棄てて拾って 僕はキミの胸の中


 


「ねむ……」

うるさいほどの波の音が眠気を覚ますけど、それでも陽があったかくて眠い。
何でか海辺に来てて、砂浜に寝転がっていた。
少し離れた所から少女の楽しそうな笑い声が聞こえる。

「アウル眠いの?」

いつの間に近くに来たのかステラが僕を見下ろしていた。

「うん」
「じゃあ寝てて……」

それだけ言うとどっかへ行ってしまった。さっきまで聞こえていた笑い声は聞こえない。

「海って嫌だよね」

冷たいじゃん、溺れるじゃん、息できないじゃん。
“死”がブロックワードのステラが何で死と隣り合わせの場所を好むのか。

「ま、あそこにいるかぎり隣り合わせだけど」

いっそ逃げれたらステラは幸せなのかもしれない。……連れ出してしまえば。

「阿呆らし……」

何をこんなに真剣に考えているんだか。できもしないのに。
いつかは死がくる。あいつも僕も。

「さむっ」

太陽が雲に遮られ、陰りだけが僕を照らす。
照らす陰りは冷たいのに砂浜が暖かくて居心地は悪くない気がした。
光さえ見えなくて、僕を照らすのは陰りだけで。


ダレガボクヲ
ヒロイアゲテクレル?
棄ててしまった
ボクヲ
ダレガ……


「アウル」
「何?」

いつの間に瞳を閉じていたのか、視界にステラはいないのに声が聞こえた。

「いてっ!何だよ」

小さな粒みたいな物が何個も顔にあたった。
目を開けるとステラが満足げな表情をしている。

「起きた?」
「別に寝てないし」

そう答えるとステラは相変わらず笑みを浮かべたままで僕の横に寝転がった。

「ステラはさ……」
「なに?」
「何で海が好きなの?」

疑問に思いつつ一度も聞いた事がなかった。
ステラは生まれた時から海が好き。そう思えるぐらい海が好きなのだから聞く必要すらなかった。
でも今は聞きたくなった。

「つめたいから」
「え、つめたっ」

ステラの方に顔を向けると同時にステラの手が頬に触れた。酷く冷たい。

「冷たくて、優しくて、暖かいから」

嬉しそうに言う。少し間をあけて更に笑みを深めた。

「好き」

何かが鳴った。
途端に頬が熱くなった気がした。ステラの手が熱いのか?違う、僕が…

「ふふ……」
「何笑ってんだよ」

笑いながら起きあがるステラを見上げる。
僕の顔に手を伸ばすとすぐ横の何かを拾う仕草をした。

「貝殻?」

いくつか拾いあげていく様を見ながらチラリと見えた物を口に出した。

「うん、貝殻」

拾いあげた貝殻を手のひらに乗せ、魅入り嬉しそうに答える。
その表情が宝物か何かを見ているようで、そんな大層な物ではないのに……そんな気がした。

「ステラ」
「なに……?」

片腕をステラに差し出すとステラは首を傾げた。

「起こして」

そう言うとステラは伸ばしていないもう片方の手も掴み起こしてくれる。
また何かが鳴った。
僕に手を伸ばしてきたその表情がさっきの表情のようだったから。

「ありがと」
「うん」

ステラは僕を起こしてそのまま両腕から手を離さない。このままでいていいかとさえ思う。

「離せよ」
「あ……ごめんなさい」

少し泣きそうな表情で謝ってくる。でもその表情はすぐに見えなくなった。

「アウル?」
「ステラの体、冷たい」

抱きしめたステラの体はさっき頬に触れられた手と変わらず冷たかった。
戸惑いながらも回された腕。ぎゅっとしがみつくようにステラは僕に抱きついた。

「アウルは海みたい」


キミが
拾いあげてくれるんだね
その冷たい手で
ボクを
君は決して
届かない光のようで
冷たいのに暖かい
それは海の中にいるよう
息もできない
苦しくて
でも心地いい
空を飛べなくてもいい
海を飛べるなら
この冷たさを
感じれるなら
それと同時に
何かが鳴る
決していいものじゃない
でもそれがいい
キミが拾い上げてくれるんだから
棄てて拾って
ボクはキミの胸の中




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