海に免じて留めといてやる
それは食事中のただの雑談からはじまった。
「海好き?」
「うん、好き」
「ネオは?」
「好き」
ステラは食べながら笑って答える。少しもごもごさせながら答えるのが少し可愛いなんて思わない事もない。
「スティングは?」
「おい、アウル」
今まで黙って聞いていたスティングがさすがに口を出してくる。でももう聞いてしまったから遅い。
「好き」
「そ、そうか」
「じゃあ僕は?」
照れるスティングは放っておいて聞いてみる。
今まですぐに返ってきていた答えが返ってこない。
「何で首傾げんだよ!」
「落ち着け」
掌を思いきりテーブルに叩きつける。その音にステラはびくついた。
「おーちーつーいーてーまーすー」
「言い方からして落ち着いてないだろ」
我ながらムキになっていると思う。でもむかつくからしょうがないじゃん。
「アウル……怖い」
「はぁっ!?」
スティングに食堂から追い出されたのは言うまでもない。
「あれ、ステラ?」
気も少し鎮まった頃、通路を歩いていたら何となく元気がなさそうなステラを見かけた。
「アウル……」
「どうしたんだよ」
「海行っちゃいけないって」
昨日も行ってた気がするけど本当飽きるって事を知らないのかと思う。
「甲板に行ってくれば」
「いや」
「嫌って言われても知らないし」
しばし僕を見ていたステラの腕が伸びて上着を掴んでくる。
「何だよ」
「一人じゃだめって言われたの」
「それで来るなんて信じらんねー」
砂浜に佇んで途方に暮れる。日差しは熱いけど風は冷たくて気持ちがいい。
すぐ先には喜んでくるくる回っているステラがいた。
何が楽しくてそんな回ってんだか。
「一時間したら帰るからなー!」
「うん!」
靴まで脱いで海に入りはじめた。さすがに足だけなら溺れはしないだろ。
「アウル、アウル!」
「はいはい」
本当楽しそうでそんな返事しか返せない。
海は即答だったのに、僕は迷ったあげく怖いときたもんだ。腹が立つ。
「アウル、時間大丈夫?」
「戻ってくんのはえーよ」
まだ10分も経っていない。靴は砂浜に投げ出されたまま、ステラは僕の方へ戻ってきていた。
「海に連れてきてくれるアウル好き」
「……は?」
そんな笑顔で言われても反応に困る。
「じゃあ海に連れてこない僕は嫌いなんだ」
「嫌いじゃなくて、怖い」
「何が違うんだよ」
ステラが怯えているような表情をして、自分が苛立っている事に気がついた。
「アウル……わからないよ」
「こっちだってお前がわかんねーよ」
なんか引っ掛かる。
ステラは僕がわからないという。ステラが好きだと答えたのはわかるものだ。酷い事はしない。
とてもわかりやすかった。
「あははっ!」
「アウル?」
ステラに背を向けて笑い出す。おかしいだろ。
僕だってわからない。なのにステラはわかってないといいながらわかってる。
「ステラ、僕の事嫌いじゃないんだろ?」
「うん」
振り返ってきくとステラは不思議そうにしながらも頷いた。
「仕方ないから一緒に遊んでやるよ」
「海?」
「そっ」
ステラの手をとって海へと走っていく。ステラは海に入る頃には笑っていた。
「今のアウルは好き!」
「そうかよっ!」
軽く水をかけながら答えてやる。口には笑みを浮かべて。
今日はこの海に免じてこれで留めといてやる。
示せばいつだって聞きたい言葉は聞けるから。
H20.7.26
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