彼女の手でなら落ちないから


 


「この紐みたいなのが花火?」
「はい」

両肘をついて、テーブルに置かれた何本かの紐を見つめる。

「こんなのからあんなでかいのが空にできんの?」

目の前に座るラクスが紐を一本取り、てのひらに乗せる。
それをどこか懐かしいそうに見ながら話す出す。

「それは打ち上げ花火ですわね。これは手持ち花火で火は小さいのです」
「へぇ〜」

ラクスの手の中の紐を覗きこむ。こんな細い紐が花火なんて想像がつかない。

「小さくてもとても綺麗で……」
「で?」

言葉が途切れてラクスを見ると、ラクスは残りの紐を手に取り立ち上がった。
外に出るよう促されて外へと出る。


「あっち」

砂浜を歩きながら呟く。
風はあまりない。
陽が沈んで少ししてから出てきたから外は暗かった。
暗がりの海に目をやると月の光が反射して暗いのに明るい。前を歩くラクスの姿がはっきり見えた。

「このあたりにしましょうか」
「うん」

ラクスは紐を一本、僕に差し出してきた。それをおとなしく受け取る。
ラクスが屈んだので僕も屈むとラクスの手にはマッチがあった。いつのまに持ち出してきたんだろ。

「僕がやるよ」
「ありがとうございます」

手を出すとマッチ箱が乗せられた。
中からマッチ棒を出して箱で擦る。

「どこにつけんの?」
「先端ですわ」

難無く火がついたマッチ棒をラクスが少し掲げた紐に近づける。
火が移ったのを確認するとマッチ棒の火を吹いて消す。

「こちらから火を持っててください」

紐はすぐに火花を散らせはじめた。ラクスの言っていた通り小さい。
小さいし派手じゃないけど綺麗だった。

「アウル?」
「え?」

呼び掛けられて我にかえるといつのまにか火が消えていた。

「はやっ!」
「もう一番つけていただけますか?」
「うん」

予想外に火が消えるのが早いとは思いつつ、再びマッチ棒に火をつけた。

「今度こそ火を貰ってください」

火を消して、さっき貰った紐の先端をラクスが持つ紐の先端に近づける。
風は不思議なほどに吹いていなかった。
だからすぐに火は僕の持つ紐にもつく。

「落とさないようにするのがコツなんですよ」
「落とさないように?」

よく意味がわからなくて自分の紐を見ると火花が散りはじめた。
そのまま見ていくと何か丸くなっている。

「これ?」
「はい」

物珍しくてつい凝視してしまう。はっきり言って地味なのに見入ってしまうのは何故だろう。
ラクスの方を見るとラクスも僕と同じように火花に見入っていた。
二人分の火花に照らされたラクスの顔はやっぱりどこか懐かしんでいる感じがする。

「あ……」
「落ちてしまいましたわね」

僕の方が先に消えてしまい、光が弱くなった。
持っていた紐から手を離してラクスの手の甲に触れる。
唇が開きかけたところで照らしていた火は消えた。
消えたのが先か、唇に触れたのが先かはわからない。

「落ちないよ」
「アウル……?」

唇を離して、あまり顔は離さずに呟く。照らすのは月あかりだけ。
ずっとはっきりラクスの姿は見えている。淡いこの火花に照らされなくても見えている。

「この花火なんていうの?」
「線香花火ですわ」
「そっか」


綺麗だけど嫌いな花火。
好きだけど嫌いな花火。
そんなに急いで落ちないでと警告しないで。
僕は落ちないから。

彼女のこの手でなら落ちないから。



H20.7.29



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