未完成手袋、不完全ロード


 


─今年はどうしようと思った─


「他の奴に頼るのもどうかと思うが……」

自宅の電話を眉間に皺を寄せながら睨む事1時間。
意を決して受話器を取り電話をかけた。
しばらくの呼び出し音のあと相手が出る。

「聞きたい事があるんだが今平気か?」
「貴様の話しなど聞きたくないっ!」

出た相手は案の定怒っているようだった。怒鳴ってばかりで疲れないのかと思う。

「イザーク、お前なら手作りの誕生日プレゼントなら何をあげる?」
「貴様に答える義理はない」

思わず言い返しそうになるがグッと堪え、無言を通す。
いつもと違うのに気付いたのかイザークは声のトーンを落とした。

「参考として言ってやる。実用的な物にしろ」

それだけ言われ電話は切られた。
遠回しにハロが実用的ではないと言われた気がするが気のせいという事にしておく。
受話器を一度戻しもう一度あげる。

「はい、もしもし」
「シン、聞きた……」
「嫌です」

言葉を遮られその一言。シンの場合何を言おうともこう言うだろう。
そしてイザーク同様無言の攻撃に出る。

「あっ」

相手がシンだという事を忘れていた。
受話器から無情にもツーツーという音が聞こえてくる。
嫌がらせに少し鳴らして切ろうかと思ったがもう一度かけ直す事にした。

「手作りのプレゼントなら何をあげる?」
「……自分で考えて下さいよ」
「シンの意見を参考にしたいんだ」

少し考えてるのか切ろうとしているのかわからないが無言の間を待つ。

「寒いからあったかいもんとかいいんじゃないですか?」
「お前にしてはまとも……あ」

つい口に出してしまい電話は切られた。
先ほどと同じように受話器を戻し再びあげる。
だが電話をかけるのに戸惑う。幾度あいつに遊ばれた事か。
また相談しようものなら今度はどんな目にあうか。

「電話終わったの?」

電話をかけようとした相手の声が、かけてもいないのに聞こえ大袈裟なまでに驚いた。
背後を振り返るといつものように少し笑んで余裕そうなキラがいた。

「勝手に入ってくるな」
「呼び鈴鳴らしたのに全然こないから入ってきちゃった」
「俺がいないとは思わなかったのか……?」

キラは答えなかったが俺がいるのはわかりきっているように見えた。

「そろそろ悩みだす頃だろうと思ったから来たんだよ」
「悩んでなんか……ない」

段々と声が小さくなりキラから視線をはずした。
我ながらあからさまな返答だ。これじゃあ悩んでるけど言いたくないと言っているようなものだ。

「そんなあなたに初心者入門〜」

と、言いながらキラは一冊の本を差し出してきた。

「……手編み初心者入門?」

画してラクスの誕生日一週間前のこの時から毛糸と俺の奮闘が始まった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「アスラン、お茶お容れしましょうか?……アスラン?」
「あっ、はい。お願いします」

ぼぉーっと両手を見ていたらラクスの声に気付かなかったみたいだ。変に思われたかもしれない。

「手、どうかされたんですか?」
「えっ!?えっと……最近は冷えるなーと思いまして」

ごまかし方が不自然だと自分でもわかる。でもラクスはにっこり笑ってお茶を容れた。

「冬ですものね。手先は冷えやすいですし」
「あっ」

ポットをテーブルの上に置くとラクスの両手が俺の両手を包んだ。
ポットを持っていたせいかやんわりと暖かい。いや、元から暖かいのだろう。
少し冷たい俺の手はその暖かさに触れて、自分の手の冷たさを実感した。

「ラ、ラクスの手が冷たくなってしまいますから……」
「そしたらアスランが暖めてくれますか?」

離れない手を見つめ、俺は恥ずかしさで下を俯きながら小さくはいと答えた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「だからそこはそうじゃなくて……」
「わかってる、わかってても」
「どう?間に合いそう?」

