それを見るのは悪くない
「シンっ」
屋上の扉を開くと柵の前にはミーアがいた。
扉の音で振り返り俺を呼ぶ。
「来たらいないからどうしたのかと思っちゃった」
「別にいつもいるわけじゃない」
そう?と首を傾げてくる。
はじめはやたらと教室に来るから屋上に逃げてきたけど、すぐに見つかった。
見つかるとわかっても屋上に行くのはやめなかった。
「でもさすが春なだけあって風強いわよね〜」
ミーアの隣まで来ると向かい風を受けて気持ちよさそうに言う。
長い髪は綺麗に靡いて絵になるな、なんて思った。
「っ……!?ばかっ!」
「先輩にばかって何よ〜?」
「スカート!」
基本的に女子はスカート丈が短い。ミーアも例にもれず、というか他の女子よりも更に短い気がする。
そんなスカートを風の強い日に履けばめくれるに決まってる。実際ひらひらとめくれていた。
慌てて顔を背けるがちらちらと見えた淡い色が焼き付いて離れない。
「風が強いとめくれちゃうのよね」
「丈を長くすればいいだろ」
「長くしてもめくれるものはめくれるの」
確かにそうかもしれないが短いよりは見えないかもしれない。
ミーアはスカートの裾を軽くつかんで押さえる。下着は見えないけどひらひらと見えそうで見えないを繰り返している。
「えっち」
「どっちが」
「シン」
どこか嬉しそうに言われて言い返す気もなくなった。
真正面を向いて校庭を見ると陸上部が走ってる姿があった。
「……ジャージでも履けばいいだろ」
「え?」
「なんでもない」
何でそんな事言ったかなんてわからない。
小さく呟いたはずなのにミーアにはしっかり聞こえていたようで横から顔を覗かせた。
「じゃあ、シンのジャージ貸して!」
「は?」
ミーアの手が柵にかける手に絡まる。
ミーアを見ると貸さないという選択肢を与えない笑顔だった。
「裾が長いだろ」
「いいの、折るから」
「ウエストが違う」
「ゴムだから多少は大丈夫」
「学年が違うから色が違う」
「何か問題があるの?」
「自分のジャージは?」
「今日はないの」
駄目だ。
何を言っても借りる気だ。
これはあまり言いたくなかったが仕方ない。
「今日体育の授業あったから汗くさい」
「問題なし!」
そんなとびっきりの笑顔で返されたらどうもできない。
たまたま洗おうと鞄に入れていたためしょっていた鞄を下ろし、中をまさぐる。
「返せよ」
「洗ったほうがいい?」
冗談とはわかっていてもイエスと答えたら負けな気がする。変態にはなりたくない。
「洗うつもりだからついでに洗っておいて」
「わかった」
俺からジャージを受け取ると上履きを脱ぎはじめる。
「なっ、陰に行って穿いてこいよ!」
片足をジャージに突っ込んだあたりで背中を向ける。
そのまま穿くだけとわかっていても何だか恥ずかしい。
見られてる方じゃなくて見てる方が恥ずかしいっておかしくないか?
「シン、穿けたわよ」
「……やっぱりだぼだぼだな」
丈も幅もミーアには大きかった。俺が穿いてもゆとりはあるけど大きいほどではない。
彼女の小ささを実感した。
「似合う?」
「ジャージに似合うも似合わないもない」
「あ、どこに行くの?」
「帰る」
鞄を再び背負って出入り口に向かう。
少しだけ歩く速度を遅くしているとミーアの小走りな足音が聞こえてくる。
振り返るとまた強い風が吹いたけどジャージしか見えなかった。
彼女には大きいジャージ。それを見るのは悪くない。
H22.4.9
book /
home