Wing my Way
「で、出かけませんか!?」
いつものお茶会に突然のそんな言葉。
立ち上がり上擦った声で持ちかけたアスラン。
そんなアスランを見上げるラクス。
二人はなんでか動かず見つめあっていた。
「憂鬱になる事って何だと思う?」
「マタニティーブルー?」
真剣に問いかけたのに問いかけた相手は雑誌を読みながら言った。
「……」
「アスラン?……うわ」
雑誌から目を離し質問してきた相手を見るとあからさまに地面にのの字を書いていた。
「ちゃんと聞くから微妙な拗ね方しないでよ」
「ため息が多いんだ」
「……立ち直り早くなったよね。アスランはいつもため息多いじゃん」
軽いノリでそう言うキラにアスランは大きな声で違うと否定した。
「俺じゃなくてラクスがだ」
「今日のお茶はどうしましょうとかじゃなくて?」
「毎日お茶では悩まない」
キラは少し黙り一つ息をついた。
「最近あんまり外出してないとか?」
「じゃ」
「えっ、ちょっと」
アスランは一言だけ告げキラの前から逃げるようにいなくなった。
「図星だったんだ……。それで向かった、と」
やれやれと息をはきながらキラは再び雑誌に視線を戻した。
「嫌ですか?」
「そんな事ありませんわっ……ただ」
「ただ?」
聞き返してくるアスランから視線をずらしラクスは小声でうぅ〜と言いながら考えこんだ。
「何でもありませんわ」
さも何事もなかったかのように笑顔で返されアスランはそれ以上追求できなかった。
こういう時はたいがい何かある。しかし追求しようものなら嫌われるかもしれない。何より彼女が言いたくないのな
らとアスランは考え、そうですかと返した。
「どちらに出かけますの?」
「え、え〜と……」
とにかく“外出”という単語だけを頭にいれ訪れたアスランは何も考えておらず言葉を濁しながら頭の中で場所を探していた。
「……なぜ急にでかけようと思われたのですか?」
「それは……ずっと家の中でばかりでしたしたまには外にでるのも」
言葉の途中でラクスが下を俯いていた事に気がついた。
「ラクス?」
「……」
呼びかけてもだんまりなラクス。間をあけて何度か呼びかけるが返事はなかった。
“明日迎えに来ますから”
「……なんだかこう、もやもやとしてるといいますか。嫌ですわ」
アスランが帰ったあとそのまま座り続け独り言を呟いた。
「何か違うと思っても何が違うのかわかりません……明日どうしましょう」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「わからない……」
翌日アスランがラクスを迎えにくると玄関に一枚の紙切れが置かれラクスはいなかった。
“むずかしいですわ”
「何がむずかしいんだ?しかも何でひらがな?どこにいるとかヒントとかまったく書かずあえて一文?」
アスランは疑問を一気にまくしたて紙切れをポケットにいれるとあてもないのに走り出した。
「どうしたの、アスラン」
「うわっ!」
振り返り走り出した途端走り出した直線上に挨拶がわりに片手をあげていたキラがいた。
「砂も吹き荒ぶいい男?」
地面に転倒したアスランを見ながら言った。
「それは水もしたたるいい男と同義語のつもりか?」
ゆっくり起き上がり文句を言うべくキラの前に立つ。
「あのなぁ……何だ?」
自分の前に差し出された握り拳。殴るわけでもないという事は何かを握っているということだ。
「ラクスの手紙」
「手紙って……パズルの1ピースじゃないか」
キラの握り拳が開かれるとそこには青とも水色とも言い難い青系統一色のいびつなピースがあった。
「ま、もらっておいて損はないから」
訝しげなアスランにそのピースを握らせ渡すとキラは背中を向け歩きだした。
「キラ!俺はどうしたらいい?」
「人に聞いて解ける問題なら答えるけど?ずっと言ってきたじゃない。ありきたりな言葉だけど“ありのままに”って」
俺は迷っていた。
彼女と“そういう関係”になり一年。
気持ちは確かだし……そのそういう事にも及んでしまった。
でも何か違う気がした。いつもと変わらぬように笑い、話し、別れ、また会う。
繰り返しが平和で幸せというならばそうなのだろう。
何かを恐れてる気がした。
俺は最近思う事がある。それを口にしたらどうなるかわからない。
彼女なら受け入れてくれるはず。
そう思っても確証はない。
6月という時期はなんだか憂鬱になる気がする。なんだか重い。
何でこんな時期に……。
でもそうなりたいのは確かだ。
愛してしまったから。離れたくないから。
だから……。
私は迷っていました。
なんだかわからない気持ちがもやもやとしていてどうすればいいかわからない。
彼と“そういう関係”になって一年。
もしかしたら私は彼の理想通りになっていないのでは、と。
なんだか違う気がしてだけど毎日会いに来てくれて。
もし私が夢を口にしてしまったらどうなってしまうのでしょう。
昔の延長でそうなってしまうのでしょうか?
