余裕もなく、また、同じ痛みが襲ってきた。
音生は、弱い電流に顫えながら、たまらない媚薬の効果に喘ぎながら、蝋を身体中のあちこちに垂らされいった。
蝋が半分ほどなくなると、電流が、強度を増した。火花が発生してもおかしくなかろうほどになったのだ。
低温と、電流の恐怖に震えながら泣きじゃくった後は、固まった蝋を鞭で払い落とされていった。グロテスクな痛みが伴った。
音生は、もうどれだけ泣いたか分からない。身体はとことん痛がっている。泣きすぎて目の奥まで痛い。
それなのに、快楽に溺れきっていた。
また、電流の強度が上がった。
「ぁあああああっ……!!」
「良い叫び。そういう声、大好き。まだいける?」
もう、ダメだ。身も心もぼろぼろだ。
音生は、さればこそ次なる拷問を期待してしまう。
「もっと、して……もっとして下さい……!!こんなに酷くしていただくの、はじ、めてで、幸せすぎま……っ」
「淫乱な奴隷だ」
「ぁああああっ!!」
身体中がばらばらになる痛みに襲われた。否、音生は、痛みなどとっくに麻痺しているのかも知れない。おぞましすぎる。こんな苦痛、きっと常なら耐えられなかった。
ふっと、おのえが電流を止めた。
音生の口許に、ディルドの先端と思しきものが近付いてきた。
「舐めてご覧?」
「…………」
音生は、無機質の塊に舌を伸ばす。
舌をおずおず這わせると、舐め方が気に入らないと言って頬をぶたれた。
音生は、今度は飢えたペットみたいにしゃぶりつく。
口許から、突起の付いた無機質が離れていった。乳首からじんとしたものが広がった。音生の心臓に近い方のそれが、おそらくおのえの前歯に挟まれて、引っ張りながら舌で撫でられ出したのだ。
「んっ、んん……」
音生は腰をよじりながら、気配でおのえの手許を探って、そこに下腹部をすり寄せる。
さっきの自慰から、ずっと、中だけは触れられないで、どうにかなってしまいそうになっていた。
欲しい。欲しい。
「はぁ、はあっ、……ご主人様ぁ、我慢……出来ま……あぁんっ、ああっ……」
「何が我慢出来ないの?おねだりは、もっと礼儀正しくしなくちゃな」
悪い子だ、と、乳首が、おのえの指先につねられた。
「ああっ!……お、玩具を、私の唾液でべたべたになった太いもの、ヴァギナに入れて下さい……でも、ご主人様の指が良い……」
「私を、好き?」
「大好きです……奥まで、奥まで触って……貴女のはしたないドールを叱って下さい……あっ、はぁああんっ……あっあっ!!……」
良いよ、と、耳許に甘い甘い囁きが触れてきた。
とても冷酷な声音なのに、切ない感じにぞくっとする。あまりに甘美で胸が顫えて、ふんわり包まれる心地になった。
膣の中に、ディルドがずぶりと滑り込んできた。
「イかずに私を楽しませてご覧?ご褒美は、キスしながら一晩中愛してあげる」
「あっ、はいっ、はいぃぃ……あっ、ああん……」
音生は頷きながら腰を振る。
縛られたところが食い込んで、動けば動くほど痛むのに、それでエクスタシーに誘惑される。ディルドに容赦なく体内をかき回されているのが分かる。
音生は、それでも主人に絶対服従のペットよろしく、どれだけ性感がくらくらしても、ぐっと耐える。
「あっっ、胸、胸がっ……ダメ……!!」
「音生の愛液、膨れた乳首に塗ったらぬるぬるだ。いやらしい匂い。気分はどう?」
「良いっ……気持ち良いですっ……気持ち良い……ああっ」
「全裸でおっぱいてかてかにされて、玩具に下の口犯されて、 気持ち良いんだ?音生は淫乱だね?虐めてもらうために生まれてきたみたいな子じゃないか」
「はい、……ご主人様に虐めていただき、たくて、生まれてきました……ん、あっ、ああっ……」
「どんな風なのが好き?」
