素敵なプレゼントへと変化


 


ぼんやりと窓から雨が降る景色を眺めていた。
早朝で教室にはまだ誰も来ていない。

「あれ、キラ?」

扉を開ける音がして顔を向けると少し驚いた顔をしたアスランがいた。

「こんな朝早く来てるなんて珍しいな」

前の席まで来ると鞄を置いて窓の外を眺める。
僕もほぼ同時に窓に顔を向けていた。

「雨だな」

見ればわかる事だ。
だから何も言わずに降り続ける雨を眺めていた。

「今日誕生日だよな」
「……うん」

アスランが驚いてこちらを見たのがわかる。
もうすぐで衣がえだけどまだ寒いと感じる日もある。今日もそうで、最近の気温の差は大きかった。

「風邪ひいたのか?」

朝起きたら喉が痛く、一言話すだけで喉の調子がおかしいとわかる声になっていた。
誕生日には雨、そして風邪。
今日はまだカガリに会っていなかった。



放課後。
ざわついている教室から離れるように出入口に置いてある傘立てに向かった。
一度は来るだろうと思ってたカガリは訪れず、来ても会わないつもりでいたものの残念な気持ちもあった。

「……?」
「探しているのはこれですか」

いつのまに立っていたのか出入口にシンくんが傘を突き出していた。
その傘は本来なら傘立てにあるはずの僕の傘。
微笑んで傘を取ろうとすると腕を引っ込められてしまう。わざわざ待ち伏せしていたぐらいだ。このぐらいは予想の範囲内だった。

「キラさん?」

シンくんのいる後ろの出入口ではなく前の出入口から教室を出る。
別に傘なんて購買部か近くにあるコンビニででも買えばいい。

「キラさん!」

慌てて追い掛けてきたシンくんに腕を掴まれる。
でも僕は振り返る事はしなかった。

「怒ってるのかねじ曲がってるからなのかわからないですけど何とか言って下さい」

シンくんがカガリに頼まれてきた事はわかりきっていた。
会うつもりはなかったのに本人が来なくて残念に思うなんて矛盾している。

「シン!」
「アスランさん?」

後ろからアスランの声が聞こえ振り返るとシンくんは腕から手を離した。
アスランは僕の顔を見ると何だか微妙な表情を浮かべ、シンくんを見る。
きっと今の僕は無表情なのだろう。

「キラは……その、今日は話したくないんだそうだ」
「は?何ですかそれ」

フォローしようとして失敗。アスランらしい。
どうせこのままでは話さないと帰してくれないだろう。やれやれとため息を吐いて口を開く。

「風邪をひいてるんだよ。移していいならシンくんに向かって思いきり咳こむよ」
「なっ!?風邪なら風邪って言って下さいよ!じゃあ、俺帰ります。誕生日おめでとうございます、お大事に」

早口でまくし立て、去ろうとする。
今度は僕がシンくんの腕を掴んでいた。逃走に失敗したのがわかったのか制止して何も言わない。

「ところでシンは何しに来たんだ?」
「僕もそれが知りたいな」

僕とアスランの視線を受けて固まるシンくん。
しばらくして息を吐くと固まっていた身体が振り返った。

「……カガリさんの様子がおかしかったんでキラさん絡みだろうと思って来たんです」

腕を離すとシンくんはこちらに向き直る。でも恥ずかしいのか顔は段々俯いていった。

「カガリに頼まれてきたんじゃないの?」
「頼まれてません」

顔をあげてきっぱりと告げられ驚く。
てっきり頼まれて来たのかと思ったのに。

「そこまでカガリを気にするのもおかしいけどね」

驚いたのを隠すように絡うように告げるとシンくんはいつものように少し怒った表情を見せた。

「キラ」
「わかってるよ」

アスランに促され、答えるとアスランはそのまま教室に戻っていく。
何の事かわからないシンくんがアスランの背中を見続けていた。

「カガリはいつも僕の心配をするから誕生日には心配かけたくなかったんだ」

シンくんが振り向くと驚いた顔をした。
もう廊下の人気も少なくなっていて僕らの回りには誰もいない。

「心配、しちゃいけないんですか」

すぐにまた怒った表情になる。
僕はその表情に笑ってしまう。更に彼が怒る事がわかっていても。

「誕生日に情けない自分を自覚するのは余計情けないんだよ」
「なら来年は風邪をひかないで下さい。キラさんがいないだけでカガリさんは心配するし不安になるんだと思います。なら風邪ひいてても側にいたほうがマシです」

今日の彼はどうしたというのだろう。
彼の言葉で何だか今日一日悩んでいた僕が馬鹿みたいに思えてきてしまう。

「風邪ひいててもマシ、か」

酷い声で呟いて笑う。
するとシンくんが傘を突き出してきた。

「早く帰って寝て、看病されて下さい」
「ありがとう。素敵な誕生日プレゼントだね」

傘を受け取って言うとシンくんはほうけた表情をした。
すぐにまた怒った表情になるけど照れ隠しなのだろう。

「さようなら、先輩」
「さようなら、後輩」

挨拶を告げるとシンくんは背を向けて走っていった。
雨の日の廊下は滑るから転ばないといいけど。
廊下の窓から見上げた空は小雨を降らしていた。
まだ傘は必要な天気だけど朝ほど憂鬱ではない。
それは同じ傘だけど素敵なプレゼントへと変化した傘を持っているからかもしれない。



H22.5.26



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