ため息でも逃げないから
「はぁ……あっ、ため息吐いたら幸せ逃げちゃう」
オーブの町中、ショーウインドウの自分と手をあわせてミーアはため息を吐いた。
すぐに慌てて片手で口を塞ぐ。
「……何、でしょうか?」
見た事もない少年がいつの間に真横に立ち自分を凝視していた。
面立ちから自分よりも年下に思える。
「あんたアレだろ?プラントのアイドルってやつ」
オーブで声をかけられた事はあまりなかった。たまにザフト軍の兵に声をかけられる。何より外出自体あまりしない。
この少年はザフトの人間なのだろうか。そんな疑問がミーアの中にあった。
「アウル、何やってるんだ?」
「スティング!アレアレ、アイドルがいたから声かけてみた」
妙に楽しげなアウルという少年に呆れ顔のスティングと呼ばれた少年。
「声かけてみたってお前それじゃあナンパじゃないか」
「え、そうなの?」
完全に自分は置き去りにされていると感じミーアは二人から一歩離れ、その場を去ろうとした。
「待てよ!ナンパってやつしたんだから付き合ってよ」
「私は買い物に来ただけですから……」
アウルに右腕を掴まれ去るに去れない。
「嫌がってるならやめておけ」
「嫌がってないって」
どこをどう見たら嫌がってないように見えるのか、しかし腕をふりほどく事もできない。
「急いでますからまた今度誘って下さい」
何とか断ろうと丁寧に言ってみるがアウルはかえって変な表情をした。
「いっつもそんな言葉遣いなの?」
「そ、そうですが何かおかしいでしょうか?」
更に訝しげにミーアを見てくる。スティングもそう見ている気がする。
「変、絶対変」
「そうだな、何かイメージと違うな」
この人達は何を言っているのだろう。“ラクス・クライン”である自分の何が変だというのか。
「もっと普通なのかと思った」
「あたしはラクス・クラインなのよ!?」
普通という言葉に思わず反応して声を荒げてしまう。“ラクス・クライン”は普通では駄目という考えがどこかにあるからだろう。
幸い周りに人はいない。しかしこの二人は変に思うに違いない。
「いいんじゃない?あんたはあんたなんだから」
「そっちの方がいい気もいるけどな」
この二人は“ラクス・クライン”を知らないんだ。そう思った。
でもそれなら何故声をかけたのだろう。
「だから少し付き合ってよ」
「全然話し繋がってない気がするんだけど……」
「アウル、時間切れだ」
スティングが腕時計を確認するとそう告げた。アウルはえー、と不満の声をあげる。
「じゃ、次会ったら絶対付き合ってよ」
両手でミーアの手を握り言うとスティングと共に歩き出してしまう。
「待って!」
自分でも気がつかずに呼び止めてしまい、口を塞いだ。
でも呼び止めてしまったのだから二人は立ち止まり振り返る。
「何?」
「どうして……あたしに声をかけたの?」
ミーアの問いに二人は笑った。わかりきった事を聞くなといった風な表情にミーアは恥ずかしくなり俯く。
「面白そうだったからっ!」
「え……?」
“ラクス・クライン”を知らないのに面白そうという理由で声をかけられた。思わずわけわかんないと笑いながら呟いた。
二人は軽く手をあげて振り、行ってしまった。
「……変なの」
何だかおかしくて笑みを浮かべたままミーアは帰路についた。
H17.9.18
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