『カガリ編』


 


メモリからこれから電話をしようとする人を探し出す。

「あっ……」

歩きながら弄っていたせいで人にぶつかってしまい、携帯も落としてしまった。
謝ってから携帯を拾う。

「そんな……ちょっと落としたぐらいで」

画面は真っ暗だった。試しに電源を入れるボタンを押してみるけど反応はなし。
無意味だとはわかっても何度も押してしまう。

「携帯なら貸すぞ?」
「ど、どうも……え?」

差し出された手の主を見ようと顔をあげると、電話をかけようとしていた相手がいた。

「いえ、いいです」
「遠慮するな」
「……カガリさんにかけようとしてたんで」

言うのが恥ずかしくて視線を逸らしてしまった。
逸らしてからカガリさんの手には箱が持たれてるのに気がついた。

「誕生日プレゼントだ。おめでとう、シン」

俺の視線が箱にいったのに気がついたようで、カガリさんは携帯をしまうと箱を両手にし差し出してきた。
両手に持って丁度いいぐらいの箱。赤のリボンで綺麗にラッピングされている。

「今日はシンの誕生日プレゼントを買いに来たんだ。でもなかなか見つからなくて……」

ずいっと更に差し出されて、その勢いのまま受け取った。

「ケーキなんだ。やっぱり誕生日と言ったらケーキだからな!」

ケーキと言われると何となく箱から甘い匂いがする気がする。
ケーキというのはありきたりだけど、俺のために迷って探してくれたのが嬉しかった。

「ありがとう、ございます」
「いや……気のきいたもの渡せなくてごめん」

嬉しくて照れくさくてつい無言になってしまう。カガリさんも同じなのかもしれない。
しばしの沈黙のあと、俯き加減だったカガリさんが少し上を向いていた。
視線は俺の頭。そういえばどうも髪が風に靡いているような。

「うわぁあああ!?」

フードはいつの間にか取れていたようで、例の耳はむき出しになっていた。
隠すように両手で耳を押さえる。同時に何かが落ちた音がした。

「うわぁあああ!?け、ケーキがっ!?」

箱から手を離してしまいそのまま落下。中がどうなったか想像はできるがしたくない。
地面に膝をついて箱を手にしようとするけど、耳も隠さなければいけなく、片手は箱にもう片方は耳に触れていた。

「っ……あははははっ」
「カガリさん?」

そのままの姿勢で上を見上げるとカガリさんはお腹を押さえて笑っていた。

「フードをかぶればいいじゃないか」

呆然と見ていたら、ひとしきり笑ったカガリさんはフードをかぶせてくれた。
両手が使えるようになり礼を言って箱を持ち立ち上がる。

「すみません……せっかくもらったケーキなのに」
「いいさ。一緒に食べよう」

全く怒った様子がないカガリさん。それでも申し訳なくなってしまう。

「いいものも見せてもらったしな」
「うわっ」

いたずらっぽく笑うとかぶせてくれたフードを再びとった。
今度は驚いても箱を離さないように手に力を入れる。

「あれ?なくなってる」
「え?耳が、ですか?」

カガリさんが箱を持ってくれて、自分で頭を触って確かめてみる。
確かになくなってる。
いつの間にか現れていつの間にかなくなるなんて本当迷惑だ。

「耳がなくなってもシンは可愛いからな」
「は!?可愛いなんて言われても……」
「耳がなくなって残念がってるんじゃないのか?」
「違いますっ!」

そう言うとお互い笑っていた。
可愛いと言われてしまってもいいや。この人とこうして笑えるなら。だってそれが幸せだから。


H19.9.1



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