重なる運命


 


1、2と数える。
早く数えても遅く数えても駄目だ。
心臓の音と合わさるように数える。
もしそれが他の人と合わさったら、ちょっとした奇跡だと思う。

その人のためだったら深い眠りについてもいい。


「アスラン」
「何ですか、ラクス」

夢から覚めたばかりのような感覚だった。
目の前にはティーカップ、そしてラクス。
これだけで彼女とのティータイム中なんだと瞬時にわかる。

「お疲れなのではないですか?」
「大丈夫ですよ」

おかしい。
いつもならすぐに状況判断ができてもこの状況なら慌ててしまうところだ。
ラクスと一緒だとどうにも調子が狂う。

「無理なさらないで下さいね」
「はい」

少し悲しそうな微笑み。何度も見た表情。何度もした会話。


「え?」

目の前が真っ暗になった。俺は目を開けている。
ならどうして何も見えないのだろう。

「ラクス……?」

スポットライトのようにどこからともなく一筋の光が俺を照らす。
目の前にはラクスもティーカップもなくなってしまった。

「羊が1匹、羊が2匹」
「羊?」

振り返るとそこにも光が。照らされていたのは先ほどまで目の前にいたはずのラクスだった。

「ラクス!」
「羊が3匹、羊が4匹」

椅子から立ち上がり呼びかけてもラクスはそのまま羊の数を数え続ける。
羊なんてどこにもいないのに。

「羊が11匹、羊が12匹」
「ラクス!……出れない?」

歩き出して離れてしまうラクスを追い掛けようとするが、何故か光の外へ出れない。

「普通スポットライトはついてくるものだろ!?」

そんな事を言いながら何としても追い掛けようと力いっぱい透明な壁を押すもびくともしない。

「羊が55匹、羊が56匹」

そこで気付いた。
ゆっくりと離れるラクスを見つめて、ラクスの声に耳を澄ませる。

「羊が59匹、羊が60匹」

ずれている。
俺の心臓が脈打つ数の方が速い。
そうはっきり気がついたと同時に今まで俺を見なかったラクスが振り返った。
一瞬だけあの悲しい微笑みを見せて、また羊を数えはじめてしまう。


“もし重ならなかったならどうするのですか?”


「羊が101匹、羊が102匹」

たかだか速いか遅いかなのに彼女と俺の時間が重なっていないような気がして、悲しかった。
だから焦り出した気持ちを落ちつけて声を出す。

「羊が103匹、羊が104匹」

彼女の声に合わさるように数えていく。
再び振り返ったラクスは微笑んでいた。そのまま俺の方を向いたまま羊を数え続ける。

「羊が111匹、羊が112羊」

それからしばらく数えているとラクスが手を差し延べてきた。
それを合図に俺は歩き出す。もう隔てていた壁はなく、光はついてこない。
暗闇を羊を数えながら歩いていく。

「羊が390匹、羊が391匹」

ラクスの手を取ると目の前が真っ白になった。正確には眩しいと感じて目が開けていられなかった。

「羊が400匹」

最後にラクスの声が聞こえ意識は落ちた。


「アスラン、起きられましたのね」
「あ……はい」

気がつくとラクスが俺の手を握っていた。
どうやらソファーに寝ていたようだ。

「突然倒れられましたから心配しました」
「すみません」
「お疲れなのではないですか?」

夢の中で聞いた言葉。
でも確かに現実でもあった言葉。
心配そうな表情で見つめるラクスの手を握りかえして、俺は笑んだ。

「最近暑くて夜寝苦しいんですよ。それで睡眠不足になってしまって。心配かけてすみません」
「では今夜は一緒に寝ましょう」
「え?」

ラクスはにっこり笑って俺の手を両手で包んで言う。

「眠れなかったら羊を数えましょう」
「……はい」

同じ時間を重ねるように、走る羊を数えながら一緒に眠る。
重なった時は運命だから。



H20.8.27



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