たとえキミが消えても
「アウルが……死んだ?」
カオスの損傷が激しく帰還すると艦内が慌ただしかった。
最初は戦闘だから普通だろうと思う。
でも“アビスがやられた”という言葉が耳に入ってきた。
「スティング〜バスケやろうよ〜」
バスケボールを抱きながらアウルが言った。
「俺は寝てるんだ」
ベッドに仰向けに寝転がっていた俺はアウルから顔を背け、体勢を横向きにした。
「なぁ、いいじゃんか〜」
ゆさゆさと体をゆさぶられるが応答はしない。
しばらく揺さぶられるが何の反応も示さない。するとアウルの手が俺から離れた。
「そんな寝てばっかだとあっという間にジジイになるんだからなぁー!」
吐き捨てるように言うとドアが開き閉まる音がした。
「ジジイって……」
起き上がりドアを見つめる。やれやれと頭を掻きながら立ち上がり部屋を後にした。
外に出るとボールをつく音が聞こえた。
近づいていくとアウルがゴールにシュートをした瞬間が目に入る。
「あー!つっまんねぇ」
そのまま体を倒しそんな事を叫ぶように言っていた。
「 は誘わないのか?」
「……あいつは駄目。バスケの才能なし」
見下ろしながら話しかけるとアウルはジト目で見てくるが、問いかけには答えた。
「誘いはしたんだな」
「まあね」
寝転がっているアウルの隣に腰かける。何をするわけでもなく空を見上げた。
「あっおいなー」
横から声が聞こえ見下ろすと、アウルが片腕をあげ手のひらを空に翳していた。
「今日は晴れてるからな」
「空も海も青なんだね〜」
「お前も青いじゃないか」
俺の言葉に一瞬目を見開くがすぐに笑みを浮かべた。何かに驚いたような感じがした。
「僕も青、か。そうだといいな」
少し含んだようなその言い方が引っかかったが、空を見上げているその横顔を見たら何も聞けなかった。
嬉しそうな、でもどこか寂しそうなそんな表情だった。
「あ、 !!」
アウルは起き上がり呼びかけた。
あたりをきょろきょろしていたが俺達を見つけると嬉しそうに駆け寄ってくる。
「スティングも一度見てみれば?こいつのバスケは傑作だよー」
「どんなバスケだ」
「 」
アウルは先ほど自分がシュートしたボールを取りに行った。
“アウルは不思議”
笑みを浮かべ はアウルを見つめながら呟いた。
「アウル、バスケやらないか」
「やらない」
バスケボールを手にしながらアウルを誘った。
しかし即答で断られる。
「どこか悪いのか?」
「何が?」
「いや、珍しいなと思ってな」
いつもなら暇な時は何かしてないと落ち着かないというほどのアウルが部屋のベッドで寝転がっている。
何をするわけでもなく天井を見てるだけ。
だから調子が悪いのかと思ってしまう。
「どっこも悪くないよ?」
「ならいいんだけどな」
いつもの調子で軽く言うアウルに少し安心する。
「……ちょっと外、出てくる」
ベッドから立ち上がりそれだけ言うとアウルは部屋を出て行った。
「アウル!」
「ん、なんだよ」
戦闘命令が出てアウルを探しにきた。
返事がないからどこにもいないのかと思ってしまった。そんなわけはないが。
「そういえば僕の髪も青だよな」
「何、今更な事言ってるんだ?昔からお前の髪はその色だろ」
「あ、あぁ……」
近づいくとアウルが変な独り言を言っていた。
当たり前のように言うとアウルは少し戸惑ったように頷く。
「戦闘だってさ」
「もう?早くね?」
「予定通りだ」
そう言うと艦内へと足を進ませる。近づいてきた足音が聞こえなくなり振り返った。
「アウル、どうした?」
「なんでもない」
アウルは海に顔を向けていた。すぐに向き直りいつもの口調で言った。
「……夢か?」
目を開けると見覚えのある天井。自分の部屋だった。
隣のベッドにはいるべき人はもういない。
今にもドアが開いて
“あんなの嘘に決まってんじゃん”
とか言いながら部屋に入ってきそうな気がする。
でもそれはもうない。
彼はもういないのだから。
母を愛し、最も恐れていた少年は母なる海に還ったんだ。
“か、母さ……母さんが死んじゃうじゃないかぁっ!!”
今でも脳裏に焼き付く悲痛な叫び。
あの少年は何に孤独を感じたのか。何を守りたかったのか。
今ではもうわからない。
「行かなきゃな」
ベッドから立ち上がり部屋を出る。
あの揺りかごに行かなければならない。
いつもよりも揺りかごに向かう足が重い。
いつもならあの揺りかごに入れば楽になれるとわかっているのに。
俺の中で何が変わってしまったのだろう。
そしていつも
のように揺りかごに包まれる。
きっと何も変わらない
いつものような
日常
何のわだかまりもなく
過ごす
いつか来るその瞬間
それさえも考えない
戦う事が生きる事
それ以外何も……
海のような少年は
空には羽ばたけず
溺れた
消えたのか
溶け込んだのか
わからない
少年の瞳に
最後に映ったモノは
何だったんだろう
残虐で純粋な少年は
矛盾なる青へと……
たとえキミが消えても
何も変わらない
たとえキミが消えても
この青はなくならない
H17.5.16
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