『ラクス&ミーア編』
水に濡れた帽子をかぶったままシンくんは走っていました。
「そんなに急いでどうしたの?」
「う、わっ!」
声がした瞬間に何かに足をひっかけ転んでしまい、地面に突っ伏してしまいました。
「ごめんね、シン。そんな思いっきり転ぶとは思わなくて」
顔をあげなくてもシンくんには誰だかわかりました。ミーアさんです。
前方にいた事さえ気がつかなかったなんて、と怒る気力も失せていきます。
「大丈夫ですか?」
「は、はいっ」
上からの声に驚き勢いで顔をあげると、ラクスさんがシンくんに手を差し出していました。
後ろから差す陽のせいかいつもの何倍も輝いて見えます。
「あたしには返事なしなのにラクスさんにはするんだ」
「転ばせた本人が言うな!」
シンくんはラクスさんの手を借りて起き上がりました。お礼を言って頭を下げます。
「帽子が濡れていませんか?」
「あ、本当」
「えっ!?その……」
二人の視線は帽子へ。このパターンではまた逃げ出す事になってしまいます。
そんな事になっては二人に変な風に思われかねません。
ここでシンくんの頭の中には二つの選択肢が浮かびました。片方は“逃げる”です。
それでは今までと変わりません。
「あ、あの」
「はい?」
「変な事を聞くんですけど……もしも、知り合いとかに猫耳がいきなりつて目の前に現れたらどうしますか?」
いきなり自分の状況を説明する事ができず、シンくんはたとえ話で二人がどんな反応をするか見る事にしたようです。
「何で猫耳?」
「たとえだよ、たとえ!」
ミーアさんの疑問を打ち消すように言うシンくん。それが更に変に思われる要因だとは思っていないのでしょう。
「首輪をつけますわ」
「くびわ……?」
「それで膝の上に乗せて可愛がるわね」
「ひざのうえ……?」
シンくんの頭の中では二人が言ったまま、シンくんが可愛がられている図が想像されていました。
ちょっとそれはそれでいいかもしれないなどと思っているようです。
「シン、顔赤くない?」
「風邪でしょうか?濡れた帽子は取った方が……」
「い、いえ!大丈夫です!変な事を聞いてすみませんでした!」
何かを言う間を与えないように言い終えるとシンくんはまたもや走り去ってしまいました。
ラクスさんに邪な想像を知られたくなかったのでしょう。
「ラクスさんも意地悪ですね」
「私は聞かれた事に答えただけですわ」
「シンもさっさと言えば良かったのに……」
二人はキラさんとアスランさんに頼まれ、シンくんを探していたようでした。
そんな事とは知らず、シンくんはもはや遥か彼方に行ってしまいました。
book /
home