あなただけに〜It's only my love
―この気持ちが“愛”なのか、私はまだわからないのです
“好き”という感情はあるけれどそれが“愛”と言えるのか
あなただけにしか見えない花が咲くのかも私にはわからない
まだ知らない私を……
あなただけの愛を知る私を……
あなたは見つけてくれますか?―
「うぅ〜」
ラクスは自分の部屋のベッドでごろごろ転がっていた。
うなりながらもその表情はとても幸せそうだ。
「あの時、アスランは何を考えて“うぅ〜”と言われたのでしょうか?」
“あの時”
初めて婚約者のアスランと会った時の事を思い出していた。
ラクスの部屋を数個のハロが飛びかい、それを見上げるような姿勢でラクスは笑った。
「ピンクちゃん」
両手を広げピンクハロを招くとそれに導かれるようにしてピンクハロがラクスの手の中に飛びこんでくる。
“らくすー”
「ふふっ……あなたの作り手さんは今頃何をなさっているのでしょうね?」
最近なかなかクライン邸を訪れないアスラン。ラクスはそんなアスランの事を考えていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ラクスは誰もいなくなったクライン邸をハロと一緒に散歩していた。
ハロ達が楽しげに跳ねている様を見ていると見ている方も楽しくなり、嬉しくなる。それはアスランが自分のために作ってくれたからだろうか。
ラクスはそんな事を考えていた。
しばらく歩き、ラクスはある場所で立ち止まった。
電話の前だ。
ずっとアスランの事を考えている事に気づき電話をじっと見つめる。
ただアスランの声を聞くだけでも、挨拶だけでもいい。そう思いラクスは受話器を手に取った。
「あら?」
いつも受話器を取ると受話器から聞こえるはずのプーという機械音が聞こえる。しかし今は何も聞こえずラクスは不思議に思う。
ラクスが昼間寝てしまい、夜中近くに起きると屋敷の中には誰もいなかったのだ。始めての事でもないのでラクスはあまり慌てず、ただハロ達と歩いていた。
ラクスが昼間寝てしまい、夜中近くに起きると屋敷の中には誰もいなかったのだ。始めての事でもないのでラクスはあまり慌てず、ただハロ達と歩いていた。
「……ラクス、ですか?」
機械音の変わりに聞こえてきたのは一番聞きたかったアスランの声だった。
「まあアスラン?私、まだ電話番号を押していませんのになぜかアスランの声が聞こえますわ」
そんなラクスの言葉に受話器の向こうで笑いを堪えたものの吹き出したような声がした。
「私も……ベル音が鳴っていないのになぜかラクスの声が聞こえますよ」
理由はわかっていたがアスランはあえてラクスのペースに合わせた。
ラクスのペースがアスランにとってとても心地よかったから。
「不思議ですわね」
「そうですね」
そんなやりとりをすると二人共くすくすと笑っていた。
「何か用事があったんですか?」
アスランの問いかけにラクスは何故だがどきっとし、しどろもどろになった。
用事はない。電話をかけたいがままにかけようとしたと言ったら彼はどんな反応をするだろう。呆れるだろうか。
「……と、言っても特に用件がない私が聞ける立場じゃないんですが」
言いにくそうに切り出された言葉。その言葉が嬉しかった。
もしかしたらアスランも自分と同じように受話器を手にしたのかもしれない。
「こうしてお話するのも楽しいですわね」
「そうですね」
しばらく他愛のない話をしていると突然それは起こった。
「きゃっ」
ラクスの突然びっくりした声がアスランの耳に聞こえ電話は切れた。
アスランの家も電話が切れたと同時に真っ暗になる。
「停電か……?」
アスランは急いで身支度を整え家を出る。
電話でラクスがアスランにクライン邸には今日は誰もいないと言っていた。
もし、クライン邸も停電になっていたら……。そう考えるとアスランはラクスが心配でたまらなかった。
