君から愛の嵐


 


「アスラン?ちょ、何でいきなり」

キラ宅。台所にてカガリと料理中のキラ。
そこへ呼び鈴も鳴らさずにアスランがやってきた。

「どうしたんだ、アスラン?っておい!」

カガリが持っていたボールをアスランは奪いとり中を混ぜ始めた。

「「あ、アスラン?」」

すさまじい気迫で混ぜるアスランに対し二人はおそるおそる声をかけた。

「う……」

すると混ぜる手を止め下を俯いた。

「ラクスと何かある度にうちに来るのはいいけど、わけを話してよ」



「アスラン、チョコはビターとミルクどちらがお好きですか?」
「チョコ……?」

突然聞いてきたラクス対しアスランは不思議そうに聞き返した。

「はい」

この笑顔から察するに何かを作ってくれるのだろうと確信したアスランは言ってはならない事を口にした。

「チョコよりお好み焼きの方がいいです」

笑顔で止まるラクス。つられて同じく笑顔で止まるアスラン。

「アスランの……」
「え?」
「ばかぁ〜!ですわ〜!」

絶叫しながら走り去るラクス。アスランはわけがわからずその場に立ち尽くした。



「バカだね……」
「本当お前ってバカだよな」

二人に“バカ”を連発され落ち込むアスラン。

「しかも何でお好み焼き……」
「ちょうどお腹がすいてて」

アスランの答えに呆れたようにため息をつく二人。

「「鈍感」」
「なっ!……」

アスランは二人の言葉に一瞬腹を立てるが反論できず無言になった。

「どうしてラクスが怒ったかわかったの?」
「……全然」
「じゃあ、はい」

アスランの答えにキラは笑顔でボールなどの調理器具をアスランに差し出す。

「な、何だよ」
「何もバレンタインは女の子からあげるわけじゃないんだよ」
「バレン、タイン?」
「今ごろ気づいたのか、お前」

カガリにそう言われアスランは放心したようにゆっくりと頷いた。



「アスランの鈍感鈍感鈍感!ですわ〜!」

ラクスは家に戻るなり叫んだ。
初めてちゃんとしたバレンタインを過ごせる。うかれていたのは自分だけかもしれない。
そう思うと悲しくて寂しくなってきた。

「はろはろ!ら〜く〜す〜」
「ピンクちゃん」

ラクスが落ち込んでいるのを察したかのようにピンクハロは元気よく飛び跳ねラクスを呼んだ。

「そうですわね、それがアスランなのですよね」
「はろはろ!あすらんだいすきぃ〜」
「はい!大好きですわ!さぁピンクちゃん行きましょうか」

ピンクハロを従えラクスは部屋を出て行った。



「ぷっ……」
「あはは」
「カガリ、耐えながら笑うな!キラ、バカにしたように笑うな!」

アスランは顔についた甘いものを拭いながら言った。それで二人が笑うのをやめるはずがなくアスランはエプロンを外した。

「大丈夫、ラクスなら喜んでくれるさ!」
「まるでラクス以外は喜ばない物みたいに言わないでくれ」
「ラクス以外にあげるつもりないくせに」

アスランの事がわかっているようなキラの発言。間違ってはいないので文句は言えない。

「頑張ってね、アスラン」
「あぁ、ありがとう」

礼を言うとアスランはキラ宅をでていった。

「……材料、アスランに全部使われちゃったね」
「あれだけ失敗してればなくなるだろ」

玄関までアスランを見送り笑顔のままの二人はぼそっと呟きあった。

「ここで落ち込んでてもしょうがない!カガリ!」
「な、なんだよ」

妙に意気込むキラに後込みするカガリ。キラは笑みをふくみながらどこからともなく赤い箱を取り出した。

「ポッチー、じゃなくて、ポッキー!」
「なんだよ、いきなり」

相変わらずわけがわからないと言ったカガリの反応を楽しむキラ。

「ふっふっふ。王様ゲームの定番をやるのさ」
「それとバレンタインにどんな関係があるんだ?」

脈絡もないキラの言葉にはてなマークが頭から消えない。
そんなカガリを横目にキラは握り拳を作り何故か天井を見据えた。

「バレンタインといったら甘い一時!ポッキー食いをしている時も甘い一時!てなわけでじゃ〜んけ〜ん」
「えっ、えぇ!?ほいっ!」

熱く語っていたかと思うと突然じゃんけんをやり出す。慌てて構えるが勢いにまかせて手を出してしまった。

「カガリの負け〜。はい、ポッキーくわえて」
「む……」

突然とはいえ負けは負け。仕方ないのでおとなしくキラが差し出したポッキーをくわえた。

「カガリ……」
「なんだよ」
「なんかエ……いたっ」

