熱い頬と唇


 


夏といえば氷だ。

「シン、いいもの持ってきたんだ」

カガリさんは透明のカップをテーブルの上に置いた。

「シン?」

俺が無反応だからかカップから手を離して顔を覗きこんでくる。

「あっ!お前何か食べてるだろ!」
「はい。食べてたというより入れてました」

口の中が空っぽになり、ようやく口を開けるようになった。

「何入れてたんだ?」

反応しなかったからか少し怒ったように聞いてくる。
目の前にあるものを考えると言いにくい。

「言わないとこれは私一人で食べるからな」

どこから出したのか赤い液体の入ったビンを取り出し、蓋を開けた。

「どっちかというと今はかき氷よりソフトクリームが食べたいですね」
「知るか!」

赤い液体、もといイチゴシロップをカップの中に入っているかき氷にかける。
勢いよくかけ、勢いスプーンで混ぜる。しゃくしゃくといい音がした。

「お前氷食べてただろ」
「何でわかったんですか?」

手が止まり、不機嫌顔で見られてしまう。

「私もよくやったからな」
「暑い日は入れたくなりますよねー」

目線はかき氷に向けられしゃくしゃくという音が再開した。

「やらないからな」

気が済んだのかスプーンにかき氷をひとすくい。食べる手前で言われる。
先ほどまでと違うのは笑んでいること。

「そういえば何で一つなんですか?」

今になって気がついた。
カガリさんが持ってきたのは一つ。はじめから俺にくれるつもりだった?一つを二人で分けるつもりだった?
でもスプーンは見たところ一つしかない。

「それはこういうことだ」

スプーンはカガリさんの口に運ばれることなく、俺の口元に寄せられる。
自然と口が開きはじめた。

「でもやらない」

食べる寸前でスプーンはひっこめられた。
開いた口はそのまま。スプーンはカガリさんの口へ運ばれていた。

「そういうことははじめに言って下さいよ!」
「食べる時にやろうと思ったんだ。食べる前に言うなんて……は、恥ずかしいだろ」

スプーンを口に含んだまま照れるカガリさん。
そういう態度をされるとこちらが照れる前に食べれなかった事を悔やんでしまう。

「……どうしたらくれますか」

早々と折れてしまう。
これなら暑さを我慢して待ってるんだった。

「そんなに欲しいか……?」
「はい」

カガリさんはスプーンを口から離して考えるそぶりを見せる。スプーンが左右に揺れていた。

「顔をこっちに近づけてくれ」

欲しいならこっちからいけという事なんだろうか。
テーブルに両手をついてカガリさんに顔を近づける。

「あ!くれるんじゃないんですか!?」

二口ほどカガリさんはかき氷を掻き込む。その様子に期待が裏切られてショックを受ける。

「カガ……っ!?」

真面目な顔をしたかと思えば、顔が近づいて左頬に柔らかくて冷たいものが触れた。

「つ、つめたいだろ?」
「つ、つめたいですけど」

顔が近いまま二人して同じようにどもってしまう。それがおかしくて同時に吹き出して笑った。

「どうせなら口がよかった」
「ばかっ」

真っ赤になるカガリさんは可愛くて、これじゃすぐに熱くなっちゃうかなと思った。
俺の頬ももう冷たさはないから。カガリさんの唇も熱いだろう。

「じゃあ次は俺が口にしていいですか?」

少し時間はかかるけど、きっと頷いてくれるんだ。



H20.7.28



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