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「被害者の会を開催する」
 突然なんだという顔をしているのは先ほど俺が引きずってきた鉄哲だけで、あとの面子は深刻そうに顔を顰めている。ため息をついたのは誰だったか、その音に教室内の空気がぐんと重たくなったのは気のせいではないだろう。
「ひが……あん?」
「頭悪そうなのとガラ悪いのまぜんなよ鉄哲、つーかお前が一番被害デカいだろ」
 右に左に首を傾げている鉄哲に「物間だよ」とだけ伝えれば余計に首の角度が大きくなった。なんかあったか?とでも言いたげな目に、ダメ押しに「みょうじさん」と付け加えれば、それでもまだ分からなかったらしく反対に首が傾いた。その反応に吹出が「こいつ嘘だろ」と全員の内心の総意を文字として空中に浮かばせた。
 まぁ、鉄哲は置いておいてだ。被害者の会、即ちなんだと言われると、そうだな。まずは物間寧人の人間性の話からするのが一番早いだろうか。物間という男は途轍もなく面倒臭い性格をしている男である。
 まず人との距離の取り方が下手、それもびっくりするほど。忘れもしない自己紹介の時、第一声が「君らの個性を上手く使いたいと思います」というとんでもなく上から目線のもので多くのクラスメイトをドン引きさせた。冗談を言っているトーンでもなかったためクラス全員があいつに「やばいやつ」の印象を抱いただろう。物間もクラスの空気を少しは感じたのか、最初の頃はどちらかというと全員に対して一線を引いて接していたように思う。
 それが一片、暫く大人しかったと思ったら唐突に「A組の奴等には負けられない」なんてメラメラし始めて一気にB組を身内として扱い始め、あたかも俺達小学生からの付き合いだぜと言わんばかりの急接近。なんの違和感もなくそれを受け入れていたのは鉄哲くらいだろう、一緒になってA組に対抗心をむき出しにしていたのでさてはこいつら馬鹿だなと思った。
次に言葉のチョイスが良くない。意図的に悪意ある言葉を選んでいることがあるからか、無意識でもデリカシーの欠けた心無い言葉が出てくることがある。因みに自己紹介の時の発言は無意識に出た方の言葉だったらしく本人的には「僕の個性の練習に付き合ってくれたら嬉しいです」というお願いだったらしい、わかるか。いや、悪い奴ではないし責任感もあり懐に入れた奴にはビビるほど優しいが、まあ如何せん面倒臭い要素が強すぎてどんな奴?と聞かれたらまず「近寄んない方がいいぞ」と言いたくなる、顔に騙されてはいけないと俺は物間から学んだ。
 物間を面倒臭いと言わしめる要因はいくつか前述したとおりだが、その最たるものが恐らくは素直じゃないというところだろうと思う。所謂天邪鬼。それも超が付くほどの。そんでもってその認識を是と知らしめる最たるものが、みょうじさんという女の子が絡むと最高に面倒になるというものだ。
「あ〜じゃあ俺から」
 すっと手を上げた円場は遠い目をしながら『被害』を語った。



