誕生日プレゼントは猫耳と約束だった


 


始業式が終わって先生に頼まれた雑用をしていたら陽が傾きかけていた。
どの教室にも生徒は残っておらず、静かな廊下を歩いて行く。

「誕生日が始業式なんだもんな」

人によっては祝えてもらえてちょうどいいじゃないかなんて言うがやはり夏休みが終わるのは寂しい。
終わってしまえば秋が来て冬が来る。あっという間に年が明けて春になっている。
時の進みがここから速まってしまうんじゃないかなんて思えてしまう。

「ん?」

自分の足音だけが響いていた廊下にパタパタと走る足音が聞こえてくる。
まだ残っている生徒がいたんだろうか。
近づいてくるななんて後ろから聞こえてくる足音に振り返る事もせず歩き続けていた。

「シーン!」
「わっ」

重みが後ろから襲いかかってくるのと声はほぼ同時だった。

「予想したルートと違うからびっくりしたじゃない」
「ミーア……」

首に思いきりしがみついてくるのは見なくてもわかる。ミーアだ。

「こんな時間まで何してたんだよ」
「シンを待ってたの」

まだ暑さは残っていて、ミーアの身体の熱さがじんわりと伝わってくる。

待ってたって?と聞く前にミーアが続けた。

「シンは猫好き?」
「嫌いじゃない」
「うそ!この間屋上で猫を可愛がってたじゃない!」
「なっ」

校内に紛れこんでいた猫が腹が減っていたのかあまりにも擦り寄ってくるもんだから餌を上げた事があった。
アウルには結局見つかったけどそれ以外には見つかってないと思っていたのに。

「見てるなよ」
「だから猫をプレゼント」

会話が噛み合ってるのか噛み合ってないのか。
猫と言われてもしがみつくミーアの手にも、もちろん足元には猫はいない。
用意してるなら猫と一緒にその言葉を言うほうがいいだろう。
でも肝心の猫はいない。

「何を探してるの?」
「え?だって猫って……」

ミーアの顔が前に突き出てきて至近距離で目があう。
視界の上に何かが見えて見上げるとそれを見つけた。

「にゃあ〜」
「そんな鳴き真似しても猫にはなれないだろ」

ピンクの猫耳をつけたミーアが鳴いた。
引きはがそうするが意外にがっしりとしがみついてしまい、諦める。
仕方なくせめて顔を少し傾けて距離をとった。

「似合うのを夏休み中探したのに」
「そんなこと言われても俺にどうしろって言うんだ」
「可愛いよって笑顔でよしよしすればいいじゃない。あの猫にしてたみたいに」
「可愛いよとは言ってない!」

笑顔でよしよしは否定できないがそこまでは思っても言ってない。
言っている自分を想像すると恥ずかしい。

「こういうのは私ごと貰ってって意味なのに!」

先生に見られたら確実に指導室に連れて行かれそうな発言だ。
からかうために言われてるのはわかっても、そんな事を言われてしまうと妙に密着した身体を意識してしまう。

「そんな事言われても……」
「シンの誕生日だから喜ぶ顔が見たかったの」

え?と逸らし気味だった顔が自然とミーアの方に向いていた。
猫耳が本当にミーアから生えていたならしょげていたに違いない。

「誕生日おめでとう、シン」

穏やかな声といつもとは違う大人びた笑顔に胸が高鳴った。
教えていないのにどうして知っているのだろうと思うけど、すぐに誰に聞いたかわかる。

「……貰わない」
「どうして?」

まだわからないからとは言えなかった。
わからないのではなくて、まだ告げる勇気がないだけなのかもしれない。

「じゃあしがみついていく!」
「え?」

さらに強くがっしりとしがみつかれ重みも増す。
せっかく似合っている猫耳も真正面から見れないのが残念なんて思ってしまう。

「じゃあこれだけ貰っておく!」
「あっ……」

カチューシャ型の猫耳を奪いとる。
こんなものを貰ってどうするかと聞かれても貰いたかったから貰うだけと答えるだけだ。

「うん」

猫耳をとられて緩んだ腕に軽く力が入り、またしがみつかれる。
嬉しそうな声音に怒っていない事がわかる。

「来年もあたしにつけてね」

誕生日プレゼントは猫耳と約束だった。



H21.9.1



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