キラはカガリに殴られた頭を両手で押さえた。
カガリは真っ赤な顔をしながらポッキーを指さす。

「はやくふえ!(早く食え!)」
「あとで味わうからいいもん」
「なんかひっはか?(なんか言ったか?)」
「なんでも……じゃあ食べるよ」

ただならぬ言葉が聞こえた気がして聞き返すがごまかされカガリは唸った。
そうしているうちにキラがカガリのくわえているポッキーの端をくわえようと口を開けた。

「いたっ!何で逃げるのさ」
「……ひゃずかひぃ(恥ずかしい)」

くわえようとした瞬間カガリは後ろにひき、キラはポッキーをくわえ損なった。
隙を見て再度くわえようとするがなかなか隙を見せない。

「……今更逃げるなんて往生際悪いよ!」
「ひゃめろー(やめろー)」

いい加減しびれをきかせたのかキラはカガリの両肩を掴んだ。逃げようにもやはり力はかなわない。

「さぁバレンタインだよ、カガリ」

そう言ったキラの笑顔は楽しみを見つけた小悪魔かのようだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「はぁ……っ、よし」

クライン邸に来て5分経過。呼び鈴を鳴らせず立ち往生していたアスランは覚悟を決めた。

「……っ……ぶっ!」
「……?あらあら、まあまあ」

呼び鈴を鳴らさず強行突破しようとしたアスラン。
ノブに手をかけた瞬間力をいれていないのに扉が開き、扉が思い切り顔に激突した。

「アスラン?」
「ら、ラクス先ほどはすみませ」
「バレンタインですわ」

アスランが謝るより先に一つの箱を差し出されアスランはそれを受け取った。

「ありがとう、ございます」

貰えないとばかり思っていたものが渡され顔を綻ばせる。

「初めて作ったのでお口に合うかどうか……」

異様に平べったい箱。アスランはまさかと思いその場でラッピングをやぶり中をあけた。

「ハロ!?……平べったい」

中には平べったい茶色のケーキが入っていた。目や口などは白く書かれている。

「具は果物ですの平べったいはお好み焼きを真似て……」
「……」
「平らなケーキは初めてですの。ですから、きゃっ」

言葉の途中でアスランに引き寄せられ抱きしめられる。

「バレンタインはいい思い出がないから……だから覚えてたくなかった」

プラントにいた者にとってはいい思い出とはいえない“バレンタイン”。
ラクスはわかっていた。わかっていても……。

「“恋人の行事”をアスランとしたかったのです」

優しく言ってくれたラクスにアスランは泣きそうになるが泣かずに自分が持ってきた者を差し出した。

「これは……」
「バレンタインは女性からだけではなく男性からも何かあげていい行事だそうです。だから」

顔を赤らめながら言うアスランが可愛く感じラクスはアスランと同じくその場で箱をあけた。

「……」
「ラクス?」

先ほどキラとカガリに笑われたのを思い出しアスランは笑われるのを覚悟で呼びかけた。

「嬉しいですわ!!」
「うわっ」

ラクスに思い切り抱きつかれ後ろへ倒れそうになる。

「アスランが私のために……」
「そんな大層な物では」

ラクスはアスランの言葉を否定するように首を横に振り笑顔で言った。

「鈍感さんの頑張りですわ」
「誉め言葉ですか?」
「はい」

微妙な誉め言葉だがラクスの嬉しそうな笑顔と言葉でアスランは渡してよかったと思った。

「ではお茶にしましょう」
「そうですね」

二人が作ったお互いのバレンタインプレゼントを手にクライン邸へと入っていった。
アスランはラクスのハロケーキを。
ラクスはアスランのハート型チョコを。
嬉しそうな笑顔と共に……。


―バレンタインは二人の苦しい日
だけどいつしか苦しみは癒しが喜びへと変える
お互いの癒し
それが幸せ
あなたの“気持ち”
“恋文”と書かれた貴方のプレゼント
不器用で鈍感な貴方
時には率直に
私だけが喜ぶ癒しをください
私も貴方だけが喜ぶ精一杯の癒しを…―

―君への“気持ち”
だってバレンタイン自体が恥ずかしいだろう?
でも恋人だからこそ喜べる行事
だから率直に
君へと“恋文”を贈ろう
君は嵐
愛を優しく奏でる君だけど
俺が知らない俺を見つけてくれる
君の風で……
それは愛の嵐―


H16.2.14執筆物
H17.3.4加筆修正



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