CASE1 円場硬成

 今日俺あいつと実習でペアだったから、そのまま一緒に食堂行ったんだよ。そんときにばったり会っちゃったんだわ。
「あ〜れ〜〜?なまえじゃぁないですかぁ〜?いやだなぁ折角クラスが違うのに会っちゃうなんて災難だなぁ〜!」
「……あっちいってアナ!」
「似てないにも程があるし僕はお前と雪だるまを作りたくない絶対にだ可愛いと思ってやってるんだったらやめときなよ本気で似合わないから」
「よく息続いたね今、気持ち悪いよ」
 思わず噴き出した俺は悪くないよな、あの子急に全力でネタぶっこんでくるから……あ、お前らもやられたことあるんだ。その時はスギ花粉の真似?それ真似できていいの人類が。想像つかないけど女の子がやるにはなんかエグそうだから詳細は話さないでほしい…ああうん続けるわ。まあ似非ではあるが、物間は基本的に紳士と言っていいくらいには女子には優しいだろ。大事なのでもう一度言うが似非だが。そんな物間がA組も並べても遜色しないほどに顔を歪めて挑発するのが彼女、みょうじ#なまえ#さん。今日初めて知ったんだけど普通科の子で、幼馴染みなんだって。ホントな、物間に聞いてもなんにも教えてくれないから幼馴染みなの初めて知ったわ。え?ああみょうじさんが物間に「幼稚園のお遊戯でお姫様やってたモノマちゃん〜」って急に暴露したから少なくとも幼稚園からの縁らしいよ。当然だけど物間はそれ言われてぶちぎれてなのか、「お前なんて鼻に卵ボーロ突っ込んで泣いてただろ!」って言い返してたよ。…いや、鉄哲、それ俺もやった!じゃねーんだわ、なんで誇らしげなの?
 はい脱線したので戻すぞ。説明せずとも分かると思うが、会えば罵り合い煽り合いの応酬。大人しそうに見えて、火に油を注ぐどころかガソリンタンクで突っ込むのがみょうじさんなので物間の口が止まらない。最初にこれに遭遇した時はそりゃもうびっくりしたもんだが、毎回となれば流石に慣れる。え?まだ慣れない?それはまだお前の被害が少ないからだ。
 今日も今日とて言い争いが凄まじかったもんだから、物間に席をとっておくように伝えてさっさと食券の列に並んだんだよ、物間どうせお洒落なの買えば喰うし適当に買ってやろうと思って。逃げたとかいうなや。
「どんまい円場」
「お前らもこいや……」
「席あいてねーもん」
 そうだ、そんときお前らいたよな俺を見捨てやがって。振り返れば成程、確かに回原の言う通りだった。なんで俺は物間と二人で食堂に来てしまったんだ、くそか……。戻りたくねぇと思うも悲しいかな、恐ろしく作るのがはやいランチラッシュのお陰ですぐに手元に料理の乗ったトレイがやってくる。がんばれ〜なんて気の抜ける声で応援してきた回原と庄田、鎌切。回原はニヤついてたから後で校舎裏な。
「てかなに?めっちゃトウモロコシ喰ってんのなんで?齧歯類のつもり?」
「あ!!お母さんのトンモロコシ!!」
「お前最近その辺の映画見漁っただろ」
 お行儀悪くみょうじさんの皿から輪切りになったトウモロコシを一つ抓んで勝手に食べ始めた物間に、某有名な映画のセリフで怒りだしたみょうじさんの声が聞こえてきてうっかり転びかけた。つーかトウモロコシなんて頼めるのかとみょうじさんのトレイをみれば俺と同じく親子丼。それになぜかトウモロコシが小皿に追加されている。その組み合わせのチョイスはどうなんだって俺も思ったよ。
「あ、円場くんも親子丼だ」
「……」
 まあご察しの通りだよ。俺はやっちまったんだ……。
「女子のそういうなんでもかんでもお揃いだとか同じだとか表現するのって習性なの?」
「だって本当に同じじゃん親子丼」
「だからそれを敢えて言葉にして「一緒だねはーと」ってやるのが謎っていってるのなんのアピールなんだよそれ」
「めっちゃ血走ってるけど目、親子丼食べたかったの?」
「ずぅぁんぬぇ〜ん!円場には最近気になってる子がいます〜〜!!」
「え!そうなの誰!?」
 みょうじさんの言う通り目を血走らせて唾を飛ばしながら大声で俺のプライバシーを叫んだ物間に反射のように個性を使って殴ってしまった。正当防衛だよな……だよな。予想外すぎる方向から攻撃を喰らい、追撃のように目をキラキラさせてこちらを見てくるみょうじさんは女の子らしく恋バナにワクワクしててさ。そんでもってみょうじさんが俺の方をそんな顔で見ていてなんなら身を乗り出してくるくらいに近いものだから、俺の個性で顔面を押し付けられている物間の顔が余計にとんでもないことになっていた。
 とりあえず物間の後ろで「突然に始まった笑ってはいけない学校の食堂―!」と言いながらげらげらと過呼吸のように笑ってた泡瀬と骨抜だけは許さない、絶対にだ。お前ら二人だよおい逃げんな。
 そのあと?いつも通りだよ、そう、いつも通りの「反省タイム」。今日一段と酷かったな……あんなに落ち込むならああやって噛みつかなきゃいいのにまじで。ほんとくっそめんどくさいよなあいつ。誰でもあんな負のオーラ背負ってる奴見たら放置できないだろしかも物間。放置した方が後々悲惨な事になるの分かってるよなお前ら。
 そうだもっと俺に感謝しろ崇め奉れ。