またもや無断で入ってきたキラに隣に座っていたシンはため息を吐いて見せた。

「手先が器用って言うよりは機械馬鹿ですね」
「やっぱり付け焼き刃じゃ駄目か〜」

二人の会話はそっちの毛で右手に持つ鍵棒を動かしていく。

「そもそも俺じゃなくてキラさんが教えればいいじゃないですかっ」
「僕鍵編み派じゃないから」
「お前ら少しは黙っててくれ」

悪戦苦闘。ラクスの誕生日が明日に迫っているにも関わらず、進みは遅く完成しそうにはない。
でもここで諦めなければもしかしたら奇跡が起こるかもしれないなどとどこかで思っていた。


「アスラン?」
「あっ、誕生日おめでとうございます、ラクス」

ラクス宅の呼び鈴を押し少しの待ち時間で寝かけていたらしい。
慌てて祝いの言葉を彼女に言い、薔薇の花束を手渡した。

「ありがとうございます。買い物をしたいので外出してもよろしいですか?」
「はい」

歩いてる最中もラクスが買い物している間もいつ渡そうかと、コートのポケットに入れている物を軽く握った。
ラクスならきっと喜んで受け取ってくれる。でも結局完成しなかった事には変わりなかった。

「アスラン、私渡したい物がありますの」

帰り道、ラクスがそう言うとその場に立ち止まった。
可愛い袋を差し出され受け取る。ラクスの顔を見ると微笑み、この場で開けていいのだとわかる。

「……手袋」

見ればわかる。手編みの黒の手袋。

「手を見てらしたので手袋を……と思ったのですが迷惑だったでしょうか?」
「いえ、嬉しいです。ありがとうございます」

今渡さなければ渡せない。たとえ不完全でも渡したい。

「いただいてもよろしいのですか?」

ラクスからもらった袋とは違い無地の白い袋を何も言わず差し出す。
差し出すだけでいっぱいいっぱいなような気がした。

「手袋……ありがとうございます、アスラン」

片方だけの白の手袋。何とか片方は形にできたがもう片方はできあがらなかった。
それにラクスからもらった物とは違いよれよれで使いにくそうだ。

「すみません……」
「何故謝るのですか?」
「片方しか渡せなくて……」
「素敵なプレゼントでとても嬉しいですわ。それに……」

俺の言った言葉にラクスは軽く首を横に振ると、片方だけの手袋を右手につけた。

「こうできて嬉しいですし」

俺の右手とラクスの左手が繋がれ、ラクスは笑った。
少し冷たいラクスの手と少し暖かい俺の手。その温度差が何となく嬉しかった。

「あっ、それでしたら……アスラン、右手の手袋を貸していただけますか?」

ラクスに言われた通り手渡すとラクスはその手袋を解き始めた。

「ラクス、何を!?」

止める間もなく解き終わり、呆然と見ている俺の左手に手袋をつけた。

「色違いの手袋みたいで素敵ですわね」
「……そうですね」

渡す前の不安はなくなり俺はラクスを見つめ微笑んでいた。
誕生日なのに貰ってしまったような……きっと彼女はそんな事は気にしないんだろうけど、申し訳なくなってしまう。
でもそんな気持ちにも俺を見つめるラクスの瞳が答えてくれている気がした。
再び手袋をしていない手を繋ぎ、俺達は歩き出した。


─わからない事はたくさんで
わかる事もたくさんで
いつ自分は完全を知るのだろう
いつ自分は完成するのだろう
でも不完全だからこそわかるものはたくさんで
完成していないからこそ違うものが見れる
それを教えてくれたのは君で
だから君に返したいとかじゃなくて
君だから何かを受け取ってほしい
今はまだ
素のまま歩いて
笑いあう
それでいいんだ
ゆっくりと歩いて
いつか走る時も
いつか止まる時も
君と一緒に……─



H18.2.5




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