晴れ渡る空を見上げるしかなかった


 


「あれ何とかなんないの?」
「別に触らなければ大丈夫だろ」

昼休み。
天気もいいしとアウルと二人で屋上に昼を食べに来た。
購買で買ってきたパンを食べながら答える。
アウルの視線の先には反対側の柵から先を見ているらしいアスランさんがいた。
屋上に来た時に挨拶はしたけどそれ以降特に会話はない。

「でもどう見ても話しかけてほしそう?ていうか話し聞いてほしそうじゃん。お前に」

はじめは放っておいたアウルもため息をついたりそわそわと微妙に動くアスランさんがうざく感じたらしくどうにかしろと言ってきた。
アウルは今日が何の日か知らないんだろうか。知っていれば関わらないようにしようと思うに違いないのに。

「仕方ないな」

二つ目のパンの袋を開けると少し離れているアスランさんに声をかけた。

「何かあったんですか〜?」
「うわっ、バカ!あっちに行って聞けよ!」

座ったままでいるとこちらに背を向けていたアスランさんが振り向いた。
すぐに正面を向くとまた振り向き、こちらへ近寄ってくる。
アウルも巻き添えだ。

「バレンタインのお返しを渡すタイミングに悩んでいるんだ」

アスランさんも座りこむ。
体育座りなんてされると悩んでいるように見えるのは実際悩んでいるからなんだろう。

「はぁ?そんなのさっさと渡してこいよ。はい、終了」
「クラスが違うんだぞ!?そんな渡しに行ってラクスに迷惑がかかったら……」

普段はしっかりしているし頼りになるとは思う。
なのにこういった系統に関してはてんで駄目なのだとわかったのは少し前だ。

「メールで放課後に会えないか聞いてみればいいじゃないですか」
「そうか!そうだな。でもやっぱりいきなり現れて渡したほうがいい気がしてな」
「じゃあ朝じゃなきゃ駄目でしたね。それは来年にして、今年は諦めて連絡して下さい」

心なしか気持ちがこもっていない言い方かもしれない。
そう自分で思っているとアウルが紙パックのストローをくわえながらこちらを覗きこんできた。

「何だよ」
「なんか変じゃね?」
「別に……」

パンをくわえてアウルから顔をそらす。
こんなあからさまな態度をとれば何かあるとまるわかりなのに。

「そうだな、来年もあるんだ。今年は連絡する事にする。ありがとう、シン」

アスランさんは立ち上がり、そう言うと屋上の扉へと小走りで行ってしまった。

「朝教室に来るのが遅かったのはコレかよ」
「コレって何だよ」

アスランさんが出て行った扉の音が響いた。
互いに扉を見つめたままで会話は続く。

「あいつに渡しに行ったんだろ」
「貰ったから返しに行った」

アウルは彼女の事をよく思っていないようだから話には出さなかった。
別にアウルに何でも報告しなきゃいけないわけじゃないし。
名前が出ただけで不機嫌になるからまた機嫌が悪くなるかと思えば、何も言わないから横を見ればアウルは静かに笑っていた。

「何もおかしな事なんてないだろ」
「おかしいよ。悩まずにいるお前がおかしい」

確かに悩まなかった。
アスランさんのように頭を抱えたりせずに、朝渡しに行ってしまおうとすぐに思った。

「悩むのと悩まないのどっちがいいんだろうな?」

不機嫌どころが機嫌がよさそうにアウルは紙パックのジュースを音を立てて飲み干した。
いつのまにか買ってきたパンは空の袋だけになっていて、袋を手にして立ち上がる。

「お前だってわかってるんじゃん」

そう言ってやっぱり笑ったままアウルは屋上を出て行った。
しばらく扉を見つめてどれだけそうしていたかわからず、まだ食いかけのパンをかじった。
そういえばクリームパンだっけと食べて味を知ってから思い出す。

「来年、か……」

空を見上げればよく晴れていた。
晴れているのに晴れやかな気持ちではいられない。

朝の渡しに行った時のミーアの表情も笑っていたのに、いつものように晴れ渡る笑顔ではなかった。
こんなに悩んでいるのに答えは見つかりそうにはなかった。
足りないのは何なのだろう。
ただそう思いながら晴れ渡る空を見上げるしかなかった。



H22.3.14



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