その背を押してあげたい


 


一日の感覚がなくなると彼女は見えやすい場所に時計を置いた。大きめなものがいいと言われ僕が購入してきたものだ。

「キラはシンに何かあげたりするの?」

用件が終わると雑談が始まる。事務的なだけでなく話すようになるまでに時間はかからなかった。

「誕生日プレゼント?アスランにも聞かれたけど」

アスランの場合は単純に参考にしようとしたのだろう。けれどミーアの場合は違う。彼女はここから出られない。ならばなぜ聞いたのか疑問だった。

「あたしはあげられないのにって顔してる」
「言ってくれたら僕が買ってくるよ」

苦笑しながら言うとミーアは顔を俯かせた。両手を軽く組み指を弄る。
どちらかといえば当日会えないことの方を思い浮かべたものの、ミーアは気づいているのか気づいていないのか指摘してこなかった。

「キラは何をもらったら嬉しい?」
「相手が僕のことを考えて選んでくれたのがわかるから何でも嬉しいよ」
「模範解答」

顔をあげて不服そうに言われてしまう。

「ミーアは……贈り物を沢山もらったと思うけど僕は貰える人は限られていたから」

言おうか迷うも口にする。ラクスの偽者として活動していたことを暗に突きつけているようだけどそれを踏まえて伝えたかった。

「それにラクスも同じことを言うよ。ミーアは沢山の贈り物は嬉しくなかった?」

下がった眉が上がり首を思いきり横に振る。同じ立場では言えないけれど僕はそう思うし、同じ立場にいたラクスもそう思うだろう。



シンに会議室へ案内される途中雑談をしていた。

「そういえば彼女には最近会った?」
「最初から聞こうとしていたように聞こえます」

先導するシンは前を向いたまま。

「行けてないですね。手紙は届けてもらってるんですけど」
「許可がなかなかおりないからね」
「知ってましたね?」

訪問者のチェックは僕もしていた。だからシンがミーアにしばらく会いに行っていないことも知っている。

「行きたくない?」
「コネで許可申請はしません」
「真面目だね」

苦笑する。この真っ直ぐさも彼のいいところだ。意固地な部分もあるけれど。今の彼は自分で許可をとろうとしているのだろう。

「誕生日に会いたくない?」

シンの足が止まり僕も足を止めた。顔を振り向かせこちらに視線を向けてくる。

「何でそんなことを聞くんですか?」

ミーアにはしなかった問い。二人とも会いたいと思っても無理だというのが立場上わかっていた。だからミーアにはしなかった。動けない彼女に問うのは酷だった。

「きっと君は祝われる資格はないと思ってきただろうから」

驚いた表情をしたシンは顔を俯かせ少ししてから上げると体もこちらに向けられた。

「みんなに祝ってもらっても誕生日は家族と一緒の思い出があって一人でいたんです」

続けようとした開かれた口は閉じられ俯くと同時にかきむしるように胸を掴んだ。

「俺だけ歳を重ねていく罪悪感があって……」

通路にひとけはない。

「会いたい?」

少しの間のあと先程と同じようで違う問いをした。ゆっくりと上がる顔に上目遣いで見つめられる。

「はい」

力が少しでも抜ければいいと肩に軽く触れた。

「じゃあ日にちもないからすぐに書類用意しないと。口添えはするけどシン次第だからね」
「ありがとうございます、キラさん」

お礼を言われるようなことはしていない。おせっかいなだけだ。自分も人の事は言えないけれど言えるなら口にした方がいい。

「先に会議だね」

言うとシンは前を向き先導するのをついていく。忘れろなんて言えない。でも迷うならその背を押してあげたい。


H28.8.31




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