『レイ&ヴィーノ&ヨウラン+マユ編』
いざボタンを押そうとしても、真っ先に声が聞きたい人が思い浮かばなかった。
「……」
番号を押して電話を耳にあてる。しばしの無音のあと何度も聞いた言葉が流れた。
『おかけになった電話番号は現在使われておりません。もう一度お確かめになって』
アナウンスの途中で切った。何度確かめたって繋がるはずのない妹の携帯電話。
「マユ……」
寂しいのはこんな時でもマユの事を考えてしまうからなのか、誰にも言えない自分自身を悲観しているのか。
「シンー!」
聞き覚えのある声に無意識のうちに振り返っていた。
呼んだ声の主であるヴィーノは手を振り、その横にはヨウラン、少し後ろにレイがいる。
何も反応をせずにこちらにくる三人を見ていた。
「誰かに電話か?」
「別に……」
「俺たちにかけようとしてたのか?」
レイの視線と問いに逸らす事も答える事もできずに口ごもってしまった。
「まあそんな事いいじゃん。見つけられたんだしさ」
「言われてみればそうだな」
ヴィーノとヨウランが納得した様子に少し安心する。
「いいのか、シン」
わかっているはずがない。そんなはずはないのに、息が詰まる。
言わなければいけないと思う自分と、何を言えばいいのかわからない自分がぶつかる。
「相談……したい事があるんだ」
やっと絞りだしたのはそれだけ。目を閉じて勢いよく言ったつもりなのに、自分が想像したようにはいかずか細い声だった。
「知ってたよ」
「何で悩んでるかは知らなかったけど」
「え……?」
「いつ言ってくるか待ってたんだ」
あれだけあからさまに逃げていれば何かあるだろうはわかるだろう。短い付き合いでもないから尚更だ。
申し訳ない気持ちと嬉しい気持ち。
「泣くなよシン〜」
「泣いてないって」
涙ぐむ目を手の甲でこすった。
「とりあえず立ち話もなんだし行くか」
「ルナマリアとメイリンも心配してたぞ」
「そうそう、みんなで考えればどんな悩みも何とかなるって」
どこに行くのかと三人に聞こうとする前にレイが答えてくれた。
「シンの誕生日パーティーをするんだ」
「あ、そうなんだ」
気恥ずかしくて下を俯きかける。でもヴィーノの言葉で俯きかけた顔は俯く事はなかった。
「キラさんの家で準備してるんだ」
「……え?」
一番今行きにくい場所を言われてしまった。
一瞬逃げようかという考えが脳内をよこぎる。
「な、何で腕掴むんだよ」
「逃げっぱなしだからな」
「他の人の前からも逃げたって聞いたよ〜」
にこやかな顔してヨウランとヴィーノは両脇にくると腕をがっちり掴んできた。
さすがにもう逃げようとはしないけどこれでは歩きにくい。
「着いたら聞くからな。それまでに整理しておくといい」
「……うん」
先に立つレイにそう言われたら頷くしかなく。
「あれ?何の音?」
「アラーム音か?」
それは聞き覚えのある電子音。でも自分の携帯のアラーム音ではなく、マユの携帯のアラーム音だった。
「もうこんな時間か、ルナマリア達が待ってる」
レイが時間を確認すると二人に腕を掴まれたまま歩き出した。
今はもう鳴っていないアラーム音。設定した覚えはない。でも確かに鳴った。
それがまるでマユが背中を押してくれた気がして。
「あ、あのさ……」
着く前には説明し終わるだろう。そう思って口を開いた。
「シン、フード暑くない?」
「え、あっ!」
ヴィーノは親切からフードを下げたにすぎない。
でもタイミングが早かった。せめて説明し終えてからなら……と沈黙した三人の視線を感じていた。
「どうした?」
「え?」
何がどうしたというのか。
俺が答えずにいるとさほど気にせずに歩みは止まらずに目的地に向かっていた。
まさか…ない?
今まで何となくあった感覚がなくなっている。
「着いたぞ」
そしてあっという間に目的地へ着いた。
なくなったとはいえ、やはり言おう。
心配をかけてしまったのだから。
逃げ回ったにも関わらず待っていてくれたのだから。
H19.12.2
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