彼女ならきっと大丈夫だ。そう思ってもかけつけずにはいられない。
行って何ともなければそれでいい。
「ラクス!ラクス!」
クライン邸の玄関の前で呼び鈴を鳴らすが応答がないのでドアを叩いてみる。
しかし、ラクスの応答は一向にない。
「無断進入はしたくはないが……」
そう言いながら新しく作ってきたハロをカバンから取り出し、クライン邸の玄関の鍵を開け中へ入った。
「ラクス?」
いつもの穏やかな雰囲気のクライン邸が暗闇では違う雰囲気を漂わせ、アスランは思わず身構えした。
すると上の階から聞き覚えがある声が聞こえアスランは階段を見上げる。
「歌……?」
聞き慣れた歌声が聞こえてきてしばし足を止める。
その声はアスランが一番逢いたい人の声だった。
はっきりとは聞こえずくぐもっているがその歌声を間違えるはずがない。
アスランは階段をのぼりためらわず歌声が聞こえた部屋のドアを開いた。
「ラクス!!」
「まあアスラン、こんばんは」
アスランがドアを開けると床に座り膝の上にピンクハロを乗せているラクスがいた。
いつも出迎えてくれる笑顔でアスランを見上げている。
「勝手に入ってすみません。……大丈夫ですか?」
「入るのは全然構いませんわ。お会いできて嬉しいです。私は大丈夫ですが……何が“大丈夫”かなのですか?」
アスランは暗い中、目をこらしてラクスを見た。
暗闇の中、もしかしたらラクスが怖がっているかもしれない、と思いクライン邸へ来た。
しかし当のラクスはいつものように微笑み歌っていた。
やはり彼女は大丈夫だったというわけだ。それでもその姿を見るまで不安で仕方なく、姿が見れて安心していた。
「すみません、何でもないです。大丈夫ならいいんです」
そう言ってアスランはラクスに背を向け部屋からでようとする。
「アスランっ!」
「え?」
普段は滅多に出さない大きな声で呼ばれアスランはびっくりした。
ラクスの方を振り返るとラクスは立ち上がりアスランを見ていた。
微笑みはいつの間にか消えどこか不安げにも見える。
「どうしたんですか?」
「あの、どちらへ行かれますの?」
「とりあえず暗いと不便ですからロウソクか懐中電灯を探しに行こうと……」
ラクスのその表情を見ながら答え、アスランは気がついた。
先ほどの余裕を持ち合わせていたラクスとはうってかわり、表情は強ばり胸の前で手を合わせている。
暗がりのため自分の気のせいかもしれない。アスランはそう思いながらもラクスに言った。
「怖い、ですか?」
「そ、そんな事ありますんわ」
そう言うラクスを見てアスランは少し笑い、再びラクスに背中を向けた。
「あっ……」
「ラクス、その手は何ですか?」
アスランが部屋から出ていくのを阻むようにラクスはアスランの服の裾をぎゅっと掴んだ。
「えっ……いえ、その。きゃっ」
ラクスが言いにくそうに下を向いていると突然アスランに抱きかかえられた。
「アスランっ!?」
その行動にラクスは驚きアスランの名を呼ぶが、アスランは笑みを浮かべラクスをベッドに寝かせた。
「ラクスが寝付くまでここにいますから」
アスランはそれ以上は何も言おうとせずラクスを見つめた。
ラクスはその視線がなぜだかくすぐったく感じ、思わず顔を両手で覆った。
「ラクス……?」
「私、“怖い”んですの」
ラクスは顔を手で覆ったままそう言った。アスランは何も言わず黙っている。
「何も……見えなくて」
覆った手を天井に伸ばしそう呟く。明かりは全くないが暗闇に目が慣れ何も見えないという事はない。
それでもラクスは何も見えないと言った。
「大丈夫ですよ」
優しげな声が聞こえると伸ばされた手に暖かい手が触れた。
掴むように触れられた手にラクスは指を絡めるように握り返す。
「何も見えなくても手を引きます」
「引けない時はどうなさいますの?」
自然と出たその問いかけに言ってから失言だったと気がつく。
引いてくれると言ってくれたのだから素直に返すのが礼儀だ。