CASE2 泡瀬洋雪

 はい、今しがた円場に渾身のヘッドロックを受けた泡瀬です。いやあのときは悪ふざけが過ぎたほんとごめんって、いやでもあの物間の顔は未だに笑える。ああはい話しますから拳を振り上げるな。お前マジで荒んでるな……ウン俺でもあれは同情するけど。
 俺は一昨日だったんだけど、実習前に時間あったから着替えてから飲み物買いに行ったんだよ。そん時に物間といて……そうそう出会っちまったの。まじで脳内にモンスター出てきたときのBGM流れたからなあんとき。しかも逃げるを選択できない奴。いやみょうじさん自身はふっつーに可愛い子なんだけど、物間がヴィランと化すから。え?流石にヴィラン呼びはだめ?いやヴィランだろあれは。
 てかほんと、一昨日にこんなことがあったのに今日食堂で絡みに行ける物間の神経マジですげえなと思った俺、あいつ不死鳥じゃん。
「うわ〜ついてないなぁ!実習前に会うなんて士気がさがるなぁ〜!」
「それくらいで士気がさがるなんてほざくならヒーローやめたら〜?」
 そう、そんときみょうじさん迎撃態勢でさ。珍しいよな、いつもだったらわりとのらりくらりっていうか、みょうじさんが調整して険悪にならない様にしてるっていうかさ。え?いやそうだろどう考えても、さっきの円場の話の時もそうじゃん。あの子大分周りに気を使って言葉選んでるって。まあその時は虫の居所が悪かったのか物間の言い方が悪すぎたのか、一瞬で思いっきり言い返してすぐいなくなっちゃって……あ、そのご愁傷さまって顔ヤメロ。まあご想像の通りだけど。
「泡瀬」
「はい」
「僕はもうダメだ……」
「も、物間―!!」
 いやもう俺が見た中ではベストオブな程の落ち込み具合だったマジで。反省っていうか後悔だなあそこまでいくと。ずっと「嫌われた」とか「なんであんな」とか、ぶつぶつ言ってて見てらんなくてよ。あ、思い出した?そうそう物間が実習でめっちゃポンコツだった時の直前にあったんだよこれ。物間も変なところくそ真面目だから一応落ち込んでても三人以上クラスの奴いると辛いですオーラ引っ込めるじゃん。あ、分かる?だよなだから反省タイム大体マンツーの時じゃねえとおきねぇの。だから二人の時だと厄介ましましというか。
 良いところでもあるし、そこまで俺たちに気を許してるっていうのも強制的に理解させて来るんだけど、面倒なのは面倒だからなあれ。信頼の仕方も面倒臭いってある意味すげーよな、俺もそう思う。
「睨まれた」
「(いつもじゃね?)」
「なんでだ……?ジュース買ってやろうとしただけなのに」
 あんまりにもコミュニケーション下手くそすぎて聞いた時泣けてきたよこの時。まじかって思ったし言いかけたけど耐えた。ジュースの単語どこにあった?嘘だろってなった。その後にいうつもりだったにしろ会話の流れ的に無理があるよな、ビビるよな。なのにマジで心からなんでだ?って言ってんの。俺がなんでだ?だわ。お前の頭がなんでだ?どうなってんの?ジュース詰まってんの??
「ヒーロースーツだってあいつ初めて見たのになにも言わなかった」
「あの流れで感想貰えると思ったんか」
 思わずこれは声に出ちまった、だよな我慢した方だよな俺。物間の反省タイムってほぼほぼ独り言じゃんあれ。そうそう、隣にいるやつに言葉ぶつけまくっててあんまりこっちの返しを求めてないっていうか。まあ言葉をぶつけるサンドバックがないとどういう訳かあとからメンドーになるんだけど。んで偶に慰めの言葉を息継ぎの間に挟んでやればちょっとずつ普通の会話に戻るんだよな、あいつの生態どうなってんだろうなホント。
 だからサンドバックとしてはよろしくない返しだったわけですよ。
「泡瀬」
「はい?」
「お前なまえに気でもあんの?」
「ナンテ?」
 ほんとわけわからんよなあいつの思考回路どうなってんだ。一瞬なに言われたのか理解できなくて宇宙猫の顔になったよ俺は。どんな顔って?こんな顔……そんな渋い顔しなくても……。俺にモノマネの才能はないのはわかったから。
「趣味悪!は!?趣味悪!!」
 言いたいことはめちゃくちゃわかる、実際俺もほんと喉のこの辺まで出かけたけど、うん。色々飲み込んで、黙って聞いてたら別に悪いことなんにもしてないみょうじさんの悪口をつらつら言い始めた物間。え、逆切れモードっていうのこれ。へぇ、知りたくなかった。ついさっきまで反省してたと思ったら急にその態度になったからこいつの神経脆いのか強いのかよく分かんなくなった。物間もああだから、本気では言ってないの分かるんだけど誰が聞いてるかわかんないような廊下でぎゃあぎゃあ叫ぶから俺もちょっと焦ったのとイラッときてさ。
「そんなにいうなら絡むなよお前」
「は、いや……」
 これは俺が悪かったんだと思うんだよ。
 なんていうんだろうな、焦ったっていうよりなんかにビビってるような感じでそわそわし始めて、多分いっちゃならん類の言葉だったんだろうなって。謝ろうと思ったんだけどさ。
「なまえは(自主規制)カップだから泡瀬のタイプのF以上に当てはまらないだろ!?」
 謝ったかって?いや俺が謝ってほしいんだけど。
 カップ?ここでお前らに教えんのは俺最低だろ言うかようるせぇ赤くなってねぇ。



