これから次第


 


「こんにちは」

2階から3階へのぼろうと曲がった瞬間に上から声を掛けられた。
一番上に座りこんでいる女生徒はにっこりと微笑んでいる。

「何がこんにちは、だよ」
「あらあら、挨拶はちゃんとしないといけませんわ」

一見たいがいの人はどちらかわからない。そして話し方で区別する。
この話し方はラクスさんだと。

「初めて会った時の再現でもしたいんですか、ミーア先輩」

普段は先輩等呼びもしないのに嫌味のように付けてやる。
にっこり朗らかな雰囲気を醸し出していた微笑みは消えて、何かを企むような嫌な笑みを見せてきた。

「シンにはわかっちゃうからつまらない」
「そもそもラクスさんが俺を待ち伏せするわけないだろ」
「あたしだってシンを待ち伏せしてなかったかもしれないじゃない」

にやにやと両肘をついて見下ろしてくる。
俺は階段を一段抜かしでのぼり、ミーアと同じ高さまで来た。
ミーアは座っているから今度はこちらが見下ろす態勢になる。

「怒った?」
「別に怒ってない。むしろミーアが怒ってるんだろ」
「あたしが?」

上目遣いでどうして?と聞いてくる。
ミーアと出会ったのは一年前の今日。やっぱり今日と同じようにラクスさんのフリをして近づいてきた。

「もう一年なのね」

ミーアは俺から視線を外し、階下に伸びる廊下を眺める。
無表情で何を考えているかはわからないけど、何となくこの一年を思い返してるのかと思ってしまう。
最後に辿りつくのは一年前の今日なんだろうか。忘れようにも忘れられない今日という日。

「誕生日おめでとう」
「え?」

驚いて反射的に俺を見つめるミーア。その目から逃れたくて視線を逸らした。

「本当は今日ずっと言いに行こうと……別に思ってないけど」

最後まで正直には言えずにいたらミーアが吹き出して笑い出した。

「何それっ。シンって変……何?」
「立って」

腕を掴んで立つように促す。ミーアは不思議そうにしながらも促されるままに立ち上がる。

「ずっとここで待ってた?」
「っ!?待ってないわよ!」

言葉は否定しても態度は肯定していた。
一体いつから待っていたんだろうと考えるとため息が出る。決して人通りが少ないとは言えないのに。

「……微妙に見えてた」
「えっ?見えてたって……」

気付いたのか掴んでいない方の手でスカートの裾を押さえる。今やっても遅い気がする。

「ミーア」
「何?」

腕を強く掴む。
この一年で関係に大きな変化はない。でも距離は違う。
もう引き寄せてしまえる距離。それをしてしまっていいものか迷う。

「シン?……っ!?」

腕は掴んだままで頬に唇を寄せた。ただそれだけなのに顔が熱い。
離れるとミーアが驚いた顔をしていた。

「ぷ、プレゼント」

誰かさんの入れ知恵で本当にやってしまった自分に少し後悔。

「待っててよかった」
「え?」
「もう1回してくれたら言ってあげる」

1回でもやっとなのにもう1回なんてできるわけがない。

「……じゃあ来年聞く」

照れ隠しで言ってしまった言葉にミーアはまた驚いたように小さく声を漏らした。
すぐに柔らかい笑みを浮かべると掴んでいない方の腕を掴んできた。
掴みあっていて何だか変な気がする。

「楽しみにしてる!」

来年の今日という日が想像できないけど、それはきっとこれから次第。



H21.7.2



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