act.1 Kira


 


「キラ?」

呼ばれても目を開けない。開けたくない。
生温い風が髪を揺らして、近付いてきた彼女の香りを運んでくる。

「人の家の庭で寝るな!」
「むっ」

息苦しくなり声をあげてしまい瞼をあげた。
してやったりといった顔のカガリが寝転がる僕に跨がり、鼻をつまんでいた。
目を開いてから無反応な僕にカガリは段々と笑みから不安そうな顔になっていく。

「我慢大会か?」
「……それは一人でやっても意味ないよ、カガリ」

くぐもった声で返答すると鼻をつまんでいた手が離れた。わずかに熱い気がする。

「カガリ」
「寝てるふりをしてたキラが悪いんだぞ」
「もう少し色気がある服の方がいいな」
「なっ!?」

慌てて跨がっていた身体はどき、わずかに離れてしまった。
僕は上半身を起こすとカガリの後方からカガリを呼ぶ声がした。

「まだやる事たくさんあるんでしょ?」
「あ、ああ。でも……」

呼ばれた方向をちらりと振り返るも僕の方に再び視線を向ける。

「ただ来ただけだから……戻った方がいいよ」
「そうか……。すまないな、キラ」

背を向けて行ってしまったカガリに見えないとはわかりつつ、手を振る。
するとカガリは僕の方へと振り返った。

「夜、電話するからな!」
「うん」

カガリが屋敷の中に入ったのを見届ける手をおろす。同時に短いため息が出ていた。

「寝てるふり、か」

どうしてそんな事をするかわかる?
僕にもまだわからないんだ。
でも気付いてくれるなんて嬉しいよね。

「気付いてたのに鼻をつまむなんて……」

鼻を人差し指で触れば彼女の温もりが蘇る。それがたとえ今はないものでも。
まだ彼女をこちらに引き寄せてはいけない。
君が気付いてこちらにくるまで僕は見てるしかないんだ。
君の意思で君をくれるなら僕はここから身を投げよう。

だから、僕はいつまでもここにいる。



H18.9.12



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