CASE3 回原旋

 はいはい被害者の会主催者こと俺です。いろいろとばっちりを受けてる奴等がほどんどだしかくいう俺もそうなんだけど、なんだかんだやっぱりお前らも思うところがあるから物間のあれに付き合ってるんだろ?そうそう、泡瀬も言ってたけどあいつ偶にだけどしんどそうっつーの?みょうじさんとのこと言った時にグッと黙る時あるだろ、そうそれ。
 色々文句もあったし確かに被害も受けてるけど、それ以上に全員物間のあれに全員引っ掛かりを覚えていると。あ、鉄哲以外。
 うるせぇよ茶化すな、俺が素直じゃないって?物間には負けるし被害報告したかったのもマジだって。さておきだ、俺もその厳禁ワードを言った時があってさ。
「みょうじさんって運動神経わるいな」
 なんの時だったかな……取りあえずシュチュエーション的にはみょうじさんが走ってたとかそんな場面を遠目に物間と見かけたとかそんな感じだったはず。みょうじさんってめっちゃアクティブなイメージ勝手に持ってたから運動神経もいいと思ってたんだよ。だよな、ドッチボールとか最前線で戦いそうだよな。まぁだからそうじゃなかった光景を見て意外に思って、こうポロッと。な、意外にもこれ厳禁ワードだったみたいでさ。
「回原さぁ?それあいつに言うなよ」
 普段お前がどれだけ悪態をぶつけていると、って一瞬思ったんだけどその時の顔がなぁ……。そう、俺泣かせちまったかと思うくらいに酷い顔しててなぁ〜。ああうん、謝る前に結局暴走されてなぁなぁに流しちまったんだけど、今思えば何が琴線に触れたのやら……。暴走の内容?嫌な事は忘れるに限る。

