Wing my Way〜for myself〜
「ラクスがいないんだ」
「何で僕のところに来るの?」
快晴の中、その天気とはうらはらな表情をしているアスラン。
キラは笑顔で答えた。すると訝しげな眼差しでアスランはキラを見る。
「原因がわからない時はキラが関与してる時が多いからだ」
「面白い事言うね〜」
疑うアスランに笑顔のキラ。しばらく沈黙が続くがキラが観念したかのようにため息をついた。
「仕方ないな〜」
「やっぱりお前が関わってるのかっ!」
「アスラン、昔パズルとか好きだったよね?」
「そうだな……今はあまりやらないが」
キラ宅にあがったアスラン。肝心のラクスがどこにいるのかという事はまだ教えてもらえずにいた。
「な、何がそんなにおかしいんだ?」
異様なほど笑むキラに問いかけるがキラは何も言わずティーカップを差し出した。
あからさまに怪しすぎる。以前怪しい色のお茶を飲んで大変な目にあった記憶がよぎる。
しかし差し出されたティーカップに入っているお茶は普通の紅茶。おかしい感じはしない。
「何でパズルやめたんだっけ?」
「それは……」
そういえば何故自分がパズルをやめたかなど覚えていない事に気がついた。
ゲームばかりでは目が悪くなるし、飽きたというのもあって古典的な物に手を出した。
それが突如やめている。何故かはわからない。
「それが何だって言うんだ?」
質問の意図が掴めず聞き返すがアスランの問いにはキラは答えない。
「お茶菓子でも取ってくるからお茶でも飲んでてよ」
「あ、あぁ」
部屋から出ていくキラを見送りながらアスランはティーカップの取っ手を持った。
「頑張ってね」
意味深な言葉を残し扉は閉められた。
やはりこのお茶に何かあるのだろうか。
「いや、すぐ疑うのはよくないよな」
今まではあからさまに怪しいモノに大変な目にあわされた。このお茶は普通だ。
キラの先ほどの言葉は気になりながらもカップに口をつけお茶を飲んだ。
「ほら何とも……」
急に目眩を感じ床に倒れ伏した。
それと同時に部屋の扉が開いた。
「道具は日々進化するのさっ!」
キラは少し威張りながら部屋に入る。アスランにシーツをかけてやり、アスランの頭を軽く小突いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ん……」
冷たい風を感じアスランは目を覚ました。
草の匂いを感じ慌てて起きあがる。
「ここは……」
少し前に見た事がある景色がそこにはあった。辺りが草だらけで広い野原。
あれは約一年ぐらい前だろうか。七夕の時にも来た覚えがあった。
「あらあら」
後ろから声がして振り向くと少し先に幼い少女が立っていた。
アスランはさして驚いた様子もせず立ち上がり少女に近づく。
まるで少女がいる事がわかっていたかのような様子。
驚いていない自分が不思議に感じた。
桃色の髪の少女は近づくアスランに驚いていた。アスランはふっと笑うと少女の髪を撫でた。
「何かお探しなのですか?」
「え、いやそういうわけでは……」
以前は笹を探していた。今回は何故またここに来てしまったのかわからない。
「久しぶりにお会いできて嬉しいですわ」
「俺もです」
にっこりと笑む少女に笑みを返す。すると少女の顔に水滴が落ちた。
「雨?」
「あちらに大きな木がありますの。そちらへ参りましょう」
少女に手を引かれ大木の下で雨宿りをする事にした。手を引く少女の後ろ姿が愛しくもくすぐったかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「誰、ですか?」
紺碧髪の幼い少年がこちらを見ていた。
ラクスはきょろきょろと辺りを見るが見覚えのない部屋にいた。
「あ、待って下さい!」
明らかに怪しいと思ったのか少年は部屋から出ていこうとする。
ラクスは慌てて後ろから体を抱きしめ止めた。
「なっ!?は、離して下さい!」
「私と少しお話をしてくださると約束していただければ離しますわ」
しばらくじたばたとラクスから離れようとするが離れられず小さな声でわかりましたと言った。
少年から腕を離し一歩後ろにあとずさり座る。
少年はラクスの方に向き直った。顔はほのかに赤みを帯びている気がする。
「な、何がおかしいんですか!?」
くすくすと笑うラクス。少年は恥ずかしさからか余計顔が赤くなった。
「雨止みませんわね」
「そうですね」
雨宿りしたはいいが雨は勢いを増し、止む気配はなかった。
「寒いんですか?」
両手で二の腕を抱え寒そうにしている少女に問いかけるが少女は首を横に振った。
「……俺は寒くなってきてしまいました」
「え、きゃっ」
腕を引かれ引き寄せられると背中に暖かみを感じた。後ろから抱きしめるような体勢で暖めてくれているよう。
「こうしてたら暖かくなりますから」
「はい……」
後ろから回された手に振れながら少女は空を見上げた。
「空が見えないと心寂しいですわね」
「見えない?」
曇ってはいるし雨も降っているが確かにある空。その空を否定するような発言にアスランは少し驚いた。
「見守ってくれているような……そんな晴れた空が好きなんです」
