彼女にとっての僕


 


「誕生日なのに普通だな」
「別にねー。何かあるわけでもないし」
「変な所で冷めてるな。早く家に帰らなくていいのか?」
「日を改めて食事でも、ってさ。忙しいからね」

放課後の教室。
特にやる事もなく、席を座ってアスランと雑談。教室の時計を見上げてそろそろかなと思った。

「あんたって人はー!」

教室内に聞き慣れた声が響く。教室に残っていた何人かがざわつくけどいつもの事なので騒ぐほどではない。

「シン?」

アスランが驚きながら扉に佇むシンくんに呼び掛ける。
走ってきたのかシンくんは息を切らせながら僕に怒りの視線を向ける。

「一応先輩の教室なんだけどなぁ」
「俺だってできるなら来たくないですよ!」

失礼しますと律儀に断ってから教室に入ってくる。
アスランは全く状況が飲み込めずに僕とシンくんを交互に見る。
僕はある程度わかっていたからのんきに頬杖をついて待ってみる。

「何をそんなのんきにしてるんですか!」

バンと机を叩かれても動じずにむしろ煽るように首を傾げてします。悪い癖だ。

「落ち着け、シン。キラだって何だかわからないだろ」
「いいえ!わかってやってるんですよ!年々根性がねじまがってるんですから!」
「本心だとしても誕生日に言われる言葉じゃないなー」
「いいから、来て下さい」
「もういいの?」

無理矢理連れて行こうと腕を掴まれる。
聞くと驚いた顔で振り返られ再び怒りの表情になる。

「お前シンで遊ぶのもそのあたりにしろよ」
「遊んでないよ。悪い癖というかこれがないと日常じゃなくなるというか」
「尚更悪いだろ」
「やっぱりわかってたんじゃないですか!」

これ以上怒らせても仕方がないので連れて行かれるままに任せる事にする。行き先はわかってるし。

「それじゃあちょっとシンくんとデートしてくるね」



デートは呆気なく1分も経たずに終わった。ただ同じ階の違う教室に来ただけ。
シンくんは僕から手を離し、ドアの前に仁王立ちになる。

「俺は6限目からここにいたんです」
「シンくんすっかり不良になって」
「違います!あなたをある人に近づけないためです!」
「僕が本気になれば窓からでも入るけどね」
「っ!」

声のトーンを少し落とすと盲点だったのか絶句する。
冗談と言うようににっこり笑う。でもごまかされないのか訝しげな目で見られた。

「でももう来てもいいんだよね?朝カガリに放課後は来るなと言われてたから来なかったんだけど」

連れてこられたのはカガリのクラスの教室だった。

「カガリさんはあなたが来るとふんで俺に門番役を頼んだんです」
「君はアスランのお付きなのによくカガリのお願い聞いたね」
「それはまあ……昔のよしみで」
「優しいね」

頭を撫でると振り払われた。これも日常茶飯事。
子供扱いしてるつもりはないんだけど彼はそう感じるらしい。

「おさわりは禁止ですから」
「おさわり?」

それだけ告げるとシンくんが閉ざされていた扉を開けた。
中に入るよう視線で促され、教室内に足を踏み入れる。

「真っ暗……」

窓には暗幕が掛けられていて、電気はもちろんついていない。
すぐに扉も閉められ教室内は真っ暗になってしまった。

「カガリ?」

誕生日だというのに今日はろくにカガリに会えていない。朝におめでとうと互いに言ったもののそれきりだ。
段々と目が慣れてきてうっすらと教室内が見えてくる。

「カガリ、そこにいるの見えてるよ」

人影に呼び掛けるとびくっと反応する。こんな暗がりでもわかるなんていい反応をする。

「……ちゃんと約束守ったんだな」
「うん。あれ?」

背中を向けていたカガリがこちらを向くと着用しているのが制服じゃない事に気がつく。
するとカガリは両手で身体を隠すように抱きしめた。
しかし丸見えだ。

「それって……」
「ち、違う!びっくりさせようと思ったんだ!なかなかプレゼントが思いつかなくて」
「メイド?」
「うわぁぁあああ!?」

教室内に大きな声が響き渡り、そのままカガリの身体が飛び込んできた。

「見るな!」
「そんなこと言われても」

長いスカートのスタンダードなメイド服を来たカガリ。
確かにびっくりした。まさかコスプレで迎えられるなんて。

「……この教室内だけお前のメイドだ」
「じゃあこんな事しても怒らない?」
「え?わぁぁあああ!?」

ぴらっと長いスカートの裾を持ち上げる。一瞬何が起きたのかわからなかったのか振り返ってスカートがめくられてる事に気がついたらしい。
僕から慌てて離れたカガリは一生懸命スカートを押さえている。

「どうせならミニスカートとか見たかったな。足綺麗なんだし」
「ズボンなら履いてるじゃないか」
「それもいいけどスカートから見える足がいいんじゃないか」
「変態みたいだぞ、お前」
「カガリ限定でね」

一本近づくと身構えるカガリ。
それがおかしくてカガリの前で跪いた。

「キラ!?」
「メイドに跪づくご主人様って言うのも良くない?」
「駄目だ!私はお前のメイドだから……」
「そう。なら……」

両膝を地面につけて、両手でカガリの腰を引き寄せる。

「こうさせて?」
「それは命令とは少し違うんじゃないか……?」

いいんだよと答えてカガリのお腹に顔を埋める。
くすぐったさそうに身をよじるカガリ。でも次第に手が伸びてきて頭を抱いた。

「何だかおかしな光景だな」
「暗い教室に二人きりっていうので既におかしいよ」
「仕方ないだろ、恥ずかしいんだから」
「じゃあ脱がせてあげるよ」
「いい!」
「遠慮しなくていいよ。目は慣れてるから着替えさせてあげられるし。最初はエプロン?ストッキング?」
「遠慮なんてしてない!」

結局あまりにも騒がしいのでシンくんが扉を開けてしまった。
おさわり禁止だと言ったのにと怒られたのは言うまでもない。


甘い展開を望んでいないというなら嘘になる。
でも彼女がいればただそれだけで。
今はそれだけでいい。
少なくとも彼女にとっての僕が大切な人にはかわりないのだから。



H21.5.18



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