帽子も水も君がいなきゃ欲しくない


 


「シンの頭ってあたしより熱いのよね」

そう言いながらミーアの右手は自分の頭、左手は俺の頭に乗せられていた。

「だから帽子が欲しいの」
「え、自分のじゃなくて俺の?」
「うん」

てっきり自分の帽子が欲しいと思ったのに。
白い帽子が似合いそうだな、なんて思ったりもしてさ。

「いいよ、慣れてるし」

俺を見上げながらミーアは納得いかなさそうな顔をする。

「屈んで」
「何で?」
「い・い・か・ら」

強調して言われてそれ以上何も言えず屈んでみる。

「っ!?」

突然頭を掴まれたかと思ったら何かに押し付けられた。
視界が遮られても位置と感触から胸だとわかる。

「じゃあこうして日差しから守ってあげる」

もうそれどころじゃない。多分普通よりも大きいであろうミーアの胸が目の前に。むしろ潰されている。顔が胸になのか、胸が顔になのかは…どちらもか。

「ミーアっ」

くぐもった呼び声が響く。抵抗しようにも手はどこに置けばいいのだろう。
そうこうしているうちに頭を押さえている手が離された。
離れようとしてた反動で身体はそのまま後ろへ倒れ尻餅をついた体勢になった。

「帽子欲しくなった?」
「……なった」

何度か思ったけど、改めて恐ろしい彼女だと思う。
何が恐ろしいって、どうしたら俺が折れるか把握してるからだ。


“選んできてあげるから待っててっ!”

そう言って行ってしまい早30分。近くにあったベンチに座ってひたすらミーアを待つ。
照り付ける太陽が熱い。

「俺も一緒に行けばよかったかな……」

でもあの様子だといいから待っててとか言われそうだ。

「待たせてごめんね」
「ミーア」
「シン、顔赤くない?」

見上げるとミーアが申し訳なさそうな表情でペットボトルを差し出してくれていた。
受け取ろうと手をあげた、つもりだった。
顔赤い?と聞くつもりだった。

「シンっ!?」

でも視界は真っ暗で聞こえるのはミーアの切羽詰まった声。
柔らかい何かに抱き留めながら、俺は意識を手放した。


「ん……あれ」

けだるさに違和感を感じながら瞼をあけるとそこはよく見慣れた自分の家の天井だった。

「俺、どうしたんだっけ」

小さく呟きながら身体を起こそうとする。

「シン?」

部屋の扉が開いてミーアが顔を覗かせる。
俺と目が合うと慌てて部屋に入ってきて、起き上がりかけていた身体をベッドに戻した。

「よかった、目が覚めて」
「まさか俺倒れた?」
「うん」

ミーアは身体から手を離し、左手を両手で握ってくる。

「ごめんね。あたしがシンをあんなところで待たせたから」
「いいよ。あのぐらいで倒れるなんて情けない俺が悪いんだし」

俺がゆっくりと言うとミーアは段々涙目になって首を横に振った。
本当はもっと普通に話したいのにけだるさが抜けなくて、速く話せない。

「どこか入るなら携帯に連絡してねって言えばよかった」
「その手があったか……」

ミーアの手を握りしめて軽く深呼吸をする。
大丈夫だ。だいぶ体調も治ってきた。

「暑いなとは思ったけど、ミーアについてけばよかったとか飲み物欲しいなとかしか思いつかなかった」
「えっ」

いつのまにか気恥ずかしくて俺の視線はミーアから天井に移っていた。
ミーアが驚いたような声をあげるけど表情はよくわからない。

「あ、お水飲む?」
「うん」

起き上がろうとするとミーアが背中に手を添えてくれる。
でも俺はすぐに起き上がろうとするのをやめた。

「シン?」
「……飲ませてほしい」

こういうときに面と向かって言えたらいいのに。
悲しくも俺の顔は真上どころはミーアの反対を向いていた。

「口で?」
「聞くなよっ」

ミーアの笑い声が聞こえる。うまく伝えられないけど、俺は怒ってないとわかってもらえればいい。

「じゃあ飲ませてあげるからこっち向いて」

振り向く前にまた軽く深呼吸。
水を飲んだら言ってみよう。
帽子も水もミーアがいないなら欲しくないって。



H20.8.15



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