海風吹く風景に咲く花
「こっちがいい……」
「だーかーらー」
怒り気味なアウルとそんなアウルから視線をはずしているステラ。
何か言い争いをしているようだった。
「どうしたんだ?」
車の前で口論をしている二人にスティングは近付いた。
むすっとした表情でスティングを見るアウル。
こちらにあたられても困ると苦笑いを浮かべた。
「ステラ、ここがいい」
ステラが指さしているのは車の助手席。
偵察の任務のため車で出る事になった。
前回は迎えの車だったため後部座席に三人は座った。
今回は始めから車で出る。
「別にステラが助手席でいいじゃないか」
二人にそう告げるとアウルが不満そうにスティングを睨みつけた。
「そんなに助手席がいいのか?」
「違う!」
てっきりステラとアウルは助手席の取り合いをしているのかと思った。
だがそうではないらしい。
「あぁーー!?」
「ステラ……」
アウルとスティングの少しの会話のうちに、ステラはちゃっかり助手席に座っていた。
満足な表情を見せるステラ。アウルはステラを指でさしながらも何も言えない。
「諦めろ……アウル」
アウルの肩に憐れみをこめた手を置いてやる。
「もう時間がない。行くぞ」
スティングは運転席へアウルは更に不満度が増した表情で後部座席に座った。
「ステラ、シートベルト付けるんだぞ」
「うんっ」
ステラがシートベルトを付けたのを確認すると車を発進させた。
「ねぇーどこ行くんだよ」
後部座席からやる気のない言葉が投げ掛けられた。
「お前ネオの話聞いてなかっただろ」
「ぜんっぜん」
威張って言う事かとスティングはため息をついた。
「ステラだってわかってないよなー?」
「ん〜?」
アウルは前に身を乗り出すような体制になり、助手席に座るステラの両肩に両腕をもたれかける。
「海〜」
「ほらな?」
スティングはお出かけ感覚なステラにため息をつくも、それもいいかと思った。
今日は戦闘はない。偵察だけだ。偵察だけならステラは行く必要がないが、ネオなりの配慮なのだろう。
「あ?何だあの人だかり」
「偵察ポイント到着だ」
道の途中で車を停車させる。すぐ下に見える場所は何かの基地のようだ。
緑色の服を着た人だかりができている。
「よっと」
アウルはドアを開けずにドアを飛び越え車から降りた。
「あまりあからさまに見るなよ」
「わーかってるって」
スティングは車から降り、下が見えやすいよう所へ移動した。
「ステラは車から降りないの?」
「ステラはいいだろ」
ステラはよくわかっていないようで下も見ずにただ目の前の景色を見ていた。
「しっかし何が始まんのかねー。こんなにザフト兵が集まってさ。暇すぎてやる事ないとか?」
車の上に座りこみ、少し馬鹿にしたような言い方をする。
「プラントのアイドルが来るらしい」
「アイドル〜?」
聞いた事はあるがどんなものかは知らない。それは三人とも同じだった。
「ネオが言うには歌って踊って、人に愛想振りまいてサインしたり握手したりするらしい」
「それ、なんか意味あんの?」
「さあな」
まだ始まってもいないのに早くこの場から去りたいとアウルは思う。ついにはあくびまでし出した。
「何だぁ?」
「始まったみたいだな」
辺りがけたたましい音楽が響く。上から妙な音が聞こえ見上げるとピンク色の奇妙なものが視界に入った。
「機体?」
ピンク色のザク。戦闘では目立ってしまうであろうそれは、地上に下り立った。
ザフト兵の歓声がそのザクに浴びせられる。
「女だな……あ、こら」
双眼鏡を覗きながらスティングは呟く。すると手にあったはずの双眼鏡はなくなった。
「ほんとだぁー機体の手のひらで女が踊ってる〜」
スティングから奪った双眼鏡を覗きながらアウルはけらけらと笑った。
「“アイドル”ってあーゆーもんなの?」
