花火と文字と言葉と
「困った」
「何がだ」
おもむろに困った発言をした俺に、レイは特に同調する事もなく聞き返した。
「ルナマリアの誕生日が」
「明日だな」
人に言われると余計追い込まれる気がする。
さらりと言うあたりもしかして今日まで知らなかったの俺ぐらいなのか!?
他のみんなは実は知ってたのか!?
知らない俺も知られていたというのかよ!教えてくれよ!
「シン、責任転嫁はよくない」
「えっ!?」
「全て顔に出てるぞ」
頭を抱えていた両手で顔を触る。自分でわかるはずがない。
「今更焦っても仕方がない。とりあえず」
「とりあえず?」
「謝ればルナマリアも許してくれる」
「しばらく無視か殴られそうな予感がするけどな……」
何かいい案があるのかと思いきや、レイらしい提案にうなだれた。
もはや自嘲の笑みしかでてこない。
「ここで諦めればルナマリアは怒るだろう」
「だからって……」
誕生日は明日。しかももう夕方。今日が当日ではなかったのがせめてもの救いか。
「やらないで怒らせるより、やるだけやって怒られた方がいいよな」
「そうだな」
レイの笑みを見てやる気がでてきた。その勢いで思いきり立ち上がる。
「じゃあ行ってくる」
「素直に誕生日だって言えばよかったのに」
「だって覚えててほしいじゃない」
メイリンが少し呆れたように息を吐く。
「お姉ちゃんって意外と夢見がち?」
「あんたに言われたくないわよ」
腕を組んでそっぽを向く。机の上に置かれた携帯電話は無反応。明日の誘いはない。だから誘ってもいない。
「シンって他の事は意外とこなすけどこういうのは抜けてそうだよね」
「別にこなしてほしいわけじゃないし」
ただ覚えていてほしかった。たかが誕生日でも、自分の事を一つでもいいから覚えていてほしかっただけ。
ちらりと携帯を見ても反応はしない。もう少しだけ待たせてほしい。もう少しだけ期待させてほしい。
鳴らない携帯を私は握りしめた。
「っ……あった?」
走りながら携帯を耳にあてる。自分の息がうるさくて相手の声がよく聞こえない。
「ごめっ……いいよ」
立ち止まり、息を整えてから先を促す。
「今いる近くの店屋にあるそうだ。あまり売れないから仕入れは少ないそうだが」
「去年のとかじゃないよな?」
さっき言った店屋で見つけたと思ったら去年のだった。置くなこんな物と言い捨ててでてきたけど。
「それは行ってみないとわからない」
「そっか。ありがと、レイ」
レイの相槌を聞いてから携帯を閉じた。時刻は9時。もうそろそろ店屋も閉まる頃だ。
できれば今日中に探したい。夜じゃないと意味ないから。
「よし」
再び俺は走り出した。
「……ちゃん!おねーちゃん!」
「ん……なに」
寝てしまっていたのかと妹の声が気がつく。
机に突っ伏していた身体を起こすと何かが手から擦り抜けて床に落ちた。
下は絨毯だからさほど音はしない。
「誕生日おめでと」
「ありがと……」
寝ぼけ眼で立っているメイリンを見上げる。電気は点いてないのにうっすら明るい気がする。
「今何時!?」
「4時少し前ぐらい?」
日付変更線を過ぎているではないか。結局シンから連絡はなかった。でもまだ今日がある。
気付かなくても怒らない。少し悲しいだけ。だから何度も自分の誕生日を言ってやる。
「携帯光ってるよ?」
「え?」
落とした携帯をメイリンが拾いあげて言った。確かに点滅している。
メイリンから携帯を奪いとると慌てて開いた。
メールが一件。時刻は零時過ぎ。本文に一言だけのメール。
「ちょっと出てくる」
「怒っちゃだめだよ」
「怒らないわよ」
心の中で多分と付け加える。
怒るつもりはないけどそういう態度にはなってしまうかもしれないから。
「陽昇ってきたなー」
海岸沿いの歩道。手摺りに座って待ち人を待っていた。
結局あのあと色々あって連絡したのは零時過ぎになってしまった。
「ちょっと肌寒い」
汗はすっかり引いてノースリーブだから二の腕が余計冷える気がする。
「シン!」
待ち人であるルナマリアが走ってきてくれた。
俺の近くまで来て膝に手をあてて息を整えてから顔をあげた。
「朝からなによ」
「ごめん。で、何も言わず聞かずで目閉じて」
そう言っても素直に聞くわけがない事はわかっている。
「じゃあちょっと隠してて」
「ちょっと!あ……」
「何?」
ルナマリアの両手をとって目を隠させる。手を離してもルナマリアはおとなしくそのままでいてくれた。
「ずっとここにいたんでしょ」
「呼び出したんだから当たり前だろ」
袋から目的のものを取りだしてライターで火をつける。
「手、冷たかった」
「そう?」
実際冷えていた。手だけじゃなくて身体も。
でも陽の温かさで気持ちいいぐらいだ。次第に暑くなる。この涼しさは一時だ。
「できた!もういいよ」
ルナマリアは手を下ろして俺を見る。地面を指さすと視線も下りた。
「何、これ?」
「精一杯考えた結果」
「誕生日忘れてたでしょ」
「ごめん」
言い訳はせずに正直に謝る。
ルナマリアは怒っているようなそぶりを見せるけど、地面と俺とを交互に見ると笑ってくれた。
コンクリートの地面には花火の火で書いた文字。
もう薄れはじめている。
「花火は夜やるものでしょ?」
「意外と記憶に残るかもしれないじゃん」
花火を差し出すとルナマリアは受け取ってくれた。
「仕方ないから付き合ってあげるわよ」
そんな事言って嬉しそうだ。
「浜辺行きましょ」
頷くとルナマリアが先に浜辺へと翔ける。離れていく背中を見て気がついた。
肝心な事を言ってない。書いたけど言ってない。
「ルナマリアっ!」
呼び掛けるとすぐに振り返ってくれた。離れてもそばにいる気がするのはきっとこうして俺を見続けてくれてると思ってるから。
俺は思いきり息を吸い込んで書いた言葉を口にした。
「誕生日おめでとう!」
笑顔で花火を手にした手を振ってくれる。
彼女が来てから数分で身体はすっかり暖まってしまった。
H20.7.20
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