「こうして丸裸になって愛液をローションに使っていただいたり、玩具で遊んでいただけると、幸せで……あっぁあっ、死にそうですっ……!!」
音生は悲鳴にならない声を上げる。胸も下腹部も突き出して、おのえの手や唇に寄せて、理性をなくしたペットよろしく悶え狂う。
泣いて鳴いて、ひたすら耐えて、狂おしい快楽の奈落に落ちてゆく。
* * * * * * *
春休みも残すところ一週間もなくなった、卯月の末のある日のことだ。
音生が美術部の部室で今日の課題のデッサンに没頭していると、昼休みになる直前、久しくまなびが訪ねてきた。
音生はまなびに連れられて、二人で中庭に出た。
すぐにまなびが飲み物を買ってくると言い残してどこかに走っていった。
音生は、仕方なくベンチに座って暇を持てあましていた。
まもなく、誰か戻ってくる気配がした。驚くことに、それはまなびではなくて、おのえだ。
おのえとは、あれ以来、連絡をとらなかった。
音生はあの後、本当に一晩中、前戯からは考えられないくらい優しく甘く、甘く優しく愛された。二人、少しだけ普段の話もした。
音生は、おのえに惹かれてゆけばゆくほど、苦しくてその顔を見られなくなっていった。おのえの純粋さが見えてゆけば見えてゆくほど、自分の痴態が、遅ればせながら恥じらわしくなっていったものだ。
「あ……あの……」
音生はベンチをすっくと立った。
二人とも、あの日と同じだ。音生は白いロリィタで、おのえはビビットな皇子の姿をしていた。
「久し振り」
「うん……、この間は有り難う。楽しかった」
「こちらこそ。音生って、ベッド入ると人格変わるね。それとも今のが仮の姿?」
音生に、おのえが、一歩、一歩と、距離を詰めてきた。
二人の距離が、肘を曲げれば簡単に触れられるくらいに、縮んだ。
「──……」
「新居さんっ」
「おのえで良いよ」
「え……」
「外でご主人様なんて呼ばれたら、今時ダサい亭主関白みたいに思われそうだし」
おのえの綺麗な唇から、おどけた感じの笑みがこぼれた。
だのに、その雰囲気や眼差しは、真剣だ。
「どういう意味?」
音生の、きっちりカールしたツインテールの片方がおのえの指先に掬われて、はらりと、宙を滑っていった。
おのえの着ているジャケットのポケットから、ちょこんとした個包装のチョコレートが一粒、出てきた。
「バレンタイン」
「えっ」
「ごめん、音生の好きな苺味、近くだとチロ○チョコしかなくて」
「そんなこと、覚えていてくれたんだ」
「ちゃんとしたやつは、音生が今度都合のつく日、させてもらう。行きたいとこ、考えといて」
「──……」
「音生と知り会えたのは、お姉ちゃんのお陰だけど。ホワイトデー、この間のは、音生からだったって思いたい。順番、逆だけど、音生は私の気持ち……受け取って」
音生の片手がおのえにとられて、小さな小さな、本当に一口サイズのチョコレートが握らされた。
どこででも手に入るチョコレートなのに、何かをもらって、こんなにどきどきしたのは初めてだ。
もう他に何もいらない、今の言葉を永遠に忘れないで抱き締めていられるなら、何も欲しくない。
こんなにも満たされて、肉体より心を奪われたいと、奪いたいと願ったのは、初めてだ。
「おのえ……」
音生はピンク色の包みでくるんであるチョコレートをぎゅっと握って、おのえを見つめる。
どうすれば、この想いを伝えきれる?どんな単語を探しても、繋げても、見付からない。足りない。
それでも、これからずっと一緒にいられる。一生かけて、この初恋の人に大好きだと伝える。
「好きです。好き……愛してる」
よろしくお願いします、と、囁いた。
音生の腕におのえの両手が伸びてきて、そよ風にさらわれるみたいにそっと、その胸に抱きとめられた。
──fin.
妖精カテドラル