act.4 Kira
“落ち着くんだ。暮れてく空を見てると”
アスランはどうしてとは聞かなかった。聞かれても答えられないのか、答えないのか。
「すっかり暗くなっちゃったな〜」
軽く言ってみても視界に入る色は暗く重い。星の光すら飲み込みそうなまでに真っ黒な気がした。
「あれ?」
暗い夜道に人影が見えて目を凝らしてみる。走っているのか近付くのは早く、すぐに誰だかわかる。
相手側も僕に気がついたのか走る足は段々スピードを緩めていく。
黒い髪に赤い瞳の少年。きっと彼も会いたくなかっただろうけど、僕も彼には今は会いたくなかった。
乱れた呼吸を整えながらすっかりスピードをなくした足取りでシンは近付いてきた。
目指す方向が交差しているのだから近付きたくなくても近付いてしまうのだけれど。
「そんなに急いでどうしたの?」
「別に急いでなんかないです」
それ以上問い詰める理由もない。
少しだけ顔を見ていたらあからさまに顔を逸らされてしまった。自分の態度が相手を煽るとわかっていないんだろうか。
時に表面に出さなければ気付かれないと彼は知らない。
「でも走ってきたから顔赤いよ?」
「そ、そんな事……」
ないと言い切れない様子。でもこれは急いで何かに向かっていたというよりは……。
「そんなに恐ろしいものでも見たの?」
「っ!?」
急いでいたなら僕に気付かないふりをして走り抜けてしまえばいい。彼はそれをしなかった。
「なんて、このあたり電灯少ないから怖かったのかな」
僕らの間に立つ電灯を斜めに見上げる。
視線を戻すとシンは俯いていた。電灯の光が差す地面をただ見つめている。
「君はいいね、暗闇を恐れるのだから」
そう呟いて去ってしまおうと止めた歩を進める。
彼を追い越したあたりで手首を掴まれた。そこにはシンしかいないのだから、掴んできたのは彼の手。
「何?」
問い掛けても答えはなく、掴んだ手を離すと彼は走り去ってしまった。
「まだ昼過ぎなのに暗いね」
「夕方から雨が降るらしいからな」
特に用事はないのにまたカガリの元に訪れた。顔だけ見て帰ろうと思っていたら雑務手伝い。
「やっぱり私と一緒に住む気はないのか?」
「うん、やっぱりまずいと思うんだ」
何度も言われた嬉しい誘い。でも気持ちとは裏腹に答えは決まっていた。
「別にまずい事なんてないだろ?それとも私と一緒に住むのは……」
「違うよ。僕らは平気でも周りの人はそう思わないかもしれ……痛っ」
「どうした?大丈夫か?」
紙で薄く切ったひとさし指が痛む。痛みをごまかすように親指で擦った。
「ばか!何やってるんだ」
「大丈夫だよ、ちょっとちくちくするだけだし」
気付かなければわからないぐらいの痛みは、気付けば他の事が気にかからないぐらいに痛みを増す。
この痛みは何かに似ていて嫌だ。
「紙で切るのは私もよくある」
「うん、だから大丈……」
椅子から立ち上がり僕に近付くカガリに大丈夫と笑いかける。
彼女の両手は僕の傷のある手を掴み、彼女の唇が僕の傷に触れた。
雨が降り出したのが先なのか。
身体が汗ばんだのが先なのか。
彼女の初めて聞く声に興奮したのが先なのか。
それはもうわからない。
僕は君の中へ傷をしまいこんでしまった。
H18.11.24
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