act.2 Shinn


 


ふと恋しくなったら海を見にくる。見えるのに届かない水平線が想う人に似てるからだ。
そんな俺にあの人はこういった。

“いつか海の中に行ってしまいそうだな。そんなに苦しいなら忘れられれば楽なんだろうな”

俺は忘れられないとわかってるから。何も言わなかった。
そんな話をしたからか、俺はたまらなく海が見たかった。
もう陽も沈んだしこの時間なら誰もいないだろうと行ってみるとそこには先約がいた。
近くに行けば行くほど知っている人に似ている……気がする。砂浜に座り込み、海を見ている少女。髪が長ければこんなに戸惑わなかっただろう。肩に毛先がつくぐらいの長さ。生きてるあの人の髪は長い。
じゃあ今ここにいるこの少女は誰だと言うのだろう。
横顔が月の光に照らされて胸が高鳴る。それは嬉しさと悲しさが混じっていて、恐怖にも似てる。
ラクス・クラインの顔をしたこの少女は誰だと言うのだろう。

「……っ!あ、あの」

こちらに気付いたのか少女はこちらに顔を向けていた。
大きな瞳にジッと見つめられ、何を言っていいのかわからない。
少女が立ち上がりこちらに近付いてくると思わず後ろに後ずさる。

「何?え、ちょっ」

俺の腕を少女の両手が掴み引っ張る。為すがままに引っ張られると靴の中に水が入り込む。

「冷たっ」

少女が離れたかと思うと今度は顔に冷たい海水がかけられた。
少女は顔に見事に水をかけられて嬉しいのか笑っている。
知っている笑顔、でもその笑顔には知っている声がない。

「っ!?」
「おかえし」

俺は水を疑問は口にせずに少女にかけた。思わぬ反撃に少女はびっくりしたのかしばらく俺を見つめ、怒ったように眉を潜めた。
一緒だ。こんなにも同じなのに。なのに……。

「何?あっ……何で、俺」

悲しそうな表情で再び近付いてきた彼女は、俺の頬にそっと触れた。
その手にすがってしまいたい。でも俺はその手を振り払って走り出していた。
受け入れなければならないものは掘り返してはいけない。
君も、俺も共に埋めなければいけないんだ。
一時の幻想で掘り返してはいけないんだ。
だから今は逃げ出すしかできない。
呼び止める声を持たない君が唯一の救い。
共に想いを眠らせて。

そして共に眠る想いは埋めて。



H18.9.15



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