「でもそれはただの一面であってどんな形でも空は空ですよ」
アスランのその言葉に少女は何も言わず首を横に振った。
「いつまでも同じ形ではいられないし、変わっていく。それは俺達も同じで……」
「変わりませんわ!少なくとも……私は」
振り向かれたその顔は今にも泣きそうなほど。唇が微かに震えていた。
「ずっと強く在り続けても弱い」
「強く在り続ければ強いですわ」
アスランは笑みを浮かべながら腰を屈め少女と同じ目線にした。
「相反する物があるからそれが何かわかる。そのままじゃあ気づけない。だから」
アスランが少女の髪に触れると驚いたのか体を震わせた。
「泣いてもいいんですよ」
少女は少し戸惑うがアスランに縋りつき静かに泣いた。
「不思議な人ですね」
「よく言われますわ」
少年に言われラクスは笑顔で返す。少し他愛のない話をしていた。
その話の中で少年はラクスを“不思議”と認識したのだろう。
「あれはジクソーパズルではありませんか?」
「あっ、それは駄目です!」
ふと視線を机に向けるとパズルの1ピースが視界に入った。
立ち上がり机の上にあるジクソーパズルを見る。
「綺麗な青ですわね。もうすぐで完成ですか?」
薄い青が一面にあるジクソーパズル。あと何ピースかで完成のようだった。
「いえ、それが1ピース足りなくて」
少年は未完成のジクソーパズルを見たくないかのように背を向けた。
「きっとキラが……俺の友達なんですけど喧嘩した拍子に取ったみたいで」
「もうやめるのですか?」
「それが原因で喧嘩してしまって」
少年は落ち込んでいるのかうなだれ無言になった。
「一人で完成させたいとそのお友達の手を振り払ってしまったのですよね?」
「どうしてそれを!?」
ラクスの言葉に少年は驚き振り返った。ラクスは少年に一歩近づき、左肩に手を置いた。
「一人で完成するのも素敵ですけど、他の方と完成させるとまた違うものが見れるかもしれませんわ」
少年はしばし無言のまま俯き顔を上げ笑みで答えた。
「ここに取り出したるは……1ピース、ですわ」
左手にパズルの1ピースを持ち少年の目の前に出した。
見覚えのある1ピース。まるで手品のような出来事に驚きながらも嬉しそうだった。
「ラクス!!」
「こんにちは、アスラン」
クライン邸に飛び込むと今日ずっと探していたラクスがそこにいた。
「ラクス、あの……未完成のジクソーパズルってありますか?」
「ずっとしまっていた物です」
ラクスの部屋に行き、ラクスはアスランが言う未完成のジクソーパズルを出した。
ピース欠けているジクソーパズル。
「アスラン、以前キラにいただいたパズルをお持ちですか?」
「はい」
一年前キラがラクスからの手紙だと1ピースを渡した。ラクスからの手紙なのだからラクスがその事を知っているのは当然だろう。
その1ピースをラクスに渡した。
「これは私がアスランに渡したヒントでしたの。アスランは迎えに来て下さいましたでしょう?」
嬉しそうにそう言いながら1ピースをはめた。
だがまだ1ピース欠けていて未完成のまま。
「これを……」
「アスランがどうしてそれを?」
もう1ピース差し出すとラクスは驚きの表情を見せた。
差し出された1ピースは受け取らずアスランの手を握る。
「アスランが完成させて下さい」
「はい」
最後の1ピースをはめ未完成のジクソーパズルは完成した。
「昔この絵が嫌いでした。まるで雨が降りそうで」
空に雲がかかり青い部分もあれば灰色の部分もあるパズル。
「でも違うのですね」
「これをはめれば完成しますわ」
少年はその言葉を聞き嬉しそうにするが、首を振り差し出された手をパズルと一緒に握った。
「いいんです、これで」
「未完成のままで?」
ラクスの問いに少年は頷き笑みを浮かべた。
いつか完成する日が来るから
これはそのはじまり
「ラクス?」
だんまりしてしまったラクスに呼びかけるとラクスは笑顔で答えた。
そしてアスランの腕に自分の両腕を絡める。
「これははじまりなんですわ」
「そうですね。ここからまたきっと……」
最後まで言葉は言い切らずにアスランはラクスに口づけた。
−高らかな天を仰いだ
飛び立つ白い鳥の群れに
のせた夢はどこへゆくのとたずね
風に飛ばされて
思いもよらない迷路に迷っても
探しにゆこう
流れる雲追いかけ
例えば この先
どこかで道が途絶えても
続く大地に
果てしない地図を描こう
間違いなど恐れることはない
ここから始まる無限の物語は
放物線を描き
地平線の向こう側まで続いてゆく
どんなに悲しい事があっても
涙の跡はきっと
誰かが旅をする
希望の道になるよ−
少し俯いて
またあげると
違う景色が見れるかもしれない
その時誰かが隣にはいる?
未完成の空は
拙い自分のようだけど
愛しくて
飛びたくて
歩きたくて
まだ完成はしない物語だけど
確かに歩く足があるから
握る手が在るから
交わす唇があるから
抱き合う身体があるから
だから
歩いていく
この無限の物語を
H17.6.17
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