偽者の光


 


追いかけるものもないのに
君は追いかける
見えるようで
見えない君
君が僕を見れないのか
僕が君を見れないのか
どっちだろう


「また童話?」

渡してもいないのに僕が部屋に入った途端、そんな事を言われた。

「君はこういうのが好きかと思って」

茶色い紙袋を彼女に手渡すとがさがさと音を立てながら、中の物を取り出す。
童話。何か変わってるわけでもない。

「またカーテンを閉め切ってるんだね」

部屋を暗くしているカーテン。陽がわずかに漏れて入り部屋は暖かい気がする。

「開けないで」
「誰も見てきたりしないよ」

それでも嫌と呟き彼女は床に顔を向ける。
僕が窓に近付くと椅子から立ち上がり、僕を止めた。

「嫌」
「でもこんな暗いんじゃ本も読めないよ?」
「読まないもの……」

また顔を床に向ける。長い髪が顔を覆うように隠す。

「光があるから影があると君もわかってると思ってたけど」

彼女から視線をはずし、相変わらず部屋を暗くするカーテンに向けてため息を吐く。

「君は自分をも否定してしまうんだね」

胸に抱いていた先ほど渡した紙袋を奪い、扉へと向かう。
何に怒っているのかがわからなかった。でも腹立だしい。
怒りというゆら哀しみにすら似てるかもしれない。
こんなものか、という呆れと彼女の想いへの同情。

「あたしは……!」

声に立ち止まるけど沈黙が訪れ扉を開こうとする。
僕は扉を開いたつもりだった。

「な……に?」

彼女の驚いた表情を見つめる。僕も彼女みたいに驚いているのだろうか。
髪がシーツに鮮やかに散らばり、僕が彼女をベッドに押し倒していた事を自覚する。
光を求めて自分を変えてしまった彼女。
憐れにも思い、同時にその貪欲さに惹かれた。
ただ光の中に立ちたいだけ。
でもそれは彼女の影を浮き彫りにさせた。
そして今は光を恐れる。

「ミーアは夢を見ていた?」

久しぶりに口にした彼女の名前。最後に呼んだのはいつかもわからない。
彼女を抱いた時かもしれない。

「夢……?」

少し怯えたような表情を見せながら聞き返してくる。
返す事もせずに彼女を見続ける。彼女の口はぽつりと言葉を出した。

「夢は見ていいんだよ」

現実にできるかわからない。
夢の中の自分は一種の偽者。
それならここにいる彼女は何だろう。
夢を抱いて走った彼女は何なのだろう。
今の彼女には残酷な言葉かもしれない。
夢の中でしか光の中には行けはしない

「求めれば……追えば掴まえられるかもしれない、なんて綺麗事かな」

彼女に言ったのか僕自身に行ったのか。
よくわからずに僕は仰向けに体を寝かせた。

「……童話を読んで、キラ」
「うん」

今はそれでいい。
僕が光の偽者になれるなら。彼女がまた追えるなら。
ベッドから体を起こし僕は床に放られた紙袋を取りに行った。


時にはうさぎを追うように
時には心から王子を求めるように
君は物語を綴る光となる
今の君は眠り姫
置き去りにするガラスの靴もない
歌う心も失い
影の中
捲るページもなく
閉じる表紙すらない
はじまりもおわりもなく
君は探して追って
やがて光の中で
偽者の光を
本物の影へと
その身で君を現すのだろう


H18.5.20




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