「なるほど?そんじゃあ回原は物間にトラウマ的なものがあって、それを何とかするor少しでも触れない様にしたい、と」
「トラウマっていうのは大袈裟なのかもしれんけど、おおむねそういうこと。相変わらず理解早いな鱗……」
 ヒーローを目指しているからこそなのか、元々全員もれなくお人好しなのか、文句を言いながらも終始どこか心配げな声色で話していたのもあって、すんなりとその場の全員がこの会の意味を理解したようだった。因みにだがこの場に女子はいない。ジェントルマン(似非)な物間(ヴィラン)なので知り合いの女子がいると面倒臭いモード発動どころかまずみょうじさんに話しかけすらしない。ので被害者はB組男子に限られている、ほんと厄介。
「で?他に厳禁ワード知ってる奴いる?」
「あのよ」
 卵ボーロの話からずっと黙っていた鉄哲が腕を組み、少し眉を寄せた険しい顔で声を発した。こいつ自身に自覚はなかったようだが、なにかと物間とよくいる鉄哲なのでそりゃもう被害回数で言えば断トツなのだ。なんで自覚がないのかがホントよくわからんが。この前も移動教室の時に物間とみょうじさんに挟まれて、物間に「鉄哲はムダ毛も鉄になるだからな!」と謎の暴露をされていた、ちょっと微妙だけどお前顔真っ赤にしてたよな、あれ忘れたのかと問い詰めてやりたい。だが、そんなやつが真っ先に手を上げたものだから何を言うのかと気になってしまったのでその好奇心を優先させた。
「ワードっつーか、多分俺原因知ってるわ」
「は!?」
 流石にこれは予想外だったけれど。