スティングに双眼鏡を返しながら聞くが、スティングはため息を吐きながら双眼鏡を受け取るだけだった。そして再び双眼鏡で様子を見る。
「アイドルねぇ……」
相変わらず目の前で行われている事には興味を示さず、ぼぉーっとしているステラをちらりと見る。
「アウル……なに?」
その視線に気付いたのかステラはアウルに振り返り、笑顔を向けた。
「ふふっ……」
白いフリルの服を着たステラは回っていた。
何をするわけでもなくただ踊り回り、微笑んでいるだけ。
「ステラ・ルーシェさん!サインください!」
「握手してください!」
そんな光景が画面越しに行われている。
「駄目だぁー!!」
突然叫び出したアウルに驚き、ステラもスティングもアウルを凝視していた。
「いや……うん、何でもない。ほんっとに何でもない」
若干弱々しくではあるがごまかす。ステラもスティングも察して気にはとめておらず流せたようだ。
二人の視線が自分からはずれたと同時にステラが遠くなると小声で呟いた。何もしなくてもステラは可愛いからと心の中でつけくわえながら。
「しかし凄い服だな」
スティングの言葉にさっき見た光景を思い出す。
確かに私服にしてはいきすぎている。“アイドル衣装”というものだろうか。
「アウル?」
首を傾げこちらを見るステラ。いつの間にかステラを見ていた事に気がついた。
「なっ、何でもない」
慌てて視線をそらす。ステラは首を更に傾げるが特に追及はしてこなかった。
「衣装……」
「ふふっ……」
ピンク色のザクの手のひらで踊っていた少女と同じ服を着ているステラ。
やはり踊り回っているだけ。
回る度にスカートなのかスカートの役割をしていない布が翻り、腿がちらちらと見える。
「ふふ……」
身体のラインもはっきりしている服のためそこはかとなく…いやらしい気がした。
「そんな服着んなよ!僕の前でだけ着ろよ!!」
「アウル、大丈夫か?」
得体のしれないものを見るようなスティングの視線でアウルは我にかえる。
「……なんでもない」
何だか自分の思考に恥ずかしさを感じ、アウルは俯いた。
「アウル?」
「うわっ」
いつの間に車から降りたのか、ステラはアウルの目の前で腰を屈めアウルを見上げていた。
「驚かすなよ」
「アウル元気ない?」
「はぁ?」
脈絡のない質問に今度はアウルが首を傾げる。
そんな二人の横でスティングが笑いを堪えるように身体を揺らしていた。
「何、笑ってんだよ」
「お前が静かだとお前じゃないみたいだからな」
少し俯いただけなのにそれだけで元気がないと判断されたという事か。
アウルは自分を見上げているステラの髪を撫でた。
「ふふっ、気持ちい……」
「ぅわっ」
腰に両腕を回され抱きついてきたステラに驚き、後ろに倒れそうになるが腕をつきかろうじて倒れずにすむ。
「だから驚か……ま、いっか」
文句を言おうとするが自分の膝の上で心地良さそうな表情をしているステラを見たら文句を言う気も失せる。
「終わったみたいだな」
けたたましいほどの音楽は鳴りやんでいた。人だかりは相変わらず凄いままだが。
「結局何だったわけ?」
素朴な疑問とばかりにスティングに聞くが、スティングは肩を竦め苦笑いを浮かべた。
「癒しとかそういうんじゃないのか?戦いで疲れた兵に安らぎを……みたいな」
「ふ〜ん」
いまいちよくわからない。別にわかりたいとも思わないが。
膝の上で嬉しそうな表情をしているステラ。そんなステラを見ると何となくわかった気もした。
「何か違う気もするけど」
「さて、任務も終わったしどこか行くか」
アウルに抱き付いているステラに問い掛けるように言いながら髪を撫でてやる。
ステラはん〜?と噛み合わない返答を返してくる。
「そりゃあ行く所と言ったら決まってるじゃん」
「海〜!」
靴を脱ぎ捨て浅瀬へ走るステラ。
