君呼ぶ塞ぐ唇
「あつ……」
オーブの慰霊碑の前に佇み、生温い風を身体に受ける。
足音が聞こえ振り返ると自分とあまり年の変わらない少女がいた。
どこかで見たような気がする。でも誰なのかはわからない。
「こんにちは」
少女は笑みを向け挨拶をしてきた。シンは小さな声で挨拶を返す。
摘んできたのか、いくつかの花を慰霊碑の前に置こうと少女は屈む。
「誰か亡くなったんですか?」
聞いたあとに名前も知らない人に不躾な質問をしてしまった事に気がつく。
花を置き、少女はシンを見上げ微笑んだ。
「っ……」
その瞬間強い風が吹き、少女の長い桃色の髪が少女の顔を隠した。
目の前が見えなくなったためか少女は屈んでいられず地面に座りこんでしまった。
「大丈夫ですか?」
髪を乱し座りこんでしまった少女に聞くが返答はない。
乱れた髪を直そうとはせず少女は黙って俯いていた。
「服が汚れてしまいますよ……わっ」
少女の腕に触れ立ち上がる手助けをしてやろうとするが、その手は振り払われた。
腹が立ちそうになるが見覚えのあるこの少女を見るとその気持ちはなくなった。
「どこかで会った事ありませんか?」
まるでナンパのような言葉に自分でも驚く。
だがそれ以外聞く術がなかった。
「……ありませんわ」
俯いたまま答えられさすがにむっとくる。
「顔見て言えよ!」
シンは屈むと少女の顔を両手で掴み顔を上げさせる。
先ほど挨拶した時の微笑みはなく、驚きながらもどこか傷ついたような表情。見ているほうが痛くなる。
睨むような誰にも近付いてほしくないようなまなざし。
その強いまなざしが霧のかかった記憶の霧をはらした。
「ラク……」
名前を口にしようとすると少女はびくっと身体を震わせ、シンの口を両手で塞いだ。
「ごめんなさい……」
それだけ言うと塞いでいた手を離し視線は地面へと戻る。
いつの間にか少女の顔から離れていた両手は少女の暖かみが残っていた。
「どうしてこんな所にいるんですか……プラントにいるはずじゃ」
シンが問い掛けようとするが少女はシンの上着を両手で握りしめた。
強く握りしめられるそれはまるで何も聞かないでと訴えかけているよう。
俯いていても見える彼女の表情がやはり痛くてシンはそれ以上聞く事はできない。
「塞いでください」
「え……?」
再び少女の顔を両手で包むと少女の唇に自分の唇を押しあてた。
「名前を呼ぼうとする唇を塞いで……」
一度離した唇をもう一度重ねるため距離を縮める。
そして少女は瞳を閉じた。
―痛い瞳を
拭いたくて
何もわからない
でも貴女がくれた温もりは
貴女にも感じてほしい
この唇が貴女に冷たさを与えるなら
貴女の暖かみで塞いで
それはまじないのように
その瞬間を塞ぐ
あいのコトバ―
H17.8.5
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