底から星を見上げて
「あっ」
「ステラ?」
艦内に戻ろうと足を進めていたらステラの声が後ろから聞こえた。
ずっと海を眺め続け、夜になっても部屋に戻る気配がなかったため迎えに来たというのにまだ何かあるというのだろうか。
「海はまた明日見ればいーだろー……って何見上げてんの」
振り返るとステラは海の方に体を向けていたが、顔は海ではなく空を見上げていた。
「星がね……流れたの」
「星〜?」
ステラの真横に立ち、ステラの目線にあわせ空を見上げるがいつもと変わらない夜空だった。
「いつもと変わんないじゃん」
そう言ってもステラは真剣なまなざしで空を見ていた。気付けば胸の前で両手を握りあわせている。
「何?星に願い事でもすんの?」
「うんっ、三回唱えたら叶うって……ネオが教えてくれた」
今時小さい子供でも信じなさそうな事を……と思うがステラは信じているようだった。
「アウル?」
前に向かって歩き出したアウルに呼び掛けると、アウルは体をステラに向けた。
「同じ願い事を唱えるなら、ただ見てるよりも自分でやった方が叶いそうな気がしない?」
言いながら手招きするとステラは首を傾げた。いいから来いと言われ小走りでアウルに近付く。
「えーっと……二枚持ってたっけかな?」
ズボンのポケットに両手を突っ込むと何か探し始めた。
「あった!」
ポケットから出された手にはコインが二枚。
「ほら」
ステラの手を掴みあげると手の平に一枚乗せた。
「これ、どうするの?」
「こうすんの」
もう一枚のコインを拳を縦にした右手に乗せる。
するとそのコインは親指に押し上げられ宙にあがると、後ろに反り海の中へ落ちた。
「前にスティングが何かの本だかで読んだんだってさ。これと似たような事すると願いが叶うって」
「そうなの?」
空を見ていた時のように真剣に聞いてくるステラにアウルは笑った。
「んなわけねーじゃん。スティングもそんな事ありえないって言ってたし」
あからさまにしゅんとしたステラに余計な事を言ってしまったと思っても言ってしまったものは仕方がない。
「これ結構難しいんだぜ?自分でできたら星より願い叶いそうじゃん?」
流れる星を見つけるのも苦労する。だがそれは偶然にしかすぎない。
アウルは星に願いをかけるのが何となく好きではなかった。
「やってみなよ」
アウルが促すと先ほどアウルがやっていたように拳を縦にしてコインを乗せる。
「あ……」
「へったくそー」
うまく乗せる事はできずコインは落ちた。
次は乗せる事はできてもうまく飛ばせない。
飛ばす事はできても後ろへと飛ばす事ができない。
そうこうしているうちに時間は経っていった。
「本当才能ねぇなー」
「ごめんなさい……」
「やってみなよ。次はできるかもしれないだろ?」
別に怒っているわけでも責めているわけでもないのに謝られ、口を軽く押さえた。
その手でステラの頭を撫でてやる。
「うんっ!」
笑顔で頷くとステラはコインを飛ばした。
アウルの時と同じように海の中へ落ちる。
「やったじゃん」
「うん!できた、ステラできた!」
「ちょっ……ぅわ」
嬉しさのあまりステラに抱き付かれ体勢を崩し背中から倒れた。
「いってー」
頭をさすりながら目を開けるとステラはアウルに跨がったまま海を見ていた。
暗かったはずなのに陽が昇りはじめ明るくなっていた。
「あのコインはどこにいっちゃうの?」
「海?願い叶えに沈んでいったんだよ。ステラが好きな海にさ」
ステラはしばらく動かず海を眺めていた。アウルも何も言わずにステラを見上げていた。
「アウルの願い事は叶う?」
「さぁ?」
「じゃあステラがアウルの願い事叶える!」
ステラの発言に驚くがすぐに笑って馬鹿とステラの額を小突いた。
「ステラが願い事叶えたかったんだろ?」
「うん、だから……」
ステラが言いかけると聞き覚えのある声が二人の名前を呼んだ。
「やばっ!スティングだ。ぜってぇー怒られる」
「どうして?」
「ミイラ取りがミイラになったから」
意味がわからなさそうにステラが見ているとアウルはどいてと言いながら起き上がった。
「逃げるよ、ステラ」
「逃げる?」
「いいからっ!」
アウルが差し出した手に手を重ねると二人は走り出した。
─目の前に星があるのに
流れる星を待つ必要がある?
なら僕はこの身を沈めて
願いを叶えよう
願いは自分でしか掴めないから
僕の願いは
僕の中にはないから
底から星を見上げて
願いを叶えるよ─
H17.10
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