数えきれない思いを伝えて
「何で眠らないと羊を数えるんだ?」
就寝前のベットの上でカガリは突然そんな事を聞いてきた。
「眠れないの?」
「そういうわけじゃなくて……」
カガリの部屋から出て行こうとして掛けられた問い掛け。
僕を引き止めるためだというのはわかる。でも少し意地悪をしてみたくなってそう返してしまった。
言いたいのに言えないもどかしさからか枕を抱きしめて顔を埋めた。
「昔、僕も聞いたけどその時は駄洒落だって言われたね」
「駄洒落?」
ベットに腰かけるとカガリは顔を明るくさせて上げた。
「スリープとシープって一字違いでしょ?」
指で英字を空に描きながら言う。カガリをそれを追っていくと納得したように相槌を打った。
「実際誰が数えだそうなんて考えたのかは知らないけどね」
「でも数を数えてもらうと不思議と安心しないか?」
「そうかなぁ。数えて貰っても自分で数えても眠れなかったけど」
幼少時に夜更かしをして寝かしつけられる時に母親にそうしてもらったのを思い出す。
寝たふりをしてやり過ごした記憶しかない。
試しに自分で数えてみても気付けば朝だったなんてこともある。
「キラは律儀に数を数えそうだよな」
「向いてないのかな」
こういうのに向きも不向きもあるのかはわからないけど。自分には合わなかっただけだろう。
「よし!」
「うわっ」
気付いた時には仰向けになっていた。
僕を倒したカガリがしてやったりとにんまりと笑っている。
「私が数えてやる」
「そうして僕と朝まで過ごすんだ」
「違う!寝るんだ」
一緒に寝たいなら寝たいといえばいいのに、とは言わずになすがままにシーツを掛けられる。
「よし、数えるぞ」
「近くない……?」
てっきりカガリは起きたままなのかと思いきや、僕の方に身体を向けて寝ていた。
手は僕の腹に乗せられている。
「羊が1匹、羊が2匹」
数を数える度に乗せられていた手がポン、ポンと軽く叩くように動く。
まるで泣き止まない子供の背をあやすように。
「羊が50匹……って、目を閉じなきゃ駄目だろ」
「眠くないし。むしろムラムラしてくるし?」
カガリの方に顔を向けるとぺちんと頬を叩かれた。
少し赤い顔でやっぱり少し怒っていて照れているのが可愛い。
「じゃあ独り言でもいいから何か話せ」
「それ恥ずかしくない?」
「さっきの発言の方がよっぽど恥ずかしい。何も考えずに話してると何となく眠くなるはずだ」
「無理やりだなぁ」
とは言いつつ再び天井を見つめしばし考えた。
その間もカガリは羊を数え続けている。
「一日も何回も好きだなって思うんだ。真っすぐなのが少しくすぐったいぐらいでさ」
思い浮かぶのは色んな表情のカガリ。
はっきりとは口にはせずにカガリに聞こえるか聞こえないかぐらいの、本当に独り言のように呟いていた。
「だから引き込んでしまったようで後悔しかけたこともあった」
羊を数える声が中途半端に止まり、何かを言いかけたようだった。
「でもそういうことじゃないんだなって。好きだから。だから、カガリはカガリのままで」
“カガリも僕が好きだってわかるから嬉しいんだ”
その言葉は口にすることはなく、瞼は閉じた。
聞こえるのはカガリの声。
感じるのはカガリが僕に触れている手。
安心するテンポが心地よくてそのまま眠りについた。
「羊が400匹」
最後の声はそれだった。
その数の分だけ触れた手に思いを告げられたようで嬉しかった。
これから先数えきれない思いを伝えあうんだろう。
H20.8.27
book /
home