愛するあたしを知らせて


 


「シンって女の子に可愛いって言ったりするの?」
「はっ?」

ミネルバ艦内通路を一緒に歩いていたら脈絡もなく問い掛けられた。

「言うけど……言わない」

自分をジッと見つめるミーアの視線が何だか恥ずかしく感じて、瞳をそらした。

「そう」

ミーアは素っ気なく返し顔を俯かせながら、シンに背中を向けた。
その背中が寂しそうに感じてシンはため息を吐こうとするが、吐く寸前で飲み込んだ。

「あ……その、可愛い。ミーアは可愛い」

恥ずかしくも何とか言えて安堵するもののミーアは何の反応も示さない。

「ミーア?」
「“ラクス様”は可愛いわよね」

シンに背中を向けて見えはしないのに、ミーアは自分の顔を隠すように両手で覆った。

「俺はっ」
「わかってる!わかってるの……」

シンの言葉を遮るように強く言うがすぐに弱々しい口調になる。

「泣いて……」
「泣いてなんかないわ」

顔を隠す様が泣いているように見えて聞こうとするが、その言葉も遮られた。
彼女の今までなんてわからない。決して楽な道ではなかった事は予想がつく。
だから彼女は今自分の目の前にいるのだから。

「ミーアは可愛い」
「シンは本当のあたしを知らないから……!離してっ」
「嫌だ」

シンの一言にミーアは怒ったような態度を見せ振り返った。
すると両手首を掴まれ動きを封じられてしまう。

「ここにいるミーアは“ミーア”じゃないの?」
「この顔は……ラクス様の顔よ」

優しげな瞳に覗きこまれミーアは逃げるように視線をそらす。

「俺を見るミーアも、俺を好きだと言うミーアも全部ミーアじゃないミーア?」
「違っ!……あたしはあたし?」

否定しようと視線をあわせるが一瞬そらし、上目遣いで恐る恐る問い掛ける。

「ここにいるミーアが可愛いから俺は可愛いって言う。ミーアが俺を見て、俺を呼ぶから」

目を伏せてゆったり言われる言葉が心地よくてミーアも目を伏せた。抱きしめられ身をまかせる。

「あたしは……あたし」

呟くと瞳から涙が零れた。今の自分は確かにここにいるのだという実感が不安ながらも嬉しく感じた。

「ミーア」

呼ばれて目を開けると笑みを浮かべたシンが瞳に映る。首に両腕を絡めるとシンの顔を引き寄せた。

「シンの前でだけあたしを可愛くいさせて……」



H17.9.17



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