晴れ過ぎた空


 


「いやに音が気になるな……」

自宅にて本を読んでいると部屋に響く音が気になった。
いつもは気にならない時計の音。
アナログ時計のため一秒一秒を刻むように音をたてる。

「……買うか」

始めは本に集中してしまえば気にならないと思っていた。
だがどうしても気になってしまう。
仕方なくデジタル時計を買いに外へと出た。

「暑いな」

強い日差しを手で遮りながら空を見上げる。
季節は夏。蒸し暑いし日差しは強い。
そのせいか目眩がした気がした。
体調は悪くはない。でも頭がふらつき足下がおぼつかない。
外に出なければよかったと思うがあの時計の音が聞こえない所ならどこでもよかった。

「公園で休むか」

通りかかった公園に入り芝生に体を寝かせた。眩しかったが瞳を伏せて眠りについた。


「っ……ここは?」

よく見知った場所。
でも今の自分がここにいるのはおかしい。
アークエンジェルの格納庫。

「もう終わったんだ……だからこれは夢」

自分に言い聞かせるように呟くと両目を伏せ、再び開いた。

「ラ、クス」

開くといなかったはずの少女が何かを見るように見上げながら佇んでいた。
近づくのをためらうが一歩、一歩と近づいていく。

「アスラン」

見上げていた顔をアスランに向けラクスは微笑んだ。
一瞬目の前が白くなり何も見えなくなる。目を薄目、ラクスを見た。

「また貴方に重さを与えるのはジャスティスなのですね」

ラクスは先ほどまで見上げていたものに目を向けながら言った。
アスランのそれにつられるように視線を向ける。インフィニット・ジャスティスがそこにあった。

「重さで身動きができない俺はもう戦わない方がいいと?」

再びラクスに視線を移し苦笑いを浮かべた。
機体を与えられた時も思った事。自分は戦場に出ても役に立たない。
そう言われた気がした。
それでも背中を押したのは彼女だ。昔も、今も。

「理由があればそれに囚われ、なければ彷徨う」

ラクスはアスランの方に視線は戻さず、ジャスティスを見上げたまま目を伏せた。

「難しいですわね」

見えない、彼女が。
見てくれない、彼女が。

「私もまた、囚われてるだけなのかもしれません」

ラクスの言葉が続く度にアスランはラクスから視線をはずし俯きかけていた。
だがその言葉で勢いよく顔をあげた。
見ていなかったのは自分。
見ようとしなかったのは自分。

「縛られて動ける時もあると今わかった」

アスランはラクスとの間に少しあった距離をなくし、ラクスを抱きしめた。
ラクスは驚き両目を開くが何かを言おうとはしない。

「ラクス……」

ただ名を呼ぶだけでそれ以上を言おうとはしなかった。
ラクスの両手が自分を抱きしめてくれるまで名前を呼び続けた。

いつしかそこにはないはずの音が耳に響いていた。
一秒一秒を刻むあの音が。
いつからかはわからない。でもそれは心地いいものだった。
何かが動き出したように刻むこの音が、止まらないように願った。


「ん……」

強い日差しの中、目を覚ますと眩しさのあまり目の前が眩んだ。

「アスラン」

名を呼ばれ、体から伝わる暖かい感触に気がつく。
髪に触れ優しく撫でる手、頭に感じる膝の感触。

「ラクス」

微笑む彼女の頬に手を伸ばし触れた。眩しくてもはっきりと見える彼女の笑みが嬉しくてアスランも笑んだ。

「びっくりしましたわ。アスランがこんな所で寝ていらっしゃって……倒れているのかと思いました」

心配そうに自分を見下ろす表情も嬉しくてアスランは笑み続けていた。

「音が……」

耳元であの音が聞こえ不思議に思い、音の方に顔を向けるとラクスの腕に時計がされていた。

「アナログ?」
「はい」

夢の中で聞こえてきたのはこの音なのだろうか。
一人、部屋にいた時はあんなに不快に感じたのに今はこんなに心地いい。

「アスラン?」

体を起こし背を向けて立ち上がったアスランに呼び掛ける。
アスランは振り返った。笑みは浮かべたまま。

「行こう」

そう言うとラクスに手を差し出した。ラクスはその手を見つめると手を取り立ち上がった。

「お買い物してもよろしいでしょうか?」
「もちろん」
「でもアスランも何か用事があって外に出られたのではないのですか?」

ラクスの問い掛けにアスランはしばし考える。
時計を買いに来た。
でももう必要ない。

「ラクスを待ってたんですよ」

そして手を握ったまま歩き出した。


その微笑みは
晴れた空のようで
眩し過ぎて見えない
晴れ過ぎた空のよう
見えないから強いと
壊れないと
思ってた
でもそれは見ていなかっただけで
本当は壊れやすいんだ
壊れないものなんて
ないんだから
止まっていた
時計が
刻み出した瞬間
どこかで聞こえていた音が
近くに感じる
刻む思いが
壊れないよう
止まらないよう
手を繋いで
離さぬよう
決して
離さないから
歩き続ける
この晴れ過ぎた空の中で

“晴れ過ぎた空
ボクらは無力でも
確かなモノを探し望み信じ育て続けてる
寄り添っていよう
柔らかな風の音に
眩しく輝くモノは
壊れやすいから
晴れ過ぎた空
ボクらは無力じゃない
大事なモノを愛し守り語り伝え続けるよ
変わることなく
いままでもこれからも
眩しく輝くモノが
壊れないように”



H17.8.19




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