貴方の背中に飛び込むから
「どうしたんだ?」
「ふぇっ?な、何が?」
レイに突然話しかけられ変な声を出してしまった事に気づき、メイリンはあげた顔を俯かせた。
「フォークを手にしているのにほとんど食べていない」
「え……」
朝食の時間食堂に来たメイリン。いつもの通り食べようとした。
でも何故か食べてはいなかった。
来た時は騒がしかった食堂も今は自分とレイしかいない。
いつの間にか時間が経っていた事に気がついた。
「ダイエットか?」
「うん……ダイエット」
佇み話しかけたレイだったが、気のない返事が気にかかりメイリンの向かいに座った。
メイリンの目を見て話そうと視線を向けるが当のメイリンは下を俯きフォークでウィンナーを刺し弄んでいる。
「何かあったのか?」
「別に何もないよ……。な、何?」
笑いを押さえるような声が聞こえレイに視線を向けると口を押さえ笑いを堪えていた。
何だか自分に対してそれは失礼な気ではないかと思うと頬を膨らませ、思い切り顔をそらす。
その行動のあと更に笑いを押さえているような気がする。
「そんなに笑う事ないで……」
キッと睨みつけるような瞳で言ってやろうと再び顔を向けると言葉が続かなかった。
「笑ってすまない。でも何だか」
「っ……何?」
手が頬に触れ一瞬びくっと体を震わすが平然なふりをして問いかける。
笑みを浮かべているレイ。気恥ずかしくて暖かくて不覚にもどきっとしてしまい、視線を合わせるのが恥ずかしい。
「“何もない”という顔ではないな……と。メイリンは本当によく顔に出る」
それは子供っぽいという事だろうか、馬鹿にされてるのだろうかと一瞬思うが言い方からこの人はそんな事を言っているわけじゃないと何となくわかった。
浮かべた笑みと同じく優しい口調。
「メイリン、どうした?」
「夢を見たの」
何も言わないメイリンに呼びかけるとメイリンは下を俯きぽつりぽつりと話し出した。
「ひとりぼっちで、いつも見ている背中もなくて誰もいないの」
「背中?」
「うん。お姉ちゃんがね、私の前にいるの。時々振り返って名前を呼んでくれて」
何か思い浮かべているのか少し笑みを浮かべ嬉しそうに話す。だがすぐにその表情も消えた。
「……でもね、誰もいなかったの」
その表情の移り変わりが痛く感じた。何もなくなり絶望に満ちたような表情。
「レイ……?」
「名前を呼べばすぐに来る奴もいる。それは誰でもというわけじゃない」
髪をそっと撫でられ顔をあげた。視線があい恥ずかしく感じるがそらそうとはしない。
「メイリンが本当に呼びたいと思う人しか駄目なんだ」
「私が……?相手が嫌がっていても?」
「きっと嫌がってなんていない」
言葉でそう言うのは簡単。しかも自分が誰を呼びたいかなどレイにわかるはずがない。それでも何もかも見透かされているような瞳に安心感を覚えた。
「ひとりじゃないとわかったか?」
「うんっ!」
メイリンは笑顔で答えるとフォークで刺していたウィンナーを食べた。
「お腹すいちゃった」
そう言いながら食べるメイリンをレイは黙って微笑んで見ていた。
「レイは食べないの?」
「もう十分補給はしたからな」
何も食べていないレイの不思議な言葉に首を傾げるメイリン。その様子を見てレイはまた笑った。
「レイ、こんな所にいたのかよ」
「シン」
食堂の入り口に姿を見せたシン。どうやら訓練の時間らしくレイを探していたようだ。
「ゆっくり食べろ」
「うん」
レイはそう言い残すと席を立ち食堂の入り口へと歩いて行く。
その背中をメイリンは見ていた。何か言いたいのに何も思いつかない。
「レイ!」
「何だ?」
メイリンは振り返って聞き返すレイにとびきりの笑顔を見せた。
「頑張ってねっ!」
−ひとりなの
独りなの?
安心する背中が欲しいの?
ただ見ていたいの?
違う
きっと違う
触れたいの
なら待ってるだけじゃ駄目
呼んでもいいと言ってくれた貴方
貴方が欲しいの
だから呼んだら来て
きっと呼ぶ前に貴方の背中に飛び込むから
貴方の耳元で囁くから
いつもその眼差しをください−
H17.3.11
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