見つけてほしいと
「人気者は辛いね」
「誰のせいだと思ってるんですか」
生徒会室に戻ると優雅にお昼を食べているキラさんと鉢合わせた。
とにかく暑くて頭を覆っているかぶりものだけでも外した。
「強いていうなら生徒会という役職?」
「貴方が俺を目立たせたからでしょうが!」
外した着ぐるみの頭部を投げ付けたくなる気持ちをぐっと堪えて、頭部をテーブルに置いた。
置いておいた鞄の中からタオルを取り出し汗を拭う。
「立候補してくれないし推薦も受けてくれないから仕方ないよ」
「どのあたりが仕方ないのかわかりません」
夏休みに入る直前何故か俺は臨時役員にされた。
あの時の出来事は思い出すだけでも悪夢だ。
それ以来しょっちゅう声をかけられるし、人だかりができるしでたまったものではない。
「そういえばさっきあの子が来たよ」
「あの子?」
聞き返してから誰の事を指しているのかわかった。
キラさんは腕時計を見て10分ぐらい前だったかなと言う。
「せっかくの文化祭なのにいいの?彼女放っておいて」
「だから誰のせいだと……いいです、もう」
タオルを鞄の中に放り投げて頭部を持ち上げた。
今の状況を多少は恨みはしても感謝の方が大きかったりする。
「キラさんは回らないんですか」
「僕?じゃあシンくんと回ろうかな」
「失礼します」
真面目に聞いたのに冗談で返されて少し腹が立つ。
軽く頭を下げてキラさんに背を向けた。
「僕はいいんだよ」
俺に言ったのか独り言なのかわからないそれに振り返るとキラさんの視線は窓に向けられていた。
無表情でこれ以上踏み込んではいけない気がした。
「シンくんそれ着たまま行くの?」
表情を崩していつものように明るく聞いてくるキラさん。
「この方が目立ちませんから」
俺は頭部をかぶり生徒会室を出た。
目立たないという利点はあるものの、見つけてもらえないという欠点がある事に廊下に出てから気付いた。
しかしすぐに戻ろうものならからかわれるのが目に見えている。
それに何となく彼を一人にしたほうがいい気もした。
「携帯も生徒会室だしどうしよう」
トイレにでも入って連絡を取ろうと思ったけど携帯は生徒会室の中。
ここで悩んでいても仕方がなく、廊下を進みはじめた。
文化祭中、生徒会の見回りやクラスの出し物の呼び込み時にはこのニワトリの着ぐるみを着ていた。
おかげで人だかりはできないもののとにかく暑い。
「ミーア見つけたらどっかの空き教室に行こう……」
小さく呟いて肝心の彼女を探す。
あちらから俺を見つける事はできないだろうから。
そういえば俺がミーアを探す事ってあまりないなと気がついた。
ミーアから来ていた印象が強く、それが自分の教室以外でも見つけるから発信機か何かついてるんじゃないかと疑ったぐらいだ。
もしもこれを着たままミーアを見つけても声をかけずにいたら、彼女は去っていくのだろうか。
文化祭だから着ぐるみの数もそこそこいる。
お祭り毎だからか目だっている様子もない。
ただし人の多い廊下を通るには少し幅がありすぎた。
「あっ……」
見覚えのある姿が少し先を横切った。
対した距離はないのに人の多さで身動きが取り辛い。
着ぐるみを着ても着なくても動けなくなるなんて。
「え?」
行ってしまったはずの姿が再び姿を見せて、こちらに向かって歩いてくる。
段々と近づく距離に彼女の名を呼び掛けたいのに声が出ない。
このままではすれ違ってしまう。
「当番交代の時間でしょ。探したんだから」
「え?」
すれ違ってしまうと思った瞬間に腕の部分となっている羽をしっかりと掴まれた。
人混みなんて関係ないように俺を引きずるように歩いてきた道を戻っていく。
ミーアのクラスにもこの着ぐるみを着てる奴がいたのか?
いや、でもこの着ぐるみは生徒会で用意したものの余りもので同じものはないと聞いた。
ならどうして俺は今彼女に腕を掴まれてるんだろう。
「はい、着いた」
どこに着いたのかと思えば空き教室だった。
話し掛けようとすると頭部を乱暴に外される。
「シン、遅い!」
「遅いって見回り終わるのは何時かわからないって言っただろ」
ニワトリの頭部を持ったまま怒った様子のミーア。
普通に会話してしまったけど俺だとわかって連れてこられた事に驚いた。
「何で?」
「何が?」
「だから何で俺だってわかったのかと」
「シンだからじゃない」
そんな当たり前のように答えられてもさっぱりわからない。
納得できないでいるのがわかったのか、ミーアは少し視線を外して考えているようだった。
「シンがあたしに見つけてほしいのよ」
「は?」
「今までと一緒。この辺りにいそうだなと思ったらいたの」
「そんな種も仕掛けもありませんみたいな事言われて信じるわけが……」
「種も仕掛けもないもの」
前にも聞いたら見つけられるから見つけられると言われたけど、今回は俺が見つけてほしいときたか。
一瞬キラさんに何の着ぐるみを着てるのか聞いたのかもと思ったけどそもそもミーアに着ぐるみを着る事は言ってないし、わざわざキラさんが伝えるわけもない。
「シンはあたしに見つけてほしいって事で解決。お昼買っておいたから食べよ」
そんな軽く解決と言われても……。
でもそれでもいいかと思えてくるから不思議だ。
ミーアはあらかじめ買っておいた屋台の食べ物をテーブルに並べて、割り箸を俺に差し出してくる。
「そのまえに脱がないと」
と言って着替えも生徒会室だと気がついた。
仕方ないと言いながらミーアが取りに行ってくれる事になり見送った。
ミーアがいなくなった空き教室。
賑やかさがなくなりふと声のする窓の方へと近寄った。
中庭に屋台が並んでいてその屋台の一つに見知った顔がいた。
キラさんが見ていた窓の向こうはこれだったのだろうか。
俺は見えない視界の中で見つけてほしいと願い、彼は見える視界の中で見つけてほしいと願ってるのかもしれない。
「シン、お待たせ!」
扉を開けて帰ってきた彼女を笑って出迎えた。
H21.11.11
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