見失う在処・抱く印
「ラクス嬢」
「イザーク様?」
砂浜に佇み遠い水平線を眺めていると背後から名前を呼ばれた。
振り返るといつ以来と言えるほど久しぶりの対面となるイザークがいた。
「オーブに用事があって来たんです。ラクス嬢は今ここにいるとアスランに聞いたので」
アスランの名を出すとラクスは苦笑にも見える微笑みを浮かべた。
「お久し振りですわね、イザーク様」
「自分に“様”は不要です」
刺すような視線にラクスは視線を逸らし俯く。
「今からお聞きする事、無礼と承知ですが答えていただきたい。どうしてオーブにいるのですか」
イザークの問い掛けにラクスは顔を上げた。しかし答える素振りはない。
「プラントに貴女が必要なのはわかっているはずです」
「……側にいたい方がおります」
真っ直ぐな視線で告げられたが言葉には迷いがあった。
イザークは少しあった距離を縮める。ラクスは一歩後ろに退いた。
「それはアスランではないんですか」
「はい……」
近くなった距離を更に縮めようと足を踏み出す。
だがラクスもまた後ろに退いた。海水に足が浸かりかけている。
「何があったかは自分には知る余地もありません。でも納得できません」
「それでも私は“側にいたい人がいる”と答えるしかできませんわ」
もう一歩近づこうものならこの場から走り去ってしまいそうなラクス。
それでもイザークは足を進ませた。
「ラクス嬢!?」
イザークが踏み出したと同時に海へと身体を進ませるラクス。
気温も低いため身体を壊しかねない。
「ラクス嬢!」
イザークも海へと身体を進ませる。
「来ないで下さい!!お願いします……私に気づかせないで」
背中を向けたラクスの精一杯の言葉。
寒さなのか別の何かでなのかラクスの声は震えていた。
「駄目だ!」
後ろから身体を捕まえられそれ以上進めなくなってしまった。
敬語ではないその言葉に威圧感を感じて動けない。
「本当はこんな事を言ってラクスを困らせたいわけじゃない。俺には貴女が必要だと思ったから来たんだ」
その言葉で張り詰めていたものが切れ、ラクスは力をなくした。
立つ事さえままならない自分の身体を支えてくれるイザークの腕が心地よく感じた。
「イザーク……」
名前を口にするとラクスは意識を閉ざした。
きっと貴女は側にいたいんだ。
あいつの側に。
だからそこにいるんではないかと思う。
気づかなくていい。
貴女が苦しむなら。
でも“ラクス・クライン”は見失うな。
自分の道を信じろ。
何の力にもなれない。
でも俺は貴女を見てきた。
これからも見ている。
だから見失うな。
必ず見ている誰かがいるのだと。
それは俺だけではないのだと。
意識を失ったラクスに語りかけるような独り言。
ラクスが目覚める前にイザークはラクスの前から去った。
―今いる場所さえわからない
私はどこを見ているのでしょうか
わからない
歩けない
…触れない
だから閉ざす
私はここに
景色も変わらず
ずっと
でも印が見えた
見えない印
それは確かにあって
痛みをくれて
私は変わる景色の中で
歩いていく
この印を抱いて
目指す場所は
きっと在処―
H17.8.5
book /
home