開けた視界の中で放課後に来る彼女を待つ
「あはははは!何だよ、その髪!」
「うるさい」
昼休み。アウルは教室に帰ってくるなり指さして笑いはじめた。
何で笑ったかがわかるだけに真面目に対応する気にもならない。
「わかってるなら取ればいいじゃん」
俺の席の前まで来ると頭に手を伸ばしてくる。
その手が髪に触れる寸前で手首を掴んで止めた。
「なに?」
「取ったらまた何か言われるのは俺なんだよ」
止めた事で無表情になったがすぐに不機嫌な表情になった。
アウルは乱暴に手を振りほどくと前の席にこちらを向いて座った。
「こんな事するのあいつしかいないけどさ、言いなりになる必要ないじゃん」
そう言って俺の束ねられた前髪を指で弾いた。
「言いなりになってるわけじゃない」
「じゃあ、なんだよ」
言いなりになってるわけじゃない。
なのに“じゃあ、なんだよ”と言われたら言葉に詰まってしまう。
「あいつはやめとけよ」
「だからそんなんじゃないし、アウルはただミーアが嫌なだけだろ」
「悪いかよ」
開き直られると困る。
アウルと入れ違いで訪れてきたミーアはまずアウルがいない事を確認した。
そして手にしていた髪ゴムで俺の前髪を結んでいった。
「どうして二人共そんな態度なんだよ」
「嫌なもんは嫌なんだろ。僕もあいつも」
俺がミーアと会う前からアウルは知っていたようで、はじめて二人が顔を揃えた時に知り合いか聞いても嫌なだけだと言うだけで教えてくれなかった。
嫌というだけで嫌いとは言わないからそこまで仲が悪いというわけではないんだろうか。
「そんなちょんまげみたいにされて嫌じゃないのかよ」
「ちょんまげは後ろだろ」
「ちょんまげでもパイナップルでもどうでもいいよ」
はじめはさすがに恥ずかしかったけど前がすっきりして見えやすかったからそのままにしてみた。
クラスの連中には冷やかされたけど。彼女にやられたから取らないのかとか。
「だいたいそれ嫌がらせだろ」
「前髪が前から気になってたんだってさ」
「じゃあピンでもいいじゃん」
そう言われてみればそうだと気付いた。
アウルもたまにつけてるのを見るし。何であえて髪ゴムで前髪を結んだんだろう。
「遊ばれたな」
「は?」
「わかんねぇの?」
数分前のミーアの表情が思い浮かぶ。
凄く楽しそうだった。
「一生そうしてろ」
そう言ってアウルは立ち上がると自分の席へ戻ってしまった。
「そうか」
楽しそうだから取らなかったのか。
こうして髪を結んでいるとこれを見たミーアの表情が思い浮かぶから。
開けた視界の中で放課後に来る彼女を待つ。
H21.10.18
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