CASE4 鉄哲徹鐡

 なんでって、みょうじさんと物間っていっつもああだろ?物間に聞いてもなんにも言わねーからみょうじさんに直接聞きに行った。なんだよその顔、だってあんなぎゃーぎゃー目の前で喧嘩すんのに毎回見かければ声かけるの可笑しいだろ……まあ、ちょっと後悔はしたぜ聞きに行ったの。俺にはどうにもできない話だったし、なにより二人の問題だったしな。吹聴する類のもんでもない、寧ろあんまし人に話すような話でもないな。でもまぁお前らが物間のこと心配してんのは聞いてて分かったし、みょうじさんもあいつのためなら喜んで話すだろうし。事実、だから俺はこの話を知れたからな。あ、でも物間には直接この話すんなよ、めんどくせーから。
「レッテルなんだよ、物間にとって私は」
「なんのだ?」
「『助けられなかった』っていう、嫌な」
 聞いて最初に出てきたのがこれでよ、あ、俺聞いちゃならんこと聞いちまったって分かったよ。みょうじさんは平気な顔して話してたけど一回も目合わなかったし無理して話させたんだと思う…ちゃんと後でプリン驕った。
 幼馴染みだってのもこのとき聞いたし、なんなら家もめっちゃ近所で親同士が仲いいらしいぞ。産まれた時からってやつじゃねーかなあの感じ。だからさ、みょうじさんもやっぱ似てんだわ物間に。うん、めんどーだよなまえさん。すっげぇめんどくさいこと考えてた。
「私の個性、ちょっと危なくてさ」
 個性の発現はみょうじさんの方が早かったらしい。詳細までは聞かなかったけど、人を怪我させる可能性もある個性だったみたいで制御覚えるの大変だったって。まあ誰でもあり得る話ではあるだろここまでは、でもみょうじさんの傍には物間がいた。
 制御でまだ苦労して、生傷が絶えなかった時に物間の個性が発現した。みょうじさん曰く、物間はそんなみょうじさんを自分の個性なら助けられると思ったんじゃないかって。物間自身がみょうじさんの個性を制御できれば教えてやれるとかそんな風に思ったんだろうって。ま、分かるだろうけど発現したてで自分の個性すらまともに操れない奴に無理難題だったっつーか、お前らが想像してる通り事故ったらしい。
「んで、そのときに足の神経ちょっとやっちゃって、私が」
 だからだと思うぞ、みょうじさんが走るの遅いの。つーか走って大丈夫なんかってレベルだと……え?ああ、怪我したっていう足の手術痕見せてくれた。靴下ずるって下げて……思いっきりいいよなホント。漢気溢れててビビった、あ?そっちかよって何がだ。でだ、みょうじさんはこう考えてるらしい。
 物間は、そのことをずっと責任に感じていて自分のせいだと思っている。
 物間は、その自責の念を##NAME2#さんに悟られてはダメだと思っている。
「物間のあれは強迫観念だよ、私のせいで植え付けちゃった」
 そんでもってみょうじさんは物間のそれが満たされるまで黙って“確認作業”に付き合うのが自分のできる罪滅ぼしだーって。まぁ、自分のせいで怪我をしたやつに対して責任感じるのは分かるよ。俺だってかーちゃんの顔、個性で傷つけちまったし顔見るたんびにもう絶対間違えねぇっていつも思う。そんでもって、俺がそうやってメソメソ思ってるなんて絶対にかーちゃんには知られたくない。だってそうだろ、怪我させた上に落ち込んでるとこなんて見せたらかーちゃんは「許してくれる」だろ。「気にしないで」っていうだろ。それを言わせちゃダメだろ俺が。俺は被害者じゃねーし……まあ俺の話はいいよ別に、実際物間がどう思っているかなんて聞いてねーから知らんし、あの二人は親子でも無い。俺の話に当てはめるのもおかしいしな。そんで、みょうじさんは物間のあれを作業として捉えてる。昔自分が怪我をさせたやつがいるっていうことを確認して、戒めないと気が済まないんだろうって。そのための作業。
「それに付き合うくらいしかしてあげられないから」
 だから一緒にここに進学したって当たり前の様に言ってた。聞いててスゲー考えてるしみょうじさんの方こそ責任感じてんだなってわかったよ、あとめんどくせーなって。だってそうだろ、怪我させたっていう事実はどうしようもねーんだからこれからどうするかしかねーのに、物間もみょうじさんもその怪我の事であんなめちゃくちゃな会話してんだから。物間のあれは「心配」だからで、みょうじさんのあれは「知らないふり」だ。女子の幼馴染みってみんなあんな風なのか?あそこまで大事に思われてるって物間も幼馴染みみょうり?に尽きるよな。


「……いや、ちげーだろ」
「あ?なにがだよ」
 そこまで分かってなんでわからないって……と円場が頭をかかえてしまった。確かにこれは「二人の問題」だ。本当にここまで分かっていて、どうしてその先に頭がいかないのか。いやそれはあの二人もそうなのか、お互いの事を考えるばかりに空回りし目の前がみえていないというか。根本のせいで歪んで痛々しげに見えるがそれでもこれは単に拗らせているだけ、という事がわかった俺はあ〜あと肩の力を抜いた。まあそこまで心配しなくてもいいかということが分かっただけで重畳か。
 鉄哲のいうとおり、みょうじさんもなかなかに面倒臭い思考回路をしているようだし、本当にこれは首を突っ込むべからず、という案件だ。
 でないと馬に蹴られてなんとやら、なんてことになりかねないのだから。



2020.7.10
きみの好きな、企画提出
お題:物間、幼馴染み、シリアス、ギャグテイスト

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投稿日:2020/0808
  更新日:2020/0808