言葉は同じでも違うものになった


 


「それ前にも読んでたじゃん」

目の前にいるステラとスティングの視線がスティングが開いている本から僕に移った。

「仕方ないだろ、買いに行けないんだから」
「好きだから何度も読んでもらうの」

ステラはよく僕らの部屋に来てスティングに本を読んでもらっている。たいがいはよくある童話の類だ。

「じゃあ僕が読んでやるよ」
「アウル!」

乱暴にスティングから絵本を引ったくる。スティングの制止の声に構わずに中身に目を通してみる。

「やめた」

ばさっと本が床へと落ちた。
僕は馬鹿なわけじゃない。でも習っていない文字まで読めるほど頭がいいわけじゃない。……何語?とか思ってない、絶対に。

「だから止めたのに」

呆れた声が聞こえる中、ステラが本を拾いにきた。

「あ……」

ステラの手が本に届く直前で本を蹴飛ばした。
ステラは本の行き先を視線で追ったまま止まってしまった。

「アウル」
「いっ!いてーよ!」

スティングに低い声音で呼ばれてげんこつをされた。
頭を押さえて振り返るとスティングはステラを指さした。

「何だよ」
「お前が悪い」
「悪くねーよ、ハゲ!」
「ハッ!?」

そのまま勢いで部屋を出た。出る時にちらりと部屋の中を見るとステラが本を拾っていた。

「ばーかばーかばーか」

腹立だしくて少しでも鎮めたくて連呼する。通路をひたすら歩く足も心持ち速い。
段々と歩く速度が緩くなると共に口も動かなくなっていた。
でも腹が立つのは変わらない。
どうしたいかなんてわからない。でもずっとこんな気持ちなのも嫌だ。
だから来た道を戻る事にした。


「あ、本当に戻ってきたな」
「は?」

部屋のドアを開くなりスティングに言われる。
すぐにまた本を読んでいた事がわかり、部屋に入る。

「簡単なやつなら読めるし!」

そうだ、読めばわかる。スティングがやってるのに僕がやらないからこんなわけのわからない気持ちになるんだ。

「何をわけのわからない……ステラ?」

呆れた様子のスティングとは違い、ステラは立ち上がると隅に置いてあった紙袋を探り出した。

「ステラが読んであげる」

そして1冊本を取り出して差し出してきた。しかし僕が望んだ事とは違う事を言い出す。
だから僕が読むんだろと言い出す前に笑い声が聞こえた。

「何が面白いんだよ、スティング」
「いや、悪い。お前も読んでやりたかっただけか」

反論する前に“お前も”という言葉が引っ掛かった。

「アウル、座って?」

服の裾を引っ張ってきて座れと示される。

「アウルに読んでやりたくて一生懸命覚えたんだよな?」
「うん!まだ簡単なのしか読めないけど、面白いよ」
「……ばっかじゃねーの」

呟いて座った。そんな僕をにやにやしながら見るスティングに思いっきり馬鹿と言ってやりたかったけど我慢した。
ステラがもう読み出してしまったから。
何度も読んだのか表紙が少しくたびれていた。その本を嬉しそうに読んでくれるステラ。
興味なかったけど少しなら聞いてやってもいいかな。

僕は今日何度目かわからない馬鹿をもう一度呟いた。



H20.10.16



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