act.6 Athrun


 


「シンも知らないそうです……」
「そうですか」

電話を切ると隣に佇むラクスにそう言った。

「キラも子供ではありませんし、大丈夫だとは思うのですが」

そうは言ってはいてもラクスは心配そうだった。
一日行方がわからず連絡がつかないだけで大袈裟と思うかもしれない。
でも普段のキラからは考えられない行動だった。

「外をもう一度探してきますね」

ラクスの返事は聞かずにそこから出た。
二人きりになるのはまだ慣れない。前は婚約者として二人で過ごした時間もあった。
それはもう過去なんだ。

『アスランさんはラクスさんの事が好きですか?』

キラを探さなければいけない。
でも先ほどの電話でのシンの言葉が引っ掛かっていた。
好きだったと答えた。
本当だ。あの時、俺はラクスの事が好きだった。
でも今はわからない。

「……雨か」

さして避ける気にもなれず、ぽつぽつと雨が降りはじめる中を歩いていく。

「アスランは真面目だね」
「キラ……」

一本の傘を持って、俺と同じように雨に濡れているキラがいた。
持っている傘は開いておらず畳まれたまま手にされている。

「ラクスが心配してるぞ」
「そうだろうね。彼女も真面目だから」

キラの言い方が妙に引っ掛かった。“彼女も”というのは俺と同じでラクスもそうだということだ。

「もしもアスランがアスランでなくなったなら、君は何でもする?」
「俺が俺でなくなる事なんてない」

今の俺はまるで怒っているかのようだろう。実際似たような感情がある。どうしてそんな事を聞くのだ、と。

「そうだよね。でも僕はこの体で名前で血でなくなれるのならコレで君を刺してしまうかもしれない」

コレといいながら傘を掲げる。それが一瞬剣に見えた。傘でだって刺せる、自分にはそれができるというようにキラは笑う。

「僕はアスランになりたいわけじゃないからそんな事しないよ」

キラが一歩前に出るが距離は変わらなかった。俺がいつのまにか後ろへ下がっていたからだ。

「アスランはどうしてアスランのままでいたいの?」
「俺以外にはなれないからだ」

なにかを落とす音がして驚く。俺とキラの間には傘があった。キラが傘を地面に叩きつけていた。
その表情は無表情で何を考えているかわからない。

「君は本当に真面目だよ。嘘に対してだって真面目だ。いや、鈍いのかな」
「何のことだ?」

キラはもう一度薄く笑うと俺に背を向けて歩いて行ってしまった。
俺には追う事もそれ以上なにか問う事もできなかった。

雨は更に強さを増すだけで畳まれたままの傘はただ水浸しになるだけ。

俺は説明ができない気持ちにわからないというだけで、過去の事も流れからそうなったのだとしか言えないからわからないというだけで。
“好きだった”そうとしか言えない。
きっと今もこれからも。

いくら掘ろうと種は見つからず、花が咲く場所にあるのは嘘だけ。
嘘ばかりならこの気持ちもまやかしだったのだろう。
もう追う足はない。種を探して、指は土を掻き分ける。



H20.2.29



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