怖い話をする前に
こうなってしまったのはあたしのせい。
「蝋燭一本だとさすがに暗いな」
「それがむしろいいのですわ」
「火がキレイ」
暗がりの部屋であたし達5人は円になって座っていた。
カガリさんが蝋燭に火を点して中央に置く。ラクスさんはどこか嬉しそうで、ステラは喜んでいる。
「それで誰から話すんだ?」
「私はあまり知りませんからお聞きしたいですわ」
やっぱりどことなく嬉しそうなラクスさん。
ステラは何をするのかわかっているか怪しい。
「ルナマリアとか知ってそうじゃない?」
「し、しらないわよ」
隣にいるルナマリアに振ってみるものの顔を背けられた。あまり気にしてなかったけど一人だけ体育座りというのも浮いてる気がする。
「どういうものが主流なのでしょう」
「主流かどうかはわかりませんけどあたしが怖かったのはトイレですね」
「トイレで何かするのか?」
この様子だとカガリさんもこの手の話はあまり知らないみたい。
「自分でやるなら怖くないわよ」
ぼそりと呟きが聞こえた。さっきの言い方といい察しはついていたけどあえて何も言わない。
「でも上が吹き抜けのトイレなんて見た事ないから想像で怖くなっちゃっただけなんです」
「そんなに怖いのか?」
カガリさんが聞きたいような怖いようなといったふうに聞いてくる。
「じわじわ来ますから」
「そうなのよね……一気にくれば殴り倒せるのに」
口にださなければいいのに、再び呟きが聞こえる。もしかして本人も無意識とか?
「ステラも聞いた事ある」
「まあ、どうなのですか?」
「13日の金曜日に仮面つけた人がくるとかその仮面と誰かが戦うとか井戸から女の人が出てくるとか」
「それは何かの見すぎなような」
ここまで長く話すステラを見た事がなかったから珍しく思いつつ、一応つっこんでおく。それにあれは仮面というのだろうか。マスクだから仮面?
「あとは鮫が出てきそうで出てこないとか怪獣がいるはずなのに見えないとか」
「それは怖いけどホラーじゃ……って、パニック映画よね、それ」
「そういうのでいいのか?」
完全に勘違いしているであろうステラにつっこんでいるとカガリさんが聞いてきた。
違うと言ってるのに。隣の人が少し安心してきたようだからそのままにしておく事にする。
「皿の話とかあったよな」
「それなら私も知ってますわ」
二人は顔を見合わせて笑むと揃って口を開いた。
「「一枚たりな〜い」」
「いやぁぁあああ!!」
この雰囲気のせいなのか、はたまた二人の怖がらせるような言い方のせいなのかとてもいいリアクションの声が部屋に響いた。
叫び声のあとに蝋燭まで消えたから雰囲気はありすぎるくらい。
「電気、点けてよかった?」
「はい。ありがとうございます、ステラさん」
すぐにステラが電気を点ける。暗がりからいきなり明るくなって目がちかちかするけど、声色からラクスさんがにっこり笑っているのが想像できた。
「ルナマリア大丈夫か?」
カガリさんが聞いても返答はなし。
ルナマリアはあたしの腕にしがみついていた。
「大丈夫、だと思いますよ?」
ただ怖がっているだけだし。
カガリさんはそうかと言うと笑ってラクスさんの方へ顔を向ける。
「怖い話って楽しいな」
「はい、ぜひ他のかたともしてみたいですわね」
「蝋燭の火、綺麗だから好き」
目の前ではとても楽しそうに話す面々。そちらとは裏腹にルナマリアは相変わらずあたしの腕にしがみついたままだった。
「ど、どうしてこんなことになってるのよ」
「あたしがラクスさんに怖いものを聞いちゃったからかしら」
ルナマリアの独り言に近い問いに素直に答えると、しがみつく力が更に強くなった。
「怖い話って怖がる人がいると盛り上がるから……その、ごめんね」
悪気はなかったけど、謝る。そもそもこんなことになるなんて思わなかったから。ラクスさん達の反応も、ルナマリアの反応も予想外。
彼女達の次の犠牲者は誰なのだろう。あたしはその人にも謝るべきなのかしら。
怖い話をする前に怖いものを知ってしまった。
H20.7.27
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