アウルとスティングはそんなステラを砂浜から眺めていた。
「今回の任務の意図がわかんねぇー」
「見たままを報告すればいい事だろ」
「アウル!スティング!海〜!」
浅瀬に足を浸からせながら二人に手を高くあげ振ってくる。
二人はステラに軽く振ってやる。
「海さえあれば何でもいい感じだね」
「いいんじゃないか」
砂浜に座っていたアウルは立ち上がりステラの方へと走って行った。
「アウル〜海〜」
「わかった、わかった。つめてっ」
アウルも靴を脱ぎ浅瀬に踏み入る。するとステラが海水をかけてきた。
かけかえそうと両手で海水をすくい、ステラ目掛けてかける。
「あ……」
アウルがかけた海水をステラは避けた。だがステラの後ろにいたスティングに思いきりかかってしまい服をびっしょりにしてしまった。
「わ、わざとじゃないし……。ステラ!帰ろっか」
「お前もびしょ濡れになれ!!」
「うわ、マジやめろって!」
ステラの腕を掴んでこの場から逃げようと試みる。
しかしそれは失敗しスティングに腕を掴まれ、海に全身を浸かるはめとなった。
「あーびしょびしょじゃん」
「俺もびしょ濡れだ」
アウルを倒した拍子にスティングも倒れた。
「楽しそう……」
「は?ちょっ、待てって!」
ぼそっと聞こえたかと思うとステラが後退り助走をつけて走ってくるのが見えた。
「何だ?」
「楽しくないからやめろってステラー!」
スティングは振り返るが避ける事はできず、アウルも今避ければステラが飛び込んで怪我をしかねないと思い避けられない。
必死に説得をしようとするがステラは二人目掛けて飛び込み飛沫があがった。
「ふふっ……ふふふ」
「……楽しそうだぞ」
「よかったね……」
二人を下敷きにしステラは楽しそうに笑った。
三人共濡れてしまったがこれはこれでいいかもしれない。そんな風に思った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「だーかーらー」
「またやってるのか……」
助手席の横でまた口論は始めたらしい二人を見てスティングは呆れながら言った。
「お前はどうしたいんだ」
「それは……」
助手席に座りたいわけではない。ならどうしたいのか。
聞くがアウルは言いにくそう顔を逸らした。
「ステラ、後ろでいいよ?」
アウルの腕に触れながら言うステラに驚きアウルは何も言えない。
やれやれとスティングは車から少し大きめのタオルを取り出しステラに渡した。
「決まりだな。ステラ、ほらタオル」
「アウルとスティングは?」
タオルは一枚。三人共びしょ濡れ。しかしスティングはステラにタオルを渡した。
陽も暮れ、オープンカーでの帰り道。寒いに決まっている。
「俺は運転するようだからな」
ステラの頭をぽんぽんと触ると運転席へと座った。
「アウルは?」
「僕はステラ抱いてればあったかいから」
少し照れくさそうな表情をさせながらアウルは後部座席へと座った。
「何してんの?早く乗んなよ」
「うんっ」
「ステラ寝たのか?」
妙に静かな後部座席に向かって問い掛ける。
「うん」
タオルを身体に巻き、アウルの膝の上を枕代わりにステラは眠っていた。
顔にかかっている髪を上げてやり、頬にそっと触れる。
「お前、ステラと二人で後部座席に座りたかったんだろ」
「ばっ!別にそんなんじゃ……ないけどある」
どっちだよとスティングが言うがアウルはからかわれるとわかりきっているので何も答えなかった。
「うみ……」
「寝言か。夢ん中でも海にいんのかね〜」
月明りに照らされている海を眺める。
「ステラ……」
名前を口にするとアウルはステラを抱き締めた。
H17.8.2
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