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 あの事件があってから数週間たった。なんと俺は未だに謝れていない、それどころか口を開けば悪化の一途をたどっていた。岩ちゃんにはいい加減しろと呆れられてしまい、なまえちゃんと話す度に殴って止めてもらっているほどだ、本当にいい加減にしろ俺。そんな岩ちゃんが今日は担任に呼び出されていると言っていた、遅れるはずだ。そうなるとストッパーがいない訳で。
「まだ準備終わってないの?本当にトロイね」
「すみません」
 よりによって俺となまえちゃんの二人しかまだ来ていないという状況。最悪だと思っていた傍から思ってもいないことをそれらしい表情で言っていて、もうやめろ!と此方をちらりとも見ずに黙々と準備を進めるなまえちゃんの小さい背中を見ながら泣きそうになった。だいたいまだHRも終わっていないような時間にここにいれる俺となまえちゃんが特殊なくらいなのだから彼女はやはり微塵も悪くないのだ。
 でも、と言い訳の様に少し思案する。
 なまえちゃんが少しでも傷ついたような様子を見せてくれれば俺も言い過ぎたと、あの時は勘違いしてごめんと、流れで謝れると思うのだ。なまえちゃんから俺に向けられたアクションと言えば校舎であった時にあからさまに避けられただけで、あとは必要以上の関わりを断たれたというだけだ。もっと俺の事を責めたっていいだろうに、彼女からあの時のあれは自分のものではなかったと言ってくれればいいのにと、最低な事を考えてしまう。岩ちゃんあたりに言えばあいつから言わせるな!お前が悪いんだからお前がちゃんとけじめ付けろ!と顔面にボールを叩きつけられるだろう。全部俺自身のせいなのにも関わらず、俺は追いつめられてしまっていた。自分からアクションを起こすことにこんなに困難したことは初めてかもしれない。
 二人で準備を進めながらはやく誰でもいいから来いと思ってしまう。できるだけ普通の会話を、と心がけようと思ったときにふとずっと気になっていたことが頭をよぎった。
「そういえばなまえちゃんはなんでうちの部のマネージャーやろうと思ったの?」
「……バレー好きなので」
「ふーん、だったら女子に入って選手やるよね」
「……」
「まぁ関係ないけど」
 今すぐこの体育館から駆け出して岩ちゃんに殴られに行きたいと思った。関係ないなんてことないだろ、もう青城の男子バレー部の仲間なのに、それはないだろ。黙ってしまった彼女にまずいと思いなにか話さなければと頭を働かせたが考えていた内容と全く違うことを吐き出す口自分で顔面を殴ってやろうかと思ってしまった。
「バレーが本当に好きなら普通選手でやりたいって思うんじゃないの?あ、それとも男子バレー部に好きな人でもいるの?」
「……」
「バレーをだしにして接近しようがどうでもいいけど、足ひっぱらないでよね」
「……」
「あ、前にも言ったけど及川さんはそういうのまっぴらだか」
「すみません」
「へ」
「ここお願いしてもいいですか、ボトル準備してきます」
 そう言うと一切こちらを見ることなくスタスタと体育館から出ていってしまった彼女を呆気にとられつつも見送って、体育館から彼女の小さな足音が遠ざかっていって耳に届かなくなった時に俺は壁に頭を打ち付けた。
 なんで、なんであんな思ってもいないことをすらすらと言えるんだ俺は……というか俺のことは確実に勘違いだったのにまだ言うのか、馬鹿じゃないのか。それになんだあの言い方、あれだと彼女が男目当てで男バレに入部してきたみたいな言い方だ、絶対そんなのありえないって俺自身が良く分かっているのになんだ、なんなんだ俺の口は、縫ってしまおうか、その方が良い気がしてきた。がんがんと頭を思い切り打ち付けているのも流石に痛くなっていてズルズルとその場にしゃがみ込んで小さくなる。そもそもなまえちゃんはもう俺の事嫌いだろ、あれだけ言いたい放題言って未だに謝りもせずにしかも責めているのだから。それなのに部活では他の部員に気が付かれない程度しか態度に出さない彼女は本当に優秀と言うか。壁に向かってダンゴムシの様に丸まって己の言ってしまった事への自己嫌悪でキノコでも生えて来そうな勢いで落ち込む。
「(もうやだ……なんであんなことが言えるんだ……なまえちゃんはなんにも悪くないのに……)」
 耐えきれなくなって顔を覆ってああああーと意味のない呻き声を上げていた時に、背後から声をかけられて一瞬驚いたがその声が同級の花巻のものだったので構わずにのっそりと起き上って向かい合う。
 少し急いできたのか息が上がっていてまだそんなに急ぐ時間でもないのにどうしたのだろうと思ったが口を開くのが億劫で彼の言葉を待つことにした。
「な、にやってんのお前」
「……ちょっと自己嫌悪」
「は?お前が?」
「そんなこともあんの……ってかどうしたのマッキー、そんな息あげて」
「あ、いやそれがよ」
 普段緩い空気を纏っている彼から漂う空気が少し重かったので何事だと思ってきちんと立ち上がって体についてしまった埃をはらう。真剣な顔をして、言葉を声にすることを少し躊躇うように口を何度か開閉させたマッキーに促すように首を傾げる。
「どうしたの?」
「……なまえちゃんがさ、ボロボロ泣きながらボトルやっててよ……お前なにあったか知らね?俺声もかけられなくて、っておい、どうした」
「俺もうだめだ」
 罪悪感に殺されそうだ。いやいっそ殺してくれ。


2015.6.20




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投稿日:2017/0926
  更新日:2017/0926