でもずっと引いてくれないかもしれない、手を離されて、手を離すようかもしれない。そんな考えが不安となりいつの間にか問いかけていた。
「わかりません」
答えがかえってくるとは思わなかったがその返答に少し寂しさを感じた。
その寂しさを拭い去るように強く握られる手。本当に不安も寂しさもなくなればいいのにと思った。
「できるなら……ずっと離さないでいたい」
独り言のような言葉。確かに聞こえた言葉に嬉しくも何か言うことはできなかった。
しばらく無言のままの時間が続いた。
暗闇の中、ラクスは天井を見つめる。手を握る痛さも暖かみも心地良い。
「アスラン……」
呟いた瞬間暗闇から光に引かれたような感覚に襲われた。
眩しさに目が眩み瞳を閉じる。
電気が復旧したのか部屋の明かりがついた。
「ラクス、大丈夫ですか?」
「大丈夫、ですわ」
ゆっくりと瞳をあけるとアスランの顔が目の前にあった。光を遮るような体勢。
それはアスランが光を背負っているようにも見えた。
「凄いですわ」
「なにがですか?」
ラクスは一瞬言葉を失うがすぐにそんな言葉がでた。
感動でもしているかのような言葉の意味がアスランにはわからず首を傾げている。
「ふふっ……何でもありませんわ」
嬉しそうに微笑むと起き上がりベッドから立ち上がった。二人を繋いだ手は離れない。
「ラクス?」
どこかへ向かおうとするラクスに呼びかけるとラクスは振り返って言った。
「夜のお散歩を致しましょう」
−あなたは私の見えぬ愛をその光で照らしてくれた−
「そういえば、大分前にも夜に散歩しましたよね」
「はい、とても楽しかったですわ」
夜道を手を繋ぎ歩いているとアスランがふと思い出したように言った。
ラクスは嬉しそうに答える。
「楽しかった……。そうですか」
「楽しくありませんでしたか?」
暗い表情になったアスランを覗きこみながら問いかける。
苦い思い出を語るがのようにアスランは呟いた。
「暗い夜道、ハロの大群に奇襲かけられたのはいい思い出です」
「ハロちゃん達もアスランに会えて嬉しくて飛びついたのですわ」
はははと渇いた笑いを漏らすが一息つくと空を見上げた。
「懐かしいですね」
「はい。あの時、気づいたのですわ」
「“気づいた”?」
独り言のように言ったつもりが聞き返されラクスはアスランから視線を逸らした。
「ラクス?……っ!?」
「ふふっ」
呼びかけながら顔を覗きこむとふい打ちのように頬にキスをされた。
アスランの驚きようにラクスは満足気な笑みを見せる。
その笑みに何か返せないかと考えると何か思いついたのかラクスの手を軽く引いた。
「アス……んっ」
ラクスのふい打ちに対抗してか、唇へのふい打ちキス。
唇が離れると満足気な表情を見せるアスラン。ラクスはその表情を見るとくすくすと笑った。
その笑いでふい打ちが失敗したと思ったのかアスランはふてくされた表情になる。
その表情さえも楽しそうに笑うラクス。そんなラクスを見ている内にアスランも笑みを浮かべる。
そして耳元に少し恥ずかしそうに囁いた。
ラクスはその言葉に驚くがすぐに笑顔になりまたふい打ちのキスをする。今度は唇に。
“ラクスは花のようですね”
−I'm ready for you
笑顔になる涙になる
逢いたいよ
気持ちがこぼれて
あなたという風景
描いた空
あなただけにあなただけに
あなたにしか見えない花
それはあなたの光に照らされてから
私はその花の存在に気づいた
きっと暗闇でも大丈夫
ココはひだまりだから
あなたを想う
このただ一つの感情が
暖かさとなるから
胸に咲く愛しさ
伝えたい
ひだまりで待ってるよ
It's only my love...−
私のわからない
私の知らない
私が咲く
それは決して枯れない
H17.4.4
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