苦い気持ちと甘いチョコ
生徒会室に避難して本を読んでいた。
今日はバレンタイン。いつにもまして騒がしい気がする。
下駄箱やロッカーに入れられていたものは仕方ない。でもこれ以上貰うつもりもなかった。
だから図書室に避難していたけど見つかって、適当にとった本を貸りて生徒会に来た。
てっきりアスランがいるかと思ったけど中はもぬけの殻だった。
「あれ?」
扉が開く音がして次にそんな声がした。
ピンクの髪を首あたりで左右に結わえている女生徒。
この学校には同じ容姿の二人がいるけど雰囲気は対象的な二人だ。
「どうしたの、ミーア」
生徒会の中をきょろきょろ見ているミーアに声をかけると、中へ踏み入り扉を閉めた。
「シンを探してるの」
「隠れてるんじゃないかな。それに彼は中等部だからここにいる方が変だよ」
「だってどこにもいないんだもの」
下から順に探してきた口ぶり。ここは高等部の最上階だから実際1階から探してたんだろう。
「だからってここにはいないよ」
小さく唸りながらミーアは椅子に腰かけた。
シンくんが何処にいるか考えているんだろう。
予想はつくけど教えてはあげない。きっと彼女も一緒だろうし。
僕はろくに中身が入っていない本にあたかも没頭しているように目を移しページをめくった。
「おもしろい?」
「それなりにね」
「一人でいて」
顔を上げるとミーアは両肘を机につけて無表情で僕を見ていた。
僕も彼女と同じような表情をしているだろう。
僕は彼女を知っているし、彼女は僕を知っている。
だから二人きりになる事なんて滅多にない。
知っている相手に作ったって意味がない。
「この会話に意味があるの?」
「貴方も私も時間は決まってるのに何してるの」
ミーアは焦っているようだった。
だから僕の問いには答えない。自身を決起づけるために言っているだけにすぎない。
無視をしてもいいとは思ったけど僕は答えていた。
「じゃあ、君はどうしたいの?」
また問い。
でもミーアは驚いた表情を見せて両手を机に叩きつけ立ち上がった。
「ここに来なければよかったのに」
そうすればタイムリミットまで楽しく過ごせたはずなのに。
「後悔はしてない。この姿だってシンに会えるためだったと思えるもの」
強がりではなかった。
笑って、そう言うミーアは綺麗だったから。
「屋上だよ」
「え?でもここの屋上には鍵があるでしょ?」
「カガリが持っていった。学園内にいないなら屋上にいるよ」
どうして教えたのか。
だって好きな人を探してるんだから教えてもいいだろう。
「キラはいかないの?」
「一応君の一つ先輩なんだけど。……行かないよ」
「当たって砕ければいいのに」
君は砕けに行くの?とは聞かなかった。告白はしないんだろうし。
「じゃあ、はい!」
上着のポケットを探ると拳を差し出して広げた。
四角い菓子が掌に乗っていた。
「いっぱい貰ってるだろうけど、お礼」
「ありがとう、貰っておくね」
受け取ると駆け足で扉に向かい開けた。
「ありがとう!」
そして扉は開けっぱなしで走り去った。
ミーアは笑顔で嬉しそうだった。ただ会いにいくだけなのに。
「来月はお返しか」
やっぱりこの小さなチョコのお返しもしたほうがいいんだろうか。
こういった行事がある度に気分は沈む。伝えたい気持ちはあるのに伝えられないはがゆさ。
彼女が全て知った時に果たして僕を受け入れてくれるのだろうか。
本に栞を挟み、机の上に置いた。
そして貰った小さなチョコの包みをはがし口に放り込む。
「甘いな」
苦い気持ちとはうらはらに甘いチョコは心地よかった。
H22.2.14
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