夏と海と人形


 


「うーみー!!」
「わかったから叫ぶなよ」
「青春なのにシンはわかってないわね」

青春イコール海に向かって叫ぶというならあまりわかりたくない事だ。
ミーアは広い海を前にして砂浜に立っていた。
暑くなりはじめたもののまだ海に入る時期じゃない。
昨日はミーアの誕生日だった。その証拠にミーアの誕生日プレゼントを作ってできた傷は治っておらず、俺の指には絆創膏が貼られたまま。

「ほら〜シンわんわん、海だよ〜」
「変な名前つけるなよ!」

ミーアの手にはプレゼントした俺型マスコット人形耳付きがある。
いくら言っても聞かない事はわかってるから早々に諦めて俺は砂浜に座った。
吹きすさぶ風は冷たい。

「ミーア!?」

少しうなだれていた内にミーアは足だけ海に入っていた。
明るい笑い声が少し離れたここまで聞こえてくる。

「海の水もまだ冷たいだろうによくやるよ」

呆れつつも笑っている自分。あんなに楽しそうにしてるのを見てれば自然と笑ってしまって当然だ。

「転ぶなよ〜!」
「うん!わっ!?」

言った直後に転ぶなんて嫌がらせなのか。随分と身体を張った嫌がらせだ。

「そんな事考えてる場合じゃないっ」

立ち上がってミーアに駆け寄る。
尻餅をついたのか座りこんだ態勢のままでいた。ただし右手だけはあげて。

「シンわんわんは死守っ!」
「ばか」
「ひっどーい」

右手にはマスコット人形があった。確かに濡れていない。ミーアはびしょ濡れだけど。
足だけ入っていても結構冷たいのがわかる。早く引き上げないとびしょ濡れのミーアが風邪をひいてしまう。

「ほら、帰ろう」

手を差し出して、その手をミーアは取ろうと伸ばしたけどひっこめられた。

「ミーア?」
「いや」
「いやって……」

ミーアは自分で立ち上がって俺から少し離れる。

「風邪ひくって」
「そしたらシンに看病してもらう」

キラキラと水が反射してミーアの笑顔を照らした。

「何言ってんだか」

風が強くないからまだいいけど強く吹かれたら更に寒くなってしまう。

「こんな時期の海もいいでしょ?」
「は?」

ミーアが海に行きたいと言った時、理由を聞いても教えてもらえなかった。
ただ行きたい。
ミーアならそれが理由でもおかしくない。

「真夏の海もいいけど違う海も印象に残るでしょ?」
「まさかそれが理由?」
「うん!シンとの思い出はたくさん欲しいから」

前々からよく照れずに言えるものだと何度か思ったけど今もそうだった。
真正面でそんな笑顔で言われたらこっちが照れる。

「海一つでもたくさんの思い出って素敵だと思うから」
「海は大きいしな」

照れ隠しでそんなわけのわからない返答をしてしまう。

「そうよね。海ぐらい大きくできたらな〜」

海の方を向いて真顔で言われてしまう。
何度かその横顔が寂しくみえた。まるで限りがある事を知っているから急いているように。

「大きくじゃなくてたくさんなんだろ?」

近づいてミーアの右手を取って、掲げた。
右手に握られていたマスコット人形が夕日にあてられて少し赤みを帯びているように見える。

「こうやって増やしてくんだろ」
「うん」

ミーアの右手を握ったまま海を後ろに歩いていく。今度は嫌がらずにミーアは海から抜け出た。

「今度は暑い時に来ようね」
「真冬以外ならいいよ」
「真冬も行くの!」

そんな事を話しながら砂浜を歩いていく。ミーアが止まって海を振り返った。

「日差しが強くなるから帽子欲しいな」
「はいはい」
「何その言い方〜!」

再び歩きはじめる。
白い帽子が似合いそうだなと思いながら、握る手を強める。
マスコット人形が少し苦しいかもしれないけど我慢してもらおう。



H20.7.26



book / home