今は時が刻まれていく中で彼女の黒猫でいる


 


「よくこんなもの用意できましたね……」
「アウルくんのは髪色と同じものがなかったから白だけどね」

生徒会室を訪れると四つのカチューチャが机に置かれていた。
ただのカチューチャではなく、猫耳がついたものだ。全体的にふわふわしていて触り心地はいい。
でも付けてもいいかと言われると拒否したい。

「僕達はやる必要ないんだけど、ただ司会するのもつまらないしね」

新入生向けの部活動説明会に面白いも面白くないもない気がする。
生徒会は司会進行だけだったはず。なのに何故か“前座:生徒会”なんて項目もキラさんは勝手に増やしていた。

「女の子にやってもらおうと思ったんだけどラクスはアスランが拒否して、カガリは本人が頑なに拒否」

ラクスさん本人は拒否しなかったんですかとは聞かなかった。
きっと聞く前にアスランさんが拒否したに違いない。

「あれ、でも先週ピンクのカチューチャありませんでした?」
「アスランと買い出しに行ったからアスランが買ったんじゃないかな」

個人的に購入したなんて……本人には追求しないでおこう。
俺は自分の髪色に合わせて購入してきたらしい黒のカチューチャを手にした。

「乗り気になってきた?」

こちらに背を向けて座っていたキラさんは立ち上がり、こちらに近づいてくる。
黒の猫耳。黒猫か。

「縁起悪いですよね」

俺の言った意味がわからなかったのかキラさんは黒のカチューチャを凝視する。
すると意味がわかったのか頷いた。

「前を横切ると不吉って言うよね」

別に信じてるわけじゃないけど何となく過ぎってしまった。
そう思うと何だか余計つけたくなくなってくる。

「場所や時代によっては時計台から投げたって言うしね」

顔を上げると感情を読ませないかのように笑みを浮かべていた。
時々ここにいるようでいないような印象を持つ。
それは本人が本当にいたい場所を求めているように感じた。
でも俺はずっと何も聞けずにいた。
だから何を口にしなければと口を開こうとした。

「でも反対に幸せの象徴にもなってる所もある。面白いよね」

フォローなのか冗談だったのか。俺が何かを言うのを阻むようにごまかされたように思えた。
キラさんは再び座っていた椅子に戻り、背を向けて腰をかける。
さっきも俯きかげんで何かを見ていたから何か下でやっているのだろうか。
ここからだと机の陰になっていてちょうど見えない。

「一匹の生き物が正反対の事柄を持ち合わせている。勝手だけど面白いよね。そういう地域に住んでいないからそう思えるんだけどね」

軽い世間話のように続けるキラさん。
俺はもう一度黒の猫耳のついたカチューチャを見つめた。そういえば前によく見かけた黒い猫はどうしているだろう。

「君はどうだろうね」
「え?」

声のトーンが変わった気がして我に返った。
でもキラさんは変わらずに下に視線を向けて何かをやっているようだった。

「出来た」
「何がですか?」
「おじゃましま〜す!」

タイミングがいいのか悪いのかドアを開く音と明るい声が生徒会室に響いた。
振り返る前に声の主は俺の隣に来る。

「ここにいると思った」
「……ミーア」

にっこりといつものように笑いかけられ何故だか安心していた。
キラさんと二人だったからじゃない。どこか不安に思ってたのかもしれない。
黒猫の話をしだした時点でそうだったんだ。普通ならこんな黒の猫耳カチューチャを見たぐらいで不吉とか考えない。

「ミーア、ちょうど出来た所だよ」
「本当!?」

二人のやりとりにさっぱり状況が飲み込めないでいるとキラさんは下から帽子を取り出した。
紫色の三角帽だ。

「これで完璧!ありがとう、キラ」
「どういたしまして。こっちこそカガリを説得してもらったしね」

二人で何かを企んでいたのか。カガリさんも巻き添いをくったらしい事だけはわかった。

「じゃあ試着するからシン手伝って!」
「手伝う?」

三角帽を掲げてミーアは俺の腕を掴み、ドアへと向かう。

「君は魔女の黒猫役だよ。よかったね」

キラさんはドアまで歩いてきて言った。
何がよかったのかやっぱりわからなくて、キラさんの微笑を見ながら俺は生徒会室を出た。
すぐに扉が閉められる。

「シン達男組が猫役で私達女組が魔女なんですって」

廊下を歩きながらミーアに話を聞いて、だからカガリさんを説得する必要があったのかとわかる。
だけど最後にキラさんが言った“よかったね”の意味がわからずにいた。

「そういえばこの間少し前にシンが屋上で一緒にいた黒猫がいたの」

どうしてるだろうと思ったらミーアがたまたま見ていた。

「同じクラスの子達は不吉な事がって言ってたのよね」

前を横切られたのか。
それは運のない。

「あんな可愛いのにね」

ミーアの言葉に俺がどんな表情をしたかわからない。
ミーアが持っていた三角帽を取り、頭に乗せるとミーアはしばらく首を傾げて見ていたけどすぐに笑った。
きっと俺は笑っていたんだろう。

“よかったね”の意味がわかった気がした。
でも同時に“君はどうなんだろうね”という言葉の意味もわかった気がした。
俺がミーアにとってこれからも“魔女の黒猫”でいられるのか。
反対のものになってしまうのか。今は“よかったね”なのかそんな含みがあったのかまではわからない。
他人に投げられてしまうなら、自ら投げる。彼女が悲しまないように。
今は時が刻まれていく中で彼女の黒猫でいる。



H22.2.22



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