昔の私達はそれを前提に出会った。
だから今はそれが恐ろしく感じて……でもそれは夢。ずっと夢見ていた将来。
愛してしまったから。離れたくないから。
そう願う。
でも怖いのも事実。
だから……。
「せめて手掛かりでも……とか言いながら何だかわからない所に来ちゃったな」
アスランはあてもなくただ歩いていた。
しばらく歩き続けると人通りが少ない道になり喧騒がやんだ中立ち止まった。
「……静かだな」
見通しのいい景色の中、アスランは上を見上げ空をみた。なんだかどこかで見たことがあるような、そんな空。
「……ラクス?」
「アスラン?どこにいますの?……幻聴かしら」
高い壁の上に腰かけている人影。アスランはそれがすぐにラクスだと気がついた。
「下ですよ、下」
「下?……あっ」
「へ?」
ラクスの膝の上に乗っていたものがアスランに向かってバラバラと落ちた。
「パズル?」
地面に落ちたそれを見ると白系統と青系統のいびつなピースが落ちていた。
「アスラン、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。あぶなっ!」
アスランの様子を見るためかラクスは落ちそうなほど前にかがんでいた。危ないと思ったのもつかの間ラクスは下に向かって落ちてきた。
「いてて……」
「大丈夫ですかっ!?」
アスランはラクスを受け止めそのまま地面に倒れ込んだ。
「危ないじゃないですかっ!!」
息を整えてからの一声はそれだった。こんな風に言われたのは初めてなのかラクスはびくっと反応したきり動かない。
「あ……すみません。怒鳴ったりして。でも危ないですから……もうしないでください」
言葉の終わりに近づくと声は掠れそのままラクスを抱きしめた。
「心配……してくださったのですか?」
ラクスの問いかけにアスランは答えられずただ抱きしめたままだった。
それを肯定だと感じラクスはアスランの背中に腕を回し抱きしめた。
「アスランはどうして出かけようと言われたのですか?」
前にも聞かれた問いかけ。あの時はいつも屋内だからという理由だった。
「初めはずっと中で会ってばかりだからと思ったんですよ。でも本当はラクスとならどこでもよかったんです」
問いかけの答えにはなってはいないがラクスは何だか嬉しくて遠くを見つめ微笑んだ。
「何で外でパズルなんてやっていたんですか?」
「いくらやっても完成しないので場所を変えてやればできるかと思いまして」
至って真剣に答えるラクスにアスランは笑った。ラクスはちょっと顔を赤らめながらバラバラに落ちたパズルをやり始める。
バラバラになったピースはどれも似たような色ばかりで難易度が高かった。
「だからって高い所でやる必要もないでしょう」
「確かにそうかもしれないですわね。でもちょっと景色が変わっただけで自分が変われるような感覚がするって素敵ではありませんか?」
たかが景色。されど景色。
景色が変わろうが自身が変われるはずもない。
「ラクス、行きましょう」
「え、でも」
アスランはバラバラのパズルを持ちラクスの手を引きながら先ほどラクスが腰かけていた場所に向かった。
「高いですね」
「そうですわね」
思った以上に高くアスランはただ驚いた。
二人はしばらくまっすぐ遠くを見つめるとパズルを再開した。
「これは何のパズルなんですか?」
「“Wing my Way”」
「え?」
「そういう名前のパズルですわ」
何の絵のパズルかは結局わからず黙々と組み立てていった。
「できましたわ」
「できましたね」
二人はできあがったパズルを見つめ手を握りあい喜んだ。
「不思議なパズルですね」
アスランは完成したパズルをまじまじと見ながら言った。
そのパズルは白と青がまんべんなくあり全体で見ると空のように見えた。単体ではまったくわからないものが完成するといきなり存在を主張できるものへと変わる。
いろんな意味で不思議なパズルだった。
「ラクス、話があるんです」
パズルをやりながら考えていた。考えるより言わなくちゃ、と。
そしてラクスを抱き寄せ耳元に呟いた。
帰り道、アスランはある事に気がついた。
「このピース、そのパズルのじゃないんですか?」
完成したパズルと類似したピース。しかしそのピースが入る場所はなかった。
「それでしたら……」
ラクスもアスランと同じ色のしかし違う形のピースを差し出した。
何でも今日の朝玄関に落ちていたらしい。
「ははっ……あははは」
「アスラン?」
突然笑いだしたアスランを不思議そうに見やるラクス。
「いえ、確かに手紙でした」
「どなたからですの?」
「“空からの手紙”ですよ」
変わる事を恐れていた。現状を変えたいと思わなかった。
でも矛盾した想いがあってそれは変わる一歩。
いろんな事があるから感じられる幸せ。だから俺はありのままに告げようと思う。
“ずっと一緒にいてください”
何だかわからない気持ちは自分じゃないみたいで嫌でした。
でもそれが愛するという事なら受け入れたい。
キレイゴトだけじゃ語れないのが愛。
だから一歩を踏み出しましょう。
“ずっと一緒にいてください”
迷った時に見る景色は
変わらない
でも変わる
そんな不思議な矛盾した景色からの
ほんの些細な手紙
−答えのないパズル解いて
階段を一つ登って
少し高い目線に何が映る?
初めて枝から飛び立つ
小鳥のように胸をはって
震えながら
揺れながらも
羽ばたこう
例えば
この先
空が雲に覆われても
共に手を取り
空色の道を創ろう
終わりを決めるのは
簡単だけど
留まること
今は選ばないで
ここから始まる
無限の物語は
放物線を描き
地平線の向こう側まで
続いてゆく
どんなに悲しい事があっても
涙の跡はきっと
誰かが旅をする希望の道になるよ
変わってゆくこと
恐れないで
遠回りの道にも
決して無駄ではない
何かが咲いているよ−
H16.6.18